勇者邸の人々
わたしたちが普段寝泊まりしている家は、〝勇者邸〟と呼ばれるちょっとした豪邸だ。
この勇者邸という建物は、歴代勇者に対して国から無料で支給されるものだそうで、タケルがこの世界に来た一週間ほど前までは、先代の勇者が利用していたらしい。
邸内には、男女合わせて20人くらいの使用人が住み込みで働いており、建物の管理はもちろん、わたしたちの食事などの世話や警護などをしてくれている。彼らは全員、国から派遣されたスタッフであり、お給金も国から直接いただいているそうだ。
そんな使用人の1人に、ソフィアさんという女性がいる。彼女は、とびきり美人でスタイルも良いメイドさんなのだが、なんとタケル専属のお世話係として配属されているようだ。
タケルがソフィアさんと間違いを起こすようなことがあってはいけないと感じたわたしは、タケルと一緒にお風呂に入り、タケルと一緒のベッドで眠るようになっていた。
目が覚めると、私の体は、半裸のタケルにギュッと抱きしめられていた。
「うふふっ、タケルってば寂しいのかしら。こんなに大きくなっても、まだまだ子供なのね」
わたしは、いつものように、タケルの頭を撫でながらおはようのキスをしようとしたが、今日はタケルにがっちりホールドされているため、どうしても唇が届かない。
「んんっ……。だめ……っ。やっぱりとどかないみたいね」
仕方がないので、目の前にあるタケルの体にキスをすることにする。
「…………」
キスをしていると、タケルの敏感そうな部分がチラチラと見えてくる。それを見ていると、ちょっと破廉恥かなと思いつつも、舐めてみたい衝動に駆られる。
「ちょっとくらいなら、バレないかな」
いつになく大きくなっているその先端をちろりと舐める。
「んっ……」
タケルが押し殺したような呻き声をあげる。
「タケル? ……もしかして起きてる?」
確認するように小声で囁いてみたが、返事はないようだ。タケルが寝息を立てているのを確認したわたしは、さらに行為をエスカレートさせる。
タケルの敏感な部分を口に含んで、舌先でチュパチュパと、いやらしい音を立てながら舐めていると、なんだかえっちな気分になってきた。
わたしが一心不乱にタケルのそれを舐めていると、不意に両頰をタケルの手に挟まれて、一気に引き剥がされた。
タケルがわたしに聞いてくる。
「ファナ、なにしてたの?」
「えっ? 言わないとわからない?」
いいところを邪魔されたので、少しいじわるして聞き返す。
「俺、男だし、おっぱいなんて出ないよ」
「知ってるよ。ただ感触を楽しんでただけ……ところでおっぱい舐められて、気持ち良かった?」
「まあ、少しは……」
「ふ〜ん……そうなんだぁ〜。男の子でも、感じちゃうのかぁ」
とりあえず、いつまでも変態行為をしているわけにはいかない。今日は、修練場とギルドの両方に行かないといけないのだ。
「タケル、とりあえず朝ごはん食べよっか」
「そうだな。じゃあ起きるか」
わたし達は、お出かけ用の服に着替えて、寝室からダイニングへと移動する。
テーブルに着くと、ソフィアさんが出迎えてくれる。
「おはようございます。勇者様、奥方様。随分とお楽しみでしたね」
「えっ?」
わたしは恐る恐る、ソフィアさんに尋ねる。
「見っ、見てたの?」
「いえ、いつもより遅いので、子作りでもされていらしたのかと」
ふぅ……。どうやら、見られていたわけではなさそうね。ここはひとまず無難に応えておこう。
「この子が、どれだけ大きくなったのか確認してただけよ」
「そうですか。勇者様のが……」
ソフィアさんが、タケルの下半身をじっと凝視している。何かとんでもない勘違いをさせてるみたいだけれど、やましいことなんて一切無いので毅然とした態度で話す。
「ソフィアさん、そろそろ食事をいただけますかしら?」
「かしこまりました。朝食はパンとコーヒーでよろしいですか?」
「ええ……」
パンはともかく、この世界にもコーヒーがあったことを知った時は驚いた。
以前のわたしにとっては、孤児院のお兄ちゃんやお姉ちゃんが自分たちで働いたお金で買って来てくれるパンは、滅多に食べられない贅沢品だった。ここで生活できるようになってからは、今まで考えられなかったような贅沢をさせてもらえている。
わたしも、お兄ちゃんやお姉ちゃんと同じように自分で稼いで、弟や妹たちに食べ物を買ってあげたいのだけれど、今は生き残る為に強くならないといけないので、孤児院に行くのは〝闇の龍〟を倒した後になりそうだ。
「タケル、食後の一杯は美味しい?」
わたしがコーヒーを飲んでいるタケルにそういうと、タケルが珍しく返事を返してきた。
「ファナ、食前のおっぱいは美味しかった?」
「ブフゥーッ」
タケルの冗談で、思わず飲んでいたコーヒーを吹いてしまったのだった。
食事を終えたわたしは、ソフィアさんに話しかける。
「ソフィアさん、今日1日、時間空けられますか?」
「どうかなさいましたか? 奥方様」
「タケルに付き添って、修練場まで行って欲しいのだけれど」
「えっ? 奥方様……。いつも勇者様にベッタリですのに、どうされたのですか?」
「失礼ね、そこまでタケルに付きまとってるつもりはないのだけれど……。
まあ、それはともかく、今日は、ギルドに行った後もいろいろ行かないといけなそうだから、タケルと別行動の方が効率が良いと思っただけよ」
「……わかりました。では、執事長に相談して来ますので、少しお待ちください」
ソフィアさんはそう言って部屋を後にした。部屋にはタケルと二人きりだ。
「タケル、今日はママ一人でギルドに行くから、あなたは修練場まで、ソフィアさんに付き添ってもらいなさい」
「えっ?」
「あの人なら言葉が通じなくても察してくれるし、あなたのことも安心して任せられるわ」
「……そっか。ファナ、気をつけてね」
「ええ……。タケルも、気をつけて……。あと、いくらソフィアさんが美人だからって、襲ったらだめよ。あと、修練場のお姉さんも……」
「しないよ、そんなこと……」
タケルはこう言っているが、わたしとしては、かなり心配だ。タケルはパパ似の素敵な男性に成長しているし、ソフィアさんはタケルの挙動から状況を正確に察知できる。そして、修練場のお姉さんに至っては、タケルの言葉が分かる上に、その正体はサキュバスなのだ。後でこっそり監視役をつけておくことにしよう。
そうしているうちに、ソフィアさんが、執事を二人連れて戻って来た。一人は執事長のジョージさん、もう一人はわたしのお世話係をしているジャンという少年だ。
「やあ、ファナ。今日は俺っちが付き添ってやるから、安心しな」
「……あんたが付き添ってくれるの? 結構ハードスケジュールになると思うけど、大丈夫?」
「ああぁ〜? そんなの大丈夫だろ。お前と違って俺っちは〝オトナ〟だからな」
「ジャンっ! お前はまたそんな言葉遣いをしおって……奥方様、申し訳ありません。ワタクシの教育不足でこのような……」
ジョージさんはそう言うとジャンの頭を拳骨で殴る。
「イテッ!」
「ジョージさん、ジャンが可哀想だから、それくらいにしてあげて。わたし、ジャンと違って〝オトナ〟だから、気にしてないよ」
「おまっ! 俺っちは〝18歳だからオトナ〟だッ! お前なんか、まだ〝10歳のガキ〟じゃねーかッ!」
この国では18歳になると成人とみなされる。だから、ジャンの言うことは確かに正しい。……正しいのだが、わたしは彼のこういう反応を返してくるところを指して、子供だって言ってるのだ。しかし、ジャンはそのことに全く気づいていない。
「あっ、そういえば、タケルはもう出かけても良いんじゃないかな。ソフィアさん、お願いね」
「そうですね、奥方様。では勇者様、参りましょうか」
わたしは日本語でタケルに出かけるように促す。
「タケル、行ってらっしゃい」
「ん、わかった。行ってくる」
二人が出かけたことを確認すると、ジョージさんに頼む。
「ジョージさん、ソフィアさんがタケルを襲わないように監視出来ませんか」
「うーん、そうですね。もう出かけられてしまった後ですので、庭師集団を向かわせましょう」
「お願いします」
庭師集団とは、この豪邸の中庭を管理している5人組だ。我が家の中庭は、六畳間くらいの広さしかない為、以前ジョージさんに、何故5人も庭師が必要なのかと尋ねたところ、彼らの本職は〝忍者〟であり、有事の際に情報収集と諜報活動をするのが仕事なのだそうだ。所謂スパイというやつだ。
ジョージさんが指をパチンと鳴らすと、いつの間にそこに居たのか、目の前に五人の忍者が跪いていた。
「みなさん、聞いての通りです。勇者様とソフィアを監視して、その様子を逐一、奥方様にご報告してください」
「「「「「ラジャー」」」」」
彼らは、ジョージさんの指示で、散っていった。
「勇者様とソフィアの間に、何か良くない動きがあれば、彼らの誰かが直ぐに伝えてくれることでしょう」
「そうですか、これで安心です。では、わたしたちも出かけるとしましょう。……行きますよ、ジャン」
「チッ、しゃーねーなぁ」
わたしとジャンは、屋敷を出発し、転送屋経由で冒険者ギルドに到着する。
「ジャン、覚悟してくださいね。ここでは毎回、初心者の洗礼を受けてます」
「勇者様が居ないから、大丈夫だろ」
ジャンがそう言ったので、とりあえず二人で中に入る。
「おっ! ロリコン勇者様のお出ま……あれ? 今日はガキだけかよ」
「うわっ? なんだあのガキンチョ?」
「知らねーのか? アレが勇者様……の奥方様だよ」
「マジかよ、アレが噂の〝ペーパー冒険者〟かよ。」
「ヒューッ、ファナちゃま今日も可愛いでちゅね〜っ」
「はぁ、はぁ……。拙者、ファナたんのおぱんちゅが舐めたいでござる」
昨日と同じような反応だった。やっぱり後ろの二人はキモい。だが今日はタケルが居ないので、わたしも凛とした態度で昨日のお姉さんが居るカウンターに並ぶ。
やがて、わたしの番がやってきた。
「あっ、ファナちゃん。昨日は奢ってもらってありがとう。今日は旦那じゃなくて執事くんを連れてきたんだ……」
お姉さんがジャンの方を見ると、ジャンが緊張した感じでお姉さんに話しかけた。
「おっ、おっ、お姉さんっ。こ、こ、こここ、こんにちは」
「はい、こんにちは。可愛い執事くん」
お姉さんがジャンに微笑みかけると、ジャンのほうもお姉さんに微笑み返すが、真っ赤になりながら笑うジャンの顔は、プルプルと震えていた。
「はっ、はい。今日はお日柄も良く……。えっと……美人のお姉さん」
見たところ、そう言うのが精一杯だったようだ。
「ジャン……。あんたお姉さんみたいなのがタイプだったの?」
わたしがジャンに問いかけると、ジャンはこちらを向いて言う。
「はっ、はぁあ〜っ? そっ、そんなわけねーだろが、ブス!」
その声は、とても上ずっていた。この反応から察するに、どうやら図星だったみたい。
「お姉さん、ジャンはこういう子なので、適当にあしらってくださいね」
「あ、あはは〜っ」
お姉さんの乾いた笑いが、ギルド内に響いた。