case.9 双神分離伝説
第三のゾーン、“ボスゾーン”。
ここにはルシファルナが喚び出した、巨大な“破壊者”と“翻弄者”が一体ずつ君臨する。
どちらもレベルは110相当で、スキル『毒繰』を扱う事が出来る。
今さっき現れた帝王ゼリドと、その奇跡とも呼べる魔法の一撃により、俺の想定は大きく狂った。
もう少し第一ゾーンの“魔剣天来ゾーン”と、第二ゾーンの水堀の中の抜け道に躓くと……いや、むしろここで全滅するくらいには考えてたのだが、どうやら甘かったらしい。
俺はその途中で聞いた、【ハヌマーン様】という言葉に少し疑問を抱いていた。
この世界には、『双神分離伝説』という伝説があった。これは、双神と呼ばれた神……誰もが知っているであろうアダムとイヴの伝説を改変したような話だ。
アダムとイヴが、全ての始まりを司るとされているが、この世界ではそうではないらしい。
創造神アダム……コイツがこの世界の全て創り出し、世界の秩序を守ってきた。
逆に破壊神イヴ……コイツがアダムの創った物を全て破壊し、世界そのものを無に帰そうとした。そうして世界に混沌をもたらした。
二神の争いは長き時に渡って続き、やがて二神は配下として召喚した十二の神によって封印されたらしい。
その十二の神……十二神将の中には、この前の護王国シュデンで現れた【天空神ゼウス】の名もある。
そしてここからが本題なのだが、先程から帝王ゼリドが言っているハヌマーン、というのもその十二神将の内の一体に含まれているのだ。
【猿王神ハヌマーン】……これが正式名称。雷を司る、化け物のような形相の神。
もし、この神が復活しているのだとすれば、ゼウス時同様、また神と戦うことになるだろう。
もしかしたら、今もこうして……
なんて言っている場合じゃなかった!
そうこう考えている間に、第三のゾーンに突入した戦士たちが、数の暴力でボスを攻撃している。
「かかれ! かかれぇ! 数の力で勝てる! 我々は勝てるぞぉぉぉ!」
「ゼリド様をお守りするのだぁぁぁ!」
「ハヌマーン様の御信託通りに動くのだぁぁぁっ!」
マズイ……今度も押されてしまっている。
それに第一、第二ゾーン共に、誰一人として排除出来なくなってしまった。
その原因は恐らく、帝王ゼリドの使ったあの光のような魔法だろう。
あれが消えない限り、最初のゾーンで人を殺すことは不可能……だろうな。
「ギャシィァァァァァァァ」
「キュルルルルルルルルル」
気づけば二体とも、殺られてしまっていた。
無人になったボスエリア。そこを約10000の軍勢が勢いよく通り抜けていく。
そしてその一番後ろ……一人だけ優雅に歩く男が一人。
帝王ゼリド……だ。まさかこんな隠し玉がいたとは。
どうせ無能な王なんだろうと高をくくっていたが……愚考だったか。
「マズイな。残るは魔帝八皇の居る、四天王の間のみか……。まだ10000も数が居るのに……いけるか?」
最初はルシファルナの居る“蟲の間”。
無数の虫と、ルシファルナの言霊が敵を襲う、摩訶不思議な間となっている。
バトルフィールドとなる広間には、付与魔法で“火力弱体化”と“鈍行”、それに“気配遮断封じ”や“魔力半減”といったデバフ魔法を付与し、ルシファルナ以外の人全員にその効果がかかる。
とにかく……ここである程度削ってくれることを願うしかないか……。
『ルミナス様、どうやら彼らが到着するのはもう間もなくのようです。これより戦闘に入ります』
その時、ルシファルナからの通信があった。
俺はその言葉に、簡単に返事をした。
「了解、くれぐれも帝王ゼリドの力には気をつけてくれ。健闘を祈る」
『かしこまりました』
まだ、ゼリドの到着には時間を要するだろう。
うまいこと先頭部隊から排除していけば、だいぶ削れると思うが。
あとはルシファルナたちに任せる他ないだろう。
頼むぞ……。
■
あれから約10分、敵に動きが一切無かった。
どういう事か、説明しよう。
コイツら、ずる賢い事にゼリドの奴を待っていたのだ。ゼリドが到着する頃には、勿論先を走っていった戦士たちは全員ズラッと並んでおり、約10000の軍勢がルシファルナの待つ“蟲の間”の前に待機している状態だった。
これは、申し訳ないが俺も加勢する事にしよう。
流石にこの広さで魔帝八皇全員を呼ぶわけにもいかないから、俺とルシファルナである程度削って、残りは俺が一つずつ後退してその場その場にいる魔帝八皇のメンバーと共闘しよう。
そして最後に帝王ゼリドを叩く。それまでアイツの行動をどうにかしないといけない……が、まあなんとかなるだろう。
そうやって強がるしかない。だって見たことのない力を見せられたんだから。
『ルナティック城に居る全ての魔王軍に通達する。これより俺が前線に出て戦う。まずはルシファルナの所に向かうつもりだ。だが他のメンバー達は来るな。その場で待機……いいか? 帝王ゼリドの力は何かおかしい。 各自絶対に気をつける事だ』
俺は急いで通達する。
そして、
『『『了解』』』
という簡単な返事を受け取り、俺はルシファルナのもとへと転移する。
一瞬にして視界が切り替わり、そして気づけば隣にルシファルナが居た。
流石は転移魔法だ……とか関心してる場合じゃないか。
「ルミナス様……先程から仰ってる帝王の力というのは……?」
「ああ、それか。それについては俺も詳しくは分からない。だが俺の仕掛けた罠を悉く突破し、その全てに【ハヌマーン】の言葉があったんだ」
「ハヌマーン……十二神将の、ですか?」
「ああ、恐らくはな」
どうやら、博識なルシファルナはもうピンと来たらしい。
「と、いうことは……その力を使える帝王は……。そんな、まさか?」
「信じ難いが、恐らくそうだろう」
そう、俺達の考えはこうだ。
「―――猿王神ハヌマーンの復活……」
『双神分離伝説』によると、二神を封印した十二神将たちは、その信徒たちによって天へと還されたらしい。
要するに、崇拝する為に実物が居たらダメだということで、擬似的な再封印を施した、という事だ。
「それに、もしハヌマーンが復活してるのだとすれば……」
「ああ、本物のゼウス神や、その他残りの十神も復活している可能性がある」
確証はないが。
だがもしそうなのだとすれば、この世界の危機となるだろう。
現にこうして、神が人間たちを通じて俺たちを脅かしているのだから。
「だが、全ては帝王ゼリドに聞かないと分からない。まずはゼリドを無力化する。その他雑魚は殺して構わん。警戒対象もゼリドのみとする」
「了解しました。久しぶりに、本気を出させて頂きます」
そう言いながらルシファルナは、背中から弓を取り出した。
何も無い空間から、いきなり弓が……?
ああ、いやいや。そんな事でいちいち驚いてる場合じゃないのか。
と、いうかルシファルナは弓使いなのか?
「不思議な顔をされてますね。あはは、私の職業である“言霊師”は基本、言葉が武器なのですが、それだけではどうしても火力不足になってしまうのですよ。その為に魔法など、他の攻撃手段を得るために努力するのですが、私は魔法はできても、どうにも近接戦が苦手みたいで……。それで弓を覚えることにしたわけです」
「なるほど……と、いうことは『弓術』のスキルは?」
「もちろん持っていますよ」
よかった。
何はともあれ、これで全ての準備が整ったわけだ。
さあ、いつでもかかってくるといい。
帝王ゼリド……貴様からは聞きたい事が山ほどあるからな……?
覚悟しておくといいさ。
俺は、ルシファルナに合わせるべく新たに作った魔改造シリーズの弓を取り出し、広間の扉が開くのを静かに待っていた。




