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0.始まりの賭博邸

時の狭間にぽつんと建っているこの屋敷、

名前は「賭博邸」と言う。

ここには大罪、小罪を犯した罪人達が

閉じ込められている牢でもある。

最も、今収監人数は4人だけなのだが。

酸鼻な匂いのする冷たい鉄の牢、

度の過ぎた暴力が行われると噂の拷問室(今世紀、拷問は廃止)

を通り過ぎた看守は、自室に置かれた

札束の山をうっとりと見つめた。

「ああ、こんな辺境にいるだけで

金がこんなに貰えるなんて」

彼は看守なのだ。

罪人達の管理を司る者でもあり、

聖職者であり、この邸宅の王でもある。

少々寂しいのが玉に瑕だが、

1ヶ月の給料は凄まじく高い。

ここは賭博邸。

時の狭間にある、来客が決して無い

邸宅だ。

看守がテレビを付けようとすると、

地響きが聞こえて来た。

何だどうしたと外に出ると、

斧を持って眼を爛々と光らせた男、

面白がっているような男女が2人、

髪の短い女が1人、合計4人いた。

懐からさっと「罪人帳」を取り出し、

4人のデータを照合した看守は青ざめた。


収監No.1:キユ【聖女】 女

教会に背いて自然保護区を改造。

凄まじい聖力を使って時空警察の長官を

殺害したが、最終的には捕縛された。


収監No.2:マド【幻獣】 女

違法動物の密輸業者。

幻獣を捕獲して顧客に輸送したは良いが、

輸送中に幻獣が暴れて近隣住人が

通報、キユと同様に時空警察に捕縛された。


収監No.3:ハル【詐欺】 男

「詐欺師 統括センター」情報統制係。

蠢く奇妙な植物を操る。

詐欺師のくせに食い逃げをして捕まったと言う

悲しい過去を持つ。


収監No.4:カノ【冒涜】 男

教会に「聖油」と偽って

菜種油を売ったのが発覚して捕縛された。

No.3の【詐欺】と肩を並べるほどの

下らない罪で捕まっている。


この4人が牢から出られるわけがないのだ。

今世紀で最強の金属合金を使った

特製の牢、出られるわけがない。

「貴様ら…どうやって」

薄緑のジャンパーを着た斧男があっけらかんと答える。

「鉄格子なんざ蹴り倒せば良いだろ?」

後ろの3人に同意を求めるも、直ぐに

別の言葉が返ってきた。

「僕は植物を使ったまでだよ」

「…私は、鍵をこじ開けただけ」

「ええ〜、聖力で爆破すればいいじゃん」

色取り取り、朱、紫、緑など

の鮮やかな植物を肩に乗せた

男に向かって呪文を唱えるが、

【冒涜】のカノに縛られてしまう。

「むぐー、んぐぐんぐう!」

貴様ら、どうなるか分かっているのか!?

と言おうとしたらしい。

「ん、取り敢えずこいつ自身の部屋に監禁しよう」

自分の豪華な部屋に投げ込まれた

看守は、直ぐに脱出を図ったが

閂が三重にかけられ、鎖でがんじがらめに

された扉を見て悟った。

ああこれは、無理だなと。

「さて、この邸宅を改造しましょうか」

【聖女】のキユの指から、眩しい閃光が

放たれる。

数時間後。

見るも無残、手入れなどロクにされていなかった

牢屋は小綺麗な部屋に様変わり、

まるでホテルの一室のようだった。

「ハル、茶でも淹れてくれよ〜」

円形の大机に座った一人の男が、

隣に座った男に頼む。

ハルと呼ばれた男が、

面白がっているように口を歪めて返答する。

「代金四万円…わかったわかった、わかったから

斧を向けないでくれ」

「それだから【詐欺】って言われるんだ」

「【冒涜】のカノ、あんただって不本意な名をつけられてるんじゃ

無いのかね?」

不満げなカノが口を開いたその時、

「ああ肩が痛い、最近運動不足が祟って…」

と新たな声が響き、また一人、今度は眼鏡をかけた女が

机に座る。

「仲間だ、マド、僕も滅多に外に出ないからね」

うんうんと怠惰が頷く。

「え、信じられない…」

とまた一人女が席に着いた。

「【聖女】は良いわよ…運動神経良いし」

恨めしそうな顔をした暴食が虚飾を睨む。

「だったら今度、特訓してあげようか、全員を」

「「「結構です」」」

「さて、僕はお望み通り茶を淹れてくるよ」

慌てた様子でハルが立ち上がり、

ポットを持ってあたふたと逃げ去った。

はははは…と目を伏せたマドが笑い、

カノがふんと鼻を鳴らす。

キユは此の期に及んで残念そうである。

「まあ、全く代わり映えのしない

1日も良いだろ」

4人の暮らすこの「賭博邸」

には滅多に来客が来ない。

そもそも異空間の狭間にあるこの屋敷に

4人は幽閉されている。

二つ名の通りの罪を犯した4人は、

時空警察に拘束されて、

ここに送り込まれた。

しかし残念ながら、鎖は【冒涜】のカノ

が分解してしまったし、

マドが庭園のアクセントにと持ち去ってしまった。

要するに何の意味もなかったのだ。

だが、ここからは出られない。

異空間なら腐る程あるし、出入りも簡単。

しかし狭間となるとそうはいかない。

やたら複雑な時空の隙間を縫う魔法を使い、

神に捧げ物をしてようやく辿り着ける…

といった塩梅だ。

時空の魔法を使える人間も

今や時空警察しかいないし、

実質この屋敷は閉鎖状態である。

別に何の不自由もないのだが。

「ささ、茶を淹れてきたよ〜」

小刻みに揺れるポットを持った

ハルが長身を屈めて此方へやってくる。

「今日のお茶を教えてくれる?」

「普通の蕎麦茶」

「ええー、違うのが良かった」

「贅沢言わずに、これだって

この屋敷に来れる数少ない業者に頼んでるんだから」

「頼む、次はマテ茶を仕入れてくれ」

「ポーカーの借金で首が回らない

カノに言われてもねえ」

「さっき金庫を見てきたけど、

あまりお金無いわよ」

黙っていたキユが口を開く。

「うわ、それなら尚更だよ」

「ちっ」

「今舌打ちしたよね?」

…ここが牢屋とは思えない会話である。

「燦々と朝日が降り注ぐ、この陽気!

何かしようよ」

「ポーカー」「少し早めに晩酌」「読書」

ポーカーと答えたカノは

マドに己の借金書を顔面に投げつけられ、

晩酌と答えたハルは

無言で朝日を示された。

意に介せず読書を続けようとした

マドも、若いのに肩を叩きながら

読書するのに疲れたのか直ぐにやめた。

「良い日だ」

蕎麦茶のポットから、ふわふわと

湯気が漂う。

「だけどたまには刺激が欲しいわ」

【幻獣】のマドが口にしたその言葉が、

やがて現実となる事を彼らはまだ知らない。



【暴食】:よろしければブックマークを…

【怠惰】:これ、利用規約に違反するんじゃないの

【冒涜】:確かにな

【傲慢】:グレーゾーンだよ


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