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1.屋根裏部屋から飛び出て

ここ、賭博邸ではそれぞれの業務が決まっている。

【聖女】のキユは掃除、洗濯。

【幻獣】ことマドは郵便ポストの見回りと

果樹園の手入れ。

【詐欺】のハルはお茶菓子と茶淹れ、

植物園の水やり。

【冒涜】のカノは邸の改装と地下室作りに

雑草抜き。

若干カノの業務が多いように感じるが、

地下室を作れるのはカノしかいないのだから

仕方がない。

取り敢えず本日の業務を済ます為にも

屋根裏部屋を掃除しに行った

キユは、予想外の埃の量に呆れながらも、

箒と掃除機を持ってヴォンヴォンと

埃を吸い取り始めた。

ハルの部屋から溢れ出た奇ッ怪な所蔵品、

マドの編んだ明らかに失敗作な

毛糸のクズのような物体、

カノの使ったサッカーボール。

ここ数年見ていなかった品々が

まだ保存されていると思うと、

少し感動するぐらいだ。

クイックル・ワイパーで隙間のゴミを取った後、

何か違和感を覚えることに気づく。

そして古い陳列棚をさっと退けると

そこには…何の変哲も無い壁があった。

全く私の察知能力も衰えたものだ、

と自嘲気味に呟いて壁に寄りかかると、

なんと壁が反転した。

さながら忍者屋敷のように、

くるりと壁が回って隠し部屋が現れたのだ。

その中には、必要最低限の部屋が整えられていた。1

小さなキッチン、トイレと一緒になった

風呂、冷蔵庫、毛布。

その中には、7歳に満たない小さな兄妹が

身を寄せあうようにして座っていた。

「あ、あんた誰だよ!」

こっちのセリフである。

「私はキユって言うんだけど…

まあ良いや、取り敢えず皆に見せに行こう」

ピシッと何かが裂けるような

音がして、キユと兄妹は一瞬で

リビングに現れた。

「これはこれは…小さな来客が」

【詐欺】のハルも思わず立ち上がって

驚いている。

「お前らの名前は何だ?」

膝が震えている兄は、やっとの事で

「ねえよ!とにかくここから出せ!」

と叫んだ。

「別に出ても良いけど…死ぬわよ?」

玄関の扉を開けるとそこには何も無かった。

ただひたすら、暗い物が広がっているのみ。

ここは時空の狭間、賭博邸。

中は快適だが、一度外に出れば

外には何も無い。

それは「理解する」「理解しない」の

問題では無い。

取り敢えず、兄妹は

腰が抜けてしまったようだ。

「ここにどうやって入ったのかな?」

4人は賭博邸に何年も住んでいるが、

あんな隠し部屋があるとはちっとも

知らなかった。

監禁中の看守も知らないだろう。

「口を割らないんだったら俺が強制的に」

斧を取り出したカノの手を、

ハルが軽く引っ叩く。

「しょうがないねえ、朧月!」

カシャカシャカシャと絶え間無く

動くような音が聞こえてきて、

体長2M程の薄紫の多肉植物が出てきた。

後ろから子供らしき小さな2匹と、

小振りな1匹も出てくる。

「ちょっと待った、その植物の方が

断然危険だから!」

マドが優しく尋ね直すと、

少し気が和らいだのか兄妹は

ぽつり、ぽつりと話し始める。

「俺…何してたんだっけ?

なんか女の人に入るように言われて」

ええい、まどろっこしいと

カノが呟く。

「それで、あんたらは誰なんだ?」

「礼儀ってものを教わらなかったのか?」

ごっ、ごっと斧が床で擦れる。

数分後、兄妹は非常に大人しくなった。

「私は【聖女】のキユ」

「…【幻獣】のマド」

「僕は【詐欺】のハルですよ〜」

「俺は【冒涜】のカノだ」

この上なく簡単な自己紹介だが、

兄妹には伝わったらしい。

「でも、名前が無いってのは厄介ね」

そうなのだ。

この邸に住む4人は絶望的にネーミングセンスが無い。

マドが押入れの奥から持って来た「世界命名辞典」

という本を捲り、何とか名前を絞り出した。

兄の方は「アニマ」妹の方は「アーラ」と名付けた。

アニマはラテン語で魂、アーラはラテン語で翼という意味だ。

まあカノの提案した

「アリエニティーム・カグモラティファ」

とか何とか言い難いことこの上ない

名前よりはマシであろう。

世界命名辞典に感謝だ。

「じゃあアニマ、お前の部屋はここだ」

ここは収監No.5の独房だ。

ここは元々、冷戦時代に捕虜を入れる為に使われていた。

なので、部屋ならいくらでも余っている。

あの隠し部屋の検査はおいおいするとして、

今日はゆっくり寝てもらおう。

「その…ありがとうございます」

「良いって事よ」

ピシッ、ピシッ、ピシッと3回裂ける音が

聞こえ、リビングから3人が消えたのが分かった。

【幻獣】【詐欺】【冒涜】は

もう仕事が無い。

だが、【聖女】のキユは

あの不思議な兄妹、アニマとアーラの調査が

あるのだ。

ハルの仕事場、「詐欺師 統括センター」になら伝手がある。

「もしもし、こちら【聖女】よ」

ノイズの後に機械音が聞こえ、

AIの応答が返ってくる。

「【聖女】様。

センタールームへ電話をお繋ぎいたします」

また機械音が聞こえ、

詐欺師 統括センターの長官が電話に出る。

「久しぶりじゃ無いか、【詐欺】。

今日は何か用か」

「ええ、ちょっと時空魔法の使用方法に

ついて…」

時空魔法。

それはこの世で最も難しいとされる

魔法で、時を遡ったり、逆に

覗き見たりできる危険な魔法だ。

使用は厳しく制限され、

公認の時空警察以外は使えない。

使えるのは、法律の存在しない

大昔か、はたまた非公認の術者だけ…

長官の声が情報を紡ぎ出すのを、

【聖女】のキユは静かに聞いていた。



アニマ:うわ、このベッドふかふかだ

アーラ:おやすみなさい…そしてブックマークを…


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