case.6 『死』配
『いつもそうだ。“魔王”はいつだって、力を求めているんだ』
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「ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
何が、起きた?
アイツらは何をした?
俺はもう一度、『それ』を見返した。
しかし。
「なぁ……寝てるんだよな……? 早く起きろよ……なぁ!」
『それ』は動く気配が無かった。
さっきまで、無邪気に笑って、俺と旅をしていたのに。
絶対救うって、絶対守るって決めたのに。
なぜ俺は動けなかった?
いや、どうして動かなかった?
まだ、怖いというのか?
魔王になると決めたのに。
それなのに、俺は躊躇ったのか?
それともまた戦い方が解らないとか言い訳をするのか?
―――そもそも俺は一体どこで選択を間違えた?
徐々に視界が暗くなっていく。
俺は、どうすればいいんだ。
「寝てますよ、それ。まぁ、絶対に起きないですけどねぇ!? だって『永眠』ですからァ!」
「黙れ」
自分でも追いきれないほどのスピードで勇斗に近づき、そして手をかざす。
“魔刃”の構えだ。
しかし、撃たない。
「あれれ、殺さないんですか? それとも……“殺せない”んですかァ?」
「ッ……!」
まただ、またこの感じだ。
何故、撃てない。
何故躊躇う。
ゴミは掃除するだけじゃないか。
まさか勇斗たち(こいつら)がゴミじゃないとでも言うのか?
「撃たないなら、こちらから行きますよ!? 一之剣:剣閃!」
俺が動かないのをいい事に、向こうから攻撃を仕掛けてきた。
しかし、何故だろう。
その攻撃は、まるで止まっているかのように、遅く、とても遅く見えた。
(攻撃を防ぐ手段なら、ある)
そう。スキル『守護』。
消費SPは10。その効果は、
『対象に物理防壁・魔力防壁を同時展開する』
と言うもの。
俺はそれを発動した。
「『守護』」
ガキン、という斬撃音のみが響き、勇斗の放った攻撃は防壁によって弾かれた。
「チッ、お前らも殺れ!」
今度は、後ろに居たミミ(ゴミ)と真奈美も攻撃してくる。
「燃え尽きなさい。火炎!」
「死ん、で。屍鬼召喚」
広範囲の炎による攻撃魔法と、魔法陣から現れた3体のゾンビによる攻撃。
「二之剣:剣華」
正面からは勇斗の遅い攻撃。
「遅いんだよ。“魔刃”」
全方位に魔刃を放ち、攻撃の全てを切り裂いた。
「チッ、厄介だな!」
「本当ね」
「厄、介」
違う……。違う……!
足りない。もっとだ……もっとだ……!
どうすれば満たされる?
この胸に空いた大きな穴はどうすれば埋められるんだ?
『殺セ』
殺す?
『殺セ。殺セ。血ダ。血ダ!』
煩い。黙れ!
『殺セ。怒リニ、我ニ、身ヲ任セロ。ゴミハ、排除スルノミ』
ゴミは……排除……。
『ソウダ。オマエハ言ッタ。魔族ニ仇ナス敵ハ、ゴミダト。ゴミハ排除スルベキダ、ト』
そうだ……。俺は魔王だ。
―――魔族に仇なす敵は、排除する。
この際、俺の信念とか、そんなものはどうでもいい。
こいつらは……
『「殺す!」』
「雰囲気が、変わった……? おいお前ら、気をつけろ……!」
「“破滅の願い”」
俺は、震える声でその言葉を唱えた。
“破滅の願い”。その効果は、
『自らが叶えたい願いを、それに見合った代償を支払うと共に叶える』
というもの。
一度使えば、しばらくは使えないため、一種の最後の切り札のような物だったのだが、この際どうでもいい。
こいつらはこの技を使うのに見合う程の事をしでかしたんだ。
―――俺が望むのはただ一つ。
「ルイン……ッ! もう一度……もう一度俺のもとに来てくれッ!」
「ハッ、そんな戯れ言を言っている暇があったら……」
そう言う勇斗の目の前に現れたのは、一つの魔法陣。
「ま……まさか……?」
魔法陣から、角の生えた頭が見える。
「嘘、だろ? なぁ、お前ら! あいつは確実に殺したんだよなァ!?」
「ええ、殺したはずよ!」
「確か、に、死ん、だ」
会話の中、徐々にその全貌が明らかになる。
体……足……と徐々にその全貌が明らかになり、そして、光と共に、『それ』は帰ってきた。
「なら何故! 何故アイツがここに居る!?」
「あぁ……あぁ! ルイン……!」
その少女の名は、ルイン。
―――ルインが、帰ってきた。
ルインは、辺りを見渡し、やがてその目は俺を捉えた。
「主……様? 主様……! 主様ッ!」
「ルイン……! ルイン!」
俺たちは再会を喜び、抱き合った。
それだけで、心に空いた大きな穴は満たされるような感覚になる。
なのに……何で……。
嬉しいはずなのに。
―――涙が出ない。
「お、おい! 何呑気に抱き合ってるんだ!」
こんな俺たちを見かねた勇斗が突っかかってくる。
しかし、ルインは淡々とした様子で言った。
「主様、アイツ殺してもいいですか?」
その言葉を受けて俺は言ってやった。
「ああ、いいぞ。殺れ。逆襲開始だ」
ルインは俺から離れ、動き始める。
そんな中俺は、何を代償として支払ったのか、ログを確認した。
▶“破滅の願い”の代償として、『感情』を支払いました。
感情を……?
「おい、もう一度殺されたいのか!?」
「そんな訳ないじゃないですか。次に死ぬのは貴方たちですよ?」
俺が戸惑う中、ルインは攻撃を開始した。
「えっ……」
「ミミッ!」
ボトリ、とミミの首から上が切り落とされる。
「主様? そのゴミどうにかしといて下さい」
淡々と言い放つルイン。
しかし何故だろうか。全く、悲しくも辛くも無い。
これは俺が嫌っていた“蹂躙”ってやつじゃないのか?
「きゃっ……」
今度は真奈美の首が切り落とされた。
「お、おい! 何だお前! ち、近づくな!」
あっさりと人が死んでいく現状に、何も感じない自分が居た。
ルインは、何か大きく変わった気がする。
だが、それでも何も感じないのだ。
『感情』を失うとは、こういう事なのか……?
「主様! そこのゴミも一緒にお願いしますね!」
何も……何も、感じない。
でも、俺は動いた。
「任せろ。ゴミ処理は俺の専門だ」
(確か『死配』って……)
スキル『死配』の効果は……
『対象の死と、ありとあらゆる行動を操る』
という物である。
「この場合、ミミと真奈美にかければいいんだろうな。おい、勝手に死ぬなよ? 『死配』」
▶スキル『死配』を発動しました。
俺のスキルを受けて、ミミと真奈美の首無し死体がヨロヨロと立ち上がる。
「俺の駒と為れ」
「アハッ、次は貴方です」
俺とルインと、首無し死体2体が一歩ずつ、勇斗に歩み寄る。
「や、やめろ、来るな、来るなァァァ!」
「もう、終わりにしよう」
感情を失った俺には、もう躊躇う必要なんて無い。
「お前も、俺の傀儡となれ。『死配』」
▶スキル『死配』を発動しました。
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《Tips》
『死配』:死・精神・行動、「生」以外の全てを操る。
『憤激焉怒』:人格を持つスキル。『怒り』に身を任せる事により、ありとあらゆる能力を限界値まで引き上げる事ができる。使用者の性格は、『怒り』具合によって変化してしまう。
『守護』:対象を物理防壁・魔力防壁によって完全に守る。
『転生』:使用者が死んだ場合、記憶・持ち物・能力全てを引き継いだまま復活できる。
対象は自分のみ。
―――感情を失った魔王が目指す、理想の世界とは。