case.1 絶望
第4章開幕―――
俺は、目を覚ました。
長い長い眠りから。
不思議と疲れてはいない。
涙が、流れていた。
何故だろうか。
理由は一つも分からない。
俺は寝ている身体を起こした。
ふと、隣を見るとルインが居た。
ルインも涙を流していた。
「どうして、泣いている?」
俺はそう問う。
「分かりません……」
俺と同じ理由らしい。
理由が分からない。だけど泣いている。
それは何故だろうか。
その時俺やルインのように、隣で寝ていたマノン、ムルも起きた。
すると、リガーテたちが勢い良く視界に飛び込んできた。
その時に、その話を聞いたのだ。
アスモフィが消えたという、衝撃の話を。
「何故……止めなかった」
俺は思うように怒れなかった。
悲しくもなかった。
感情が無いからだろうか。
いや……寝起きだからというのもあるだろう。
しかし、聞かずにはいられなかった。
「我々も、まさか焉魔法を使うとは思わず……!」
「申し訳ない……です」
「そうか……焉魔法を。分かった。お前たちは何も悪くない。だから顔を上げてくれ」
深く、深く頭を下げていた2人は、その顔を上げる。
「アスモフィが、命を賭してまで繋いでくれたこの命……。絶対に……」
「あ、あの。アスモフィ様は死んでない……みたいですよ」
リガルテはそう言った。
「死んでない……だと?」
「はい……。確かに消えはしました。ですが、消える直前、私は死ぬ訳じゃないって言ってたんです」
んん?どういう事だ?
寝起きなせいもあって頭がうまく回らない。
「そうか、死んでないのか。ならいい。またひょっこり現れるだろう。……それで一つ聞きたいのだが、サタールとルシファルナは何処に居る?」
「あの2人なら……何か思い当たることがあるって言って何処かへ行ったっきり、帰ってこなくて……」
思い当たること……。
そうか……そうか……。
しかし困ったな。2人と連絡が取れないなんて。八方塞がりじゃないか。
「これから……どうするか。状況は最悪だ」
俺は歩きながら考えた。
もちろん、魔帝八皇を集めるのは最優先事項だが、手がかりが全くない。
さて……どうするか。
「あの、魔王?」
「ムル……どうした?」
「あの、この子、魔帝八皇なんでしょう?」
そう言いながらムルは、マノンを指差した。
「おう……!」
マノンはそれに答えた。
「でしたら、他の魔帝八皇の方と連絡が撮れるのでは?」
「確かに。どうなんだ? マノン」
「……さっきから試してるが、中々繋がらねぇ……」
そうか……。これで、完全に八方塞がりだな……。
何だよ……。せっかく国作りを始めようと思っていたのに……。
「誰か……誰か居ないのか……?」
俺は考える。頭がパンクしそうだ。
何か……何か情報があれば……!
「魔王。情報なら、ある」
「……ッ!」
突如、空から声がした。
今までに聞いたことのない声だ。
そしてその声の主は、目の前に一瞬で現れる。
「手短に話す。私は前代の暗殺者枠。名をナキリと言う」
「ナキリ……。情報とは……何の情報だ?」
「現在の魔帝八皇の所在についてだ」
……ッ!今、今俺たちが一番欲しい情報じゃないか!
「それをまとめた紙を貴様にやる。上手く使うといい。それではさらばだ―――」
そう言い残して、ナキリと名乗る人物は消えた。声的に女だとは思うんだが、全身に黒いローブを纏っていて、体つきは分からなかった。
「主様……これが」
ルインが、落ちていた紙を俺に渡してくる。
これが、魔帝八皇の居場所をまとめた紙……。
俺はそれをゆっくりと開く。皆は、紙を凝視していた。
「『【色欲】【憤怒】【傲慢】は同じ場所に。転生者の特異スキルによって支配されている。場所は“無法都市ムウラ”だ。レヴィーナとルヴェルフェとベルゼリオは分からない。調べる時間が無かった。許せ。ちなみに、【色欲】が消えたのも、転生者のスキルによるものだ。くれぐれも気をつけたまえ。』」
目の前に光が広がるのが分かった。
良かった、一応無事なんだな。
しかし転生者ときたか……。久々に聞いたな。
勇斗たち以来だろうか。
「よし……俺はこれに書いてある通り、無法都市に向かおうと思う」
「ですが……あのナキリって人が信用できる人間かどうか、分からないですよ!?」
ルインは、心配しているのか俺に訴えてきた。
だが……
「すまない、ルイン。情報がこれしかない今、たとえ罠だろうと信じるしかないんだ。行くしかないんだ……」
「……。分かり……ました。私もお供します。絶対に主様を守ってみせます」
変わったな……ルイン。
何というか、逞しくなったな。
「それじゃあ、私は……そうですね……海底に帰りますわ。ついでに、海上に国を作れるだけの土地を作っておきますわ」
ムルは帰るみたいだ。
だが、何かすごいことをサラッと言った気がする。
「えっ、ちょ、土地をつくる?」
「ええ、どうせ国を作るんでしょう?」
「あ、ああ。そうだが」
「なら土地は必要じゃない。私がやっておきますわ」
……願ったり叶ったりだが、こんなにスムーズにいくなんて。まるで意思疎通が完璧な夫婦みたいじゃないか。
「うふふ、楽しくなりそうですわ」
そう言いながら、ムルは消えた。転移魔法だろうか。
「我々はどうすれば……?」
「お前たちは、このまま魔界に残って、ここを守っていてくれ」
俺は残ったリガルテたちに指示する。
ここを誰も居ない状態にするのはマズイ気がするからな。
「わ、分かりました。どうかご無事で……」
「ああ」
そう言ってリガルテたちも、建物の外へと出ていく。
彼らは騎士だから、問題なく戦力になるだろう。
「よし、俺たちも行くか」
「はい!」
何事も無かったかのように、出発する俺たち。
心のわだかまりは取れないまま、俺たちは行動を開始するのだった。
活路が見えてきました




