2.全員の授業
「あの子達は勉強が出来ないからね…
何か世渡りの術を教え込まないと
何処かで野垂れ死ぬよ」
早朝、【幻獣】のマドが開口一番言い放った。
「計算は別に出来なくて良いけど」
「一応僕らの特技を教えた方が良いかも」
「学校みたいにか?」
「そうそう」
アニマとアーラはどうやら
足し算も読み書きも分からないようなので、
せめて読み書きと4人の特技を教えた方が良い。
そのような結論が出た。
【聖女】の聖術に【幻獣】の裁縫、
【詐欺】の詐術に植物栽培、【冒涜】の武術体術。
これだけ教えればあの2人は
相当面白いことになるかも知れない。
かくして、空き部屋となっていた
「精神矯正室」
で4人の授業を交代で行うことにした。
少し喋るようになって来た
妹のアーラは【幻獣】の裁縫を専攻、
アニマは【冒涜】の武術を選んだ。
他には、週2日で【詐欺】と【聖女】の授業だ。
カッカッ、とチョークで【幻獣】の
マドが黒板を指差す。
「取り敢えず、玉結びから練習しましょう」
1時間の授業は最初は基本的な物から、
段々レベルアップして行った。
最初は玉結び、なみ縫い返し縫い、
最初はコースターなどの簡単な
物から作り始め、
ミシンの使い方もアーラは進んで
覚えた。
糸の挟み方、操り方、動かし方など。
「【幻獣】のお姉さん、枕カバーが出来ました」
1ヶ月後。
アーラは驚く程上達していた。
眼を見張る程細かい樹々の模様が
繊細に描かれ、まるで生きているかのように
見える。
褒められて誇らしげなアーラは、
早速自分の枕カバーを取り替えた。
一方、【冒涜】のカノと【詐欺】の授業を受けている
アニマはというと。
「まずは、この藁人形を
この道具で取り敢えずバラバラにしろ」
与えられたのは、一本のドライバーだった。
刃物でもない限り藁人形を壊すのは無理があるのだが、
まずはお手並み拝見と言う事でカノは
渡して見たのだ。
カノはあらゆる体術、武術、護身術、暗殺術の達人。
こんな物ならば瞬きする内に粉々にできるが、
一般人ではそうはいかない。
アニマ、最初はざくざくと刺すだけだった。
しかしそれだけではバラバラに出来ない。
そして闇雲に刺し続けるうち、
あることに気がついた。
十字に刺せば、中央から
一気にバラバラにできる。
授業を受け始めて、3日だった。
後はもう簡単。
手慣れた様子で早々と藁人形3体を
倒したアニマは、次の課題は
何かとわくわくしていた。
だが、楽しい時間は直ぐに終わる。
代わりに、微妙な【詐欺】の授業がやって来た…
「じゃあ今日は、簡単な品種から育ててみよう」
【詐欺】のハルが手懐けているのは、
魔物の一種である「食人植物:多肉植物ver」だ。
品種は様々、葉を平たく大きく広げる
「セダム」や優雅に葉を上げる「エケベリア」
などが有名だ。
「そうだねえ、まずは慣れることから始めよう」
ハルの胸ポケットから出て来たのは、
まだ赤ん坊のセダムだ。
アニマを威嚇しているのか、
小さな細い声を発している。
「この子はセダム、孤児なんだよ。
両親は凍傷でやられてしまってね…
もう何年も僕について来てくれたから」
だがしかし、とハルは続けた。
「食人植物は非常に生命力が強い。
この子の親戚は10匹以上居るんだよ」
手のひらにそっとセダムを乗せると、
セダムはますます抵抗した。
しかし宥めるように優しく撫で続けると、
自然に大人しくなって行った。
「おおっ、これは珍しい。
セダムはあまり人に慣れない品種なのに」
今日の授業はこれで終わりだ、
と言われた。
ペットを得て上機嫌な
アニマは、図らずもこの時点で
国を征服できる程の戦力を持っていた。
本人は知らないが、セダムは
生命力が異常に強く、それでいて凶暴だ。
金属であろうと肉であろうと
何でも喰いちぎってしまう。
予想外の事態に【詐欺】は驚くも、
愉しくなりそうだと笑っていた。
それから次は【聖女】のキユの授業だ。
「まずは、この薬を一息で飲み干してくれない?」
ちゃぷちゃぷと揺れる
不思議な水の入った小瓶を、
キユが揺らす。
恐る恐る受け取った小瓶を口に近づけ、
指示通り一気で飲み干す。
その瞬間、頭がぽうっとして、意識が朦朧とした。
ふらふらと崩れ落ちたアニマを、
キユが椅子に座らせる。
「これは【詐欺】の製造した「身体改造の劇薬 ver聖力」
飲むと聖力を使えるようになる劇薬」
でもその代わり、副作用もあるんだけどね…
と残念そうに【聖女】のキユは笑った。
「この薬で意識を失えばあなたは
聖力を扱えない、でも耐えれば聖力を使える」
聖力は元々、神に選ばれし者しか扱えない力だ。
それを無理やり常人に与えようとするのだから、
副作用の1つや2つあっても当然。
「アニマは耐えられるかな?」
その一言で、さっと眼が覚めた。
歯を食いしばって、意識を失いそうになるのを耐える。
そして数分後…彼は聖力を扱えるようになっていた。
「これで第一の試練合格〜♪」
授業が終わり、やっとの事で
ベッドに戻ったアニマは直ぐに寝てしまう。
「残念だねえ、やはりこの子は…」
【詐欺】【幻獣】【冒涜】の3人が2人の寝顔を見て、
残念そうに溜息を落とした。
【詐欺】:残念だねえ、まだブックマークが無いとは
【冒涜】:ブックマークよろしく