case.16 大賢者マーリン
割と長くなりました。
「驚きと共に死ね」
ピトリ、と背中に当てられた剣に力が込められていくのが分かる。
さて、こちらも動かないと……。このまま殺されてたまるか。
アーサーは、その大剣……確か聖剣とか言っていたか。それを俺の背中に突き刺す様に、グッと力を込めた。
俺は新たに得たスキル、『粘液複合体』の効果の一つである、『液状化』の能力を試す。
剣が溶ければいいのだが……
しかし、そう簡単には行かなかった。
ただ、ジュワッ……という溶解音が聞こえるものの、何故か剣が溶けることは無かった。
なら、俺の身体に『再生』と『吸収』、それに『液状化』をもかける。そしてその隙にアーサーと距離を取る。大丈夫。多分、今度は上手くいく。
そう思った俺は、急いで身体にスキルをかけた。
「何だ……コレは! 剣が……聖剣が吸い込まれていくッ!!」
どうやら、今度は成功したようだ。
原理はこうだ。
俺の身体……背中部分に『液状化』をかけ、ダメージが通らないようにする。そして、その状態が治るよう、『再生』をしっかり忘れずにかけておく。仕上げに刺し口に『吸収』をかけ、剣を離せないようにする。
その結果どうなったか。
アーサーは聖剣を手放し、俺から離れた。
「チッ、この私から聖剣を手放させるとはな」
アーサーが離れた隙に、俺も『液状化』をかけた部分に『再生』を重ねがけしながら、距離を取る。
「なるほど。流石は魔王ということか。だがその程度で……私から聖剣を奪った程度で勝ったと思うなよ?」
「そんなこと、全然思っちゃいないぞ……?」
何故かもう既に負けたような雰囲気を醸し出したアーサーだが、まだ秘策があるような素振りを見せている。
少し困惑した様子で応える俺だったが、やがてアーサーは、再び驚くべき事をしてきた。
「“聖王式眷属召喚魔法陣”」
そう、アーサーが言った直後だった。
「ッ……!?」
突如足元に現れたのは、人一人が立てるサイズの魔法陣だ。
俺や、サタール……その場に居たアーサー以外の全員が息を呑んでその魔法陣を見守る中、アーサーは不意を突いて攻撃を仕掛けてきた。
「あまり魔法陣に気を取られてもらっては困るぞ……ッ!」
完全に不意を突かれた。しかも、聖剣を拾われてしまったらしい。
俺は聖剣の突きによるダメージを再び喰らってしまう。
「グゥゥッ……」
「あぁ、先に言っといた方が良かったかな? その魔法陣から、奴が出てくるのには少し時間を要する。だからそんなに期待して見ていてもしばらく何も起こらないぞ」
奴、だと……?
俺は傷口に『再生』をかけながら、考える。
……あれ、というかこの『再生』のスキル。かなり強くないか。
などと、余計な事を考えもしたが、すぐにその思考を戻す。
奴、奴……奴か。思い当たるのはリガーテの話に出てきたマーリンという参謀だ。
アーサーがソイツを呼ぶという事は、今この状況を大きく変える可能性があるという事だ。
……早く、決着をつけたほうがいいかもしれないな。
「すまないが、本気でいかせてもらう。何やら怪しい雰囲気なのでな」
俺は、“魔鎌”を右手に、“魔剣”を左手に作りながら俺はそう宣言した。
「……私は、すぐに殺られる訳にはいかないのでね。時間稼ぎをさせてもらおう」
正直に時間稼ぎとか言いやがったな、コイツ。と、いうことはやはりあの魔法陣、アーサーにとって有利になるような奴が出てくるって事だよな。
それならソイツが出てくる前に、勝負を終わらせないと。
「大将、ベルゼリオの治療は終わった。俺も参戦しよう」
隣で、サタールが治療終了の報告をしてきた。さらにその横を見ると、ベルゼリオが落ち着いた様子で眠っていた。
「ああ、助かる。あの男……アーサーを止める。そしてレオン達を引きずり出す。」
今の目的を簡潔に伝えた。
サタールは、無言で頷き刀を引き抜く。
「行くぜ……」
「ああ。お前に合わせる」
サタールが構える。
小さな声でカウントダウンを始めた。
3……2……1……
「ゴー……!」
その掛け声と共にサタールは駆け出す。
それに合わせて、俺も回り込むように大きく旋回して走る。
「聖剣だかなんだか知んねェけどよォ! テメェがあのクソ騎士野郎をああした張本人だってなら、俺がテメェに同じことをしてやるよッ!」
叫びながら、サタールは斬りかかる。
が、アーサーはその手に持つ聖剣で軽々と受け止めた。
「無駄だ。私には勝てない。邪悪なる鬼なら尚更な」
「んだと……ッ! “真・飛剣”!」
サタールは進化した“飛剣”で攻撃する。
前回は“飛剣・改”だったもんな。さらに動きが速くなって、それでいて威力も上がっているように見える。
俺はそんなサタールの様子を見ながら“潜影”を使って、アーサーの後ろへと回り込んだ。
「お前のような愚王は、朽ちて当然の摂理だ。己の悪行を悔やみながら死ぬといい……ッ! “黄泉送り”ッ!」
鎌と剣の合技、“黄泉送り”。文字通り、相手を殺す技である。剣による致命傷を与えた後、鎌でその命を刈り取る、合技というよりかは連携技みたいな物だ。
ちなみに今さっき走りながら考えた技である。
アーサーは、もちろん“潜影”を使った俺に気づく筈もなく、俺の技によって死ぬと思っていた。
のだが……
「―――“賢者式完全防御膜”」
刹那、アーサーに対する全ての攻撃が通らなくなった。俺の攻撃が当たる直前に、その声がした。
と、いうことはその声がアーサーを守ったということになる。何だ……? 魔法か?スキルか?
それに、俺の聞き間違いでなければ、「マーリン」って言葉が聞こえた気がしたが……
「遅いではないか……―――マーリンよ」
ッ……!!やっぱり。
俺たちの後ろ、先程の魔法陣があった場所に、一人の老人が立っていた。
彼が、マーリン?
「おいテメェ……今コイツに何をしたッ!」
サタールは、その老人に向かって叫んだ。
老人は答える。
「賢者式魔法……その一種。完全防御膜を我が王に施させて貰った。その膜は、如何なる攻撃をも通すことは無い。その膜を破れるのは、我より高位の魔法使いか、もしくは神だけだろうな」
賢者式魔法……。さっき、アーサーの奴も聖王式って言葉を使っていたし……何か、オリジナルの術式があるのか……?
「遅れまして、申し訳無い。我が王よ」
「よい。して、この場に来たということは、もしや―――」
「はい。準備が完了致しました。いつでも実行可能で御座います」
何だ、何の話をしている。
「おい、サタール! 一度ソイツらと距離を取れ!」
咄嗟に、俺はサタールに指示を出す。
何か、嫌な予感がする。
「……ッ! お、おう!」
サタールはすぐさま後退し、俺の方へ飛んできた。
「フフフ……フハハハハッ! 魔王よ、今この時、全ての鍵は揃った」
「ピース、だと……?」
「ああそうだ。来い!」
アーサーは自分の後方に向かって声を上げた。
すると、そこからレオンとダレスが歩いて来ていた。
「ようやく、ですか」
「グルァァァッ!」
転生者……まさかッ!
「さぁ、始めようかッ! ―――主神降臨の儀を!」
やはり……ッ!
気づくのが、一歩遅かったか!
「畏まりました。“賢者式儀式術『降臨』”」
俺が思考を張り巡らせている瞬間の事だった。
「なっ……何だコレは……ッ!」
俺の身体が、宙へ浮き上がる。
それに、俺だけじゃない。
「うわ……うわわわっ! 何を、何をしている!」
「ウガッ……ウガガガガガ!」
レオンとダレスも同じく、浮かされていたのだ。
そんな浮いている俺たちに、アーサーは言った。
「貴様らはこれから、ゼウス様降臨の為の生贄となるのだッ! 偉大なる存在、5つ集めるのに苦労したぞ……。マーリン、始めてくれ」
「ハッ。『偉大なる存在よ……その魂を喰らい、我らが主神よ、降臨なされ……!』」
そう、マーリンが言った時。
身体が引き裂かれるような痛みに襲われた。
そしてそのまま、空に現れた5つの魔法陣にそれぞれ張り付けられていく。
そこで俺は、驚かずにはいられない物を目にしてしまう。
「そんな……嘘だろ……ッ!? ルイン! アスモフィ!」
それは、俺とレオンとダレスだけでなく、調査に出ていた筈のルインとアスモフィが、俺たち同様、宙に設置された5つの魔法陣へと繋がれていたのだった。
何もしてないのに、殺されているルインとアスモフィ……一体、どういう……




