鬼ごっこ(迫真)
「───人間、何故ここにいる」
もう一度、念を押すように言われた。
頭を色々な考えが駆け巡る。が、ここで黙っていたら殺されるかもしれない。まずは答えるんだ。
「な、なにも見てません!だから許してください!」
「───見られたからには仕方ない、お前はもう戻れない」
「見てないって言ってるじゃんっ!?」
「───人の子よ、目を閉じろ」
「うわぁぁぁっ!」
逃げなきゃ!殺されるっ!!
なんなんだあれは!?太陽じゃない!太陽みたいだけど、暖かくない!それに吸い込まれるような圧力がある!
こんな所にいられるか!僕は自分の家に帰らせてもらう!
「───待てと言うておろうに…」
入ってきた方とは反対の道に走っていく。太陽は近付いてくることもなく、すぐに見えなくなった。
「はぁ……はぁ……」
なんだよ、あれ……遠いようで近いみたいな……トリックアートを見てるみたいな錯覚をしたみたいだ。
「~♪~♪」
「っ!?」
ヤバイっ!さっきの百鬼夜行の残りがいたっ!
「ガサッ」
すぐに茂みに隠れる。が、音が出てしまった。焦って枝に引っ掛かった!
「おい!さっき音がしなかったか!?」
「~♪~♪……気のせいだろう?鬼。私たちも速く先頭に追い付くぞよ」
「いいや!絶対したね!この匂い……人の子の臭いじゃないか!?」
っ!?ば、バレたか……?
頼む!来ないでくれ!頼む!
「まあええわ、鬼。私たちは先に行くぞよ」
「ええい!ここか!?こっちか!?」
お、鬼が手当たり次第に金棒を振り回してる!!危ないよ!?
なんてこった……変な太陽はあっちにあって、こっちには鬼っ!前門の虎後門の狼だ!
「スンスン……こっちの方が匂いが強いなぁ!?」
や、来てる!どうする!?ご、ごまかすか!?
「にゃ、にゃーん……?」
「ンゥ?猫か?」
「にゃんにゃん、そうだにゃん」
「なんだ、猫又の野郎か。なんでそっちにいやがんだ。こっちに来いよ」
むしろ逃げ場を無くしてしまったか!?僕のバカ!アホ!ポカパンプキン!
「今は出れないにゃん」
「なんでだよ」
「う、うんち出してるにゃん。見ないでほしいにゃん」
「うげっ!汚ぇっ!……て、んなわけあるか!人間の臭いじゃねえか!!」
「ば、ばれてっ!」
茂みがガサリと開け放たれ、イカツい巨体の鬼が現れた。片手には金棒を持っている。
「うわぁぁあ!」
「待て!喰らってやる!久々のご馳走だあっ!」
くそっ!どうすりゃいいんだ!?今走ってる方には太陽がいるし……いや、仕方ない!もう行くしかない!
「どこまで逃げるんだぁ!?」
「鬼さんから逃げ切れるまでだよ!」
「これが本当の鬼ごっこつってな!」
「笑えねぇからっ!!」
「笑えやぁあっ!!」
持ってる金棒を振り回して更に速度をあげる鬼。なんてこった!怒らせちゃったよ!
「まてぇぇっ!」
「待てと言われても待てないよ!!」
幸いそこまで速いわけじゃない!このままなんとか逃げ切って────
「あっ」
金棒が投げられた。まさか投擲もできるなんて。足をかする程度だったけど膝をつかせるには申し分のない威力だ。
「へっへへ、待たせたなぁ?」
「やめて!ごめんなさい!さわらないでください!」
「どこから食ろうてやろうか!?ここか!ここがエエのんか!?」
もうだめだっ!誰か……ッ!助けて……ッ!
「───じゃから待てと言ったじゃろが」
綺麗な声が聞こえた。鬼だと可愛すぎて、人間だと不釣り合いな、愛らしい声が聞こえた。
「てめぇは……っ!?」
「───すまんが、そやつは離してやってほしい」
「そういうわけにはいかねぇ!俺様の獲物だ!横取りしようってか!?」
「───なら、力ずくしかないのう」
しゃがみこんでいた体をあげて、声の方を見てみる。すると、そこに居たのは女の子だった。
あまりに人間らしく、恐ろしいほどに人情はない。その女の子もまた人ではないのだろう。
なぜなら鬼が一瞬で消されたからだ。
「───殺したわけではない。儂らの世界に返した」
「助かった……のか?」
鬼は消えた。目の前の女の子は何かを呟いていたが、僕は安堵のため息を溢す。
「───さて、お前さんはどうしてやろうか」
「はっ!こ、殺さないでください!」
「───しかし、現世に返すわけにはいかない」
「し、死にたくない!偶然だったんだ!」
「───不幸だと思え」
女の子は表情を一つも変えず、冷静に、冷徹にそう言う。
こんなところで僕は終わってしまうのか。こんなことなら山になんてくることは無かった。
ただの、ちょっとした好奇心だったのに。
「───死にたくないか」
「……はい!」
「───仕方ないのう。じゃあすまんが少々体を弄らせてもらうぞ」
「……え?」
女の子は不意に顔が触れてしまうくらいにまで近寄ってきた。
「な、なに!?弄るってそういうこと!?」
多大な不安と少々の期待に体が強ばる。
「───何を言うとるんじゃ。気張れよ。これは痛いぞ?」
「へっ?」
ゴリュゴリュッ
え?今、なにが?
「がふっ……げっ……かはっ」
「───あまり声を出すな。他の妖怪に気付かれでもしたら知らんぞ」
今、オレの胸がくり貫かれた。熱い何かが込み上げて、口から出ていく。それは自分の熱をそのまま持っていっているようで、後から来る痛みに歯を食い縛る。
「イッ…っっ………あぁ……っ…!」
「───うむ、良い子じゃの。声をちゃんと我慢して」
ゴリゴリ、ズリュズリュ……グキッ
痛い痛い痛い痛い痛い痛い!痛い痛い!痛い痛い!!!
「───今、お前さんの体を黄泉の障気に耐えられるようにしておる」
「な……なにを……ぁっ!……うぅぐっ……イッ……いて……ぇ……」
「───もうすぐ終わる。あそこらの石でも数えとくのじゃ。いーち、にー、さーん、しー、あ、これは骨か」
ゴリンッ!!ボキッ!!
「いぎいっ……!不穏な言葉が聞こえたっ!?」
「───大丈夫じゃ、多分」
「いっ……いっ……あっ!ぐぅ……うぅ……あぁぁっ!……」
「───ここをこうして……よし!終わりじゃ!……ん?おーい、死んだか?」
あまりの激痛に耐えきれず、僕は意識を手放した。
ーーーーーーーーーー
「イテェッ!!」
がばっ!と起き上がる。
確か、女の子に体を貫かれて……っ!?
オレのからだっ!!
「…………なんともない…?」
体を弄るが、特になんの問題もない。穴が空いてるわけでも、血が出てるわけでもないようだ。
周りを見ると、どこか和室のような場所で寝かされていた。下には布団が敷いてある。知らない場所だ。
夢じゃない……よな。
「うむ!これで良いじゃろう!」
「っ!?」
声が聞こえ、寝た振りを実行する。これでも高校三年間、寝た振りだけで昼休みを凌いできた僕だ。バレるはずがない。
襖が開き、誰かが入ってくる。うっすらと目を開けて見てみると僕の体を弄った?女の子だった。
「あまりに無茶をさせたからのう。もう起きる頃じゃと思ったからご飯を作ってみたが…」
女の子は申し訳なさそうな顔を隠さず、手に持っていた食器を床に下ろす。
白湯のようだ。中にはご飯が入っていて美味しそうだ。暖かい湯気が立ち込めている。
「しかし、すまないことをしたのう。まさか気絶するほど痛い物だとは知らんかったわ…起きたら謝るとするか」
「お、おはようございます」
「ぬぉっ!?」
さっと起き上がり、女の子に話し掛ける。すると飛び上がり、間抜けな声を出す。
「お、起きておったのか……?」
「丁度、今さっき」
「───なら良い。体調はどうだ?」
「大丈夫です」
手を握ったり腕を回したりするが、特に違和感はない。むしろ好調だ。
「───そうか。しかしまだ病み上がりのようなものだ。もう少し休むと良い」
「はい、ありがとうございます。しかし、なんで喋り方を変えたんです?」
「───なんの話だ?」
「いや、今は威厳を出すような間を開けた話し方で、声も太い感じにしてますけど、さっきはもっと可愛い声でしたよね?」
「───き、聞こえてたのか?」
「はい」
「わ、忘れてほしいんじゃあっ!!」
表情をコロコロと変えて叫ぶ女の子。赤い着物がフリフリと揺れて可愛らしい。
容姿も凄い。クリクリの目にスラッとした鼻、綺麗な銀髪。将来はとてつもない美人になるだろう。髪にはヒガンバナ?を差していて、とても似合っている。白に朱は栄えますね。
「あの、君は何て名前なんですか?」
「むー……もう良いか。儂は『空亡』。ソラと呼んでほしいのじゃ」
喋り方を普通の方に変えたらしい。うん、その方が聞き取りやすい。
「って、空亡!?」
「うむ」
「百鬼夜行の?」
「その通りじゃ」
「マジですか……いや、女の子じゃないですか」
「見た目はの。儂くらいになると見た目くらい変えられる」
「性別もですか?」
「いんや?儂は一応女性じゃ。男にはなれん」
いや、どっちみち凄いな…いやしかしこんな可愛い女の子が空亡だなんて…冗談じゃないのか?
「む、信じてなさそうじゃな。仕方ないのう」
ソラは少し頬を膨らますと、全身を震わせる。
瞬間、目の前に大きな太陽が現れた。
あの山で出会った太陽である。
空亡、それは妖怪の王と唄われる最強の妖怪である。
ブクマ。評価を貰えると嬉しくて泣きます。なだそうそうです。