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冒険者ギルド

 冒険者ギルドは王都の中央にあり、郊外にある冒険者修練場からは、歩いておよそ3日もかかるため、通常は馬車で移動することになる。

 王都には、〝転送屋〟という転移門(ゲート)の魔法を利用した、瞬間移動サービスも存在するのだが、価格が非常に高く、貴族くらいしか利用する人は居ない。

 しかし、わたしたちは、勇者様御一行(闇の龍の生贄)という肩書きのおかげで、国内のサービスは、ほぼ全てが無料で利用できる。ほんと、タケルがこの世界に召喚されたことには感謝しないといけないね……。


 わたしが、タケルの袖をクイッと引くと、タケルが屈んでくれる。

「ん? どしたの? ファナ……」

 目線をわたしの高さまで合わせるように屈んだタケルの頭を、いい子いい子と撫でる。

「えへへ〜。タケルは本当に可愛いなぁって思ってね……」

「なんだよそれ……」


 そう言いつつも、タケルはわたしの撫で撫でを甘んじて受け入れてくれる。


「……タケル、お腹も空いてることだし、ご飯食べてから、行こうか?」

「ああ、そうだなぁ。ファナは何が食べたい?」


「おこさまランチ」


「えっ? こっちの世界にも、お子様ランチなんてあるの?」

「ふふんっ。昨日、あそこのレストランで店長さんに教えました」

「え〜っ? いつの間に?」


 そんなわけで、今日のランチは昨日と同じレストランです。


「おや、ファナちゃんと勇者様じゃないか。いらっしゃい。今は空いてるから、適当な席に座って」

「こんにちは、店長さん。昨日教えたアレ、ひとつお願いね。てん、タケルのりしいで?」

「えっ? 何だって?」

「あっ、店長ゴメン。今のはタケルに聞いたの」

「あはは、ファナちゃんってば、いつも突然、異世界語で話し始めるから、分かんないや」


 改めて、タケルに聞く。

「タケルはどうする?」

「ファナ、これは何?」

「んー? 〝オーク・ヒネガレテシ〟かぁ。これは、日本で言うところのスキヤキみたいなものかな。使ってる肉は牛じゃなくてオークの肉だけれど……」

「んじゃあ、これで良いや」

「んー、じゃあ、注文するね」


 わたしは、店長にタケルの頼んだ料理を注文する。



 しばらくすると、料理が運ばれてきた。

 

「お待たせしました。〝オーク・ヒネガレテシ〟と、タヲヨホコケエ(お子さまランチ)〟です」


 わたしは、運ばれてきたお子様ランチをじっくりと観察する。

 プレートの左側には赤い液体がかけられたスパゲティらしきもの、右側手前には茶色い液体がかかったハンバーグらしきものがある。

 ハンバーグの奥側には、スパゲティと同じ色合いのライスがあり、その上には針金と小さな紙で作られたヘウベカ国旗も掲げられている。

 そして、別皿にはなっているが、プリンのようなものもキチンと並べられていた。


「見た目は、まあギリギリ合格というところかしらね。さて、お味の方は……」


 わたしは、スパゲティをフォークで掬って一口食べる。

「うわあああっ、辛いぃぃっ! こっ、これ……、見た目はケチャップっぽい色だけど、唐辛子の赤色だわ」


 きっと、ライスも同じ色合いだから辛いのだろう。わたしは口直しにハンバーグを一口食べる。

「ん〜? さっきの辛さで味が分かんなくなってるけど、これハンバーグに見えるだけで、ただのオーク肉の塊みたいね」


 もう、最後の望みであるプリンに賭けるしか……。

「あむっ。……ん? どう考えてもプリンじゃないけど、これはこれで、甘くて美味しい」


 わたしは、オーク肉の塊と、プリンもどきだけを食べることにした。だって、他のは辛くて食べられないんだから、しかたがないよね。


 ふと、タケルを見ると、さっきから黙って〝オーク・ヒネガレテシ〟を食べている。


「タケル、〝スキヤキみたいなもの〟は美味しいかな?」

「なあ、ファナ。ビーフストロガノフって知ってる?」

「何それ?」

「知らないなら良いや」

「え〜っ? なんだったの〜?」


 そんな感じで少し遅い昼食を済ませると、わたしは店長を呼んで、お子様ランチのレシピを書き直させ、タケルと一緒に店を出た。



 わたしたちは、転送屋経由で冒険者ギルドまで辿り着く。

 いつも、わたしたちがギルドに来ると、何かしらのトラブルに巻き込まれるから、最近は週一くらいのペースでしか来ていないんだけれど、今日こそは何事も起きないで欲しいな。


「じゃあ、気合い入れていくよ」


 わたしは、タケルの右手をギュッと握ると、真剣な表情でギルドの建物に入る。


 わたしたちの姿を見つけた冒険者たちが、ざわめき出す。


「おっ! ロリコン勇者様のお出ましだぜ」

「うわっ? なんだあのガキンチョ連れのおっさん?」

「知らねーのか? アレが勇者様だよ」

「マジかよ、アレが噂の〝ペーパー冒険者〟かよ。」

「ヒューッ、ファナちゃま今日も可愛いでちゅね〜っ」

「はぁ、はぁ……。拙者、ファナたんのおぱんちゅが舐めたいでござる」


 ううう〜っ、わたし、やっぱりこの雰囲気苦手だ。特にいかがわしい動きをしている後ろの2人は、ホント気持ち悪い。


 わたしはタケルの陰に隠れて、他の冒険者を見ないようにしながら、カウンターに進んだ。


「いらっしゃいませ、勇者様。今日はどういったご用件で?」

「ファナ、通訳……」


 あっ、そうだよね。タケルは受付のお姉さんが何言ってるのか理解できてないんだった。

 わたしは、タケルの前に移動して、お姉さんと話を始める。


「こんにちは、お姉さん。今日はこれを……」

 そう言って、わたしは2人分のスタンプカードを差し出す。


「あっ、ステータスの更新ですね。では失礼します」

 お姉さんはそう言うと、スタンプカードを受け取り、慣れた手つきで魔術盤(キーボード)を操作してデータを入力する。


「え〜っと、タケルさんは、今回の修練でAランク冒険者に認められたみたいですね。おめでとうございます」

「わあっ、良かったね、タケル……って、ヘウベカ語で言っても分かんないか。えーっと、『タケル、きをよAつっぞ(Aランクだって)』」

ザホづ(マジで)? あさるい(うれしい)


「……えっと、お二人がなんと仰ってるのか分かりませんが、続けてもよろしいでしょうか?」

「あっ、どうぞどうぞ」


 お姉さんは、話の続きをする。

「ファナさんのほうですが、魔力が上がって、職業適性が芽生えたようです。魔法使い系の職業に就職できるようになりました」


 魔法使いかぁ〜。そういえばわたしも、魔法少女に憧れてたことがあったなぁ……。


「タケルっ、聞いて! わたし、職業適性が芽生えて、アッコちゃんとかサリーちゃんみたいな魔法少女になれるようになったんだって。なっても良いよね」

「アッコちゃんとかサリーちゃんって、いつのアニメの話だよ。まあ、ファナの前世が俺の母親だってんなら、それくらいのアニメが普通なのかもだけどさ……」


「むうぅ〜っ。タケルってば、まだわたしのことママだって信じてなかったの?」

 わたしは、タケルがまだママだと信じてくれていなかったことに頬を膨らませる。


「ファナは、ファナだよ。前世が俺の母親だっていうのは、関係ないさ。俺にとっては、可愛いお姫様だよ」

 そう言って、タケルはわたしの頭をポンポンとしてくる。


「ううぅ〜っ、なんかうまく言いくるめられてる気がするけど……タケル、気持ちいいからもっと撫でて……」

「はいはい……」


 タケルに撫でられながら、ホニャァ〜としていると、ジト目で私たちのやりとりを見ているお姉さんと目が合った。


「こほんっ、お二人ともイチャつくなら他所でやってくださいね」

「す、すみません」


「それで、ファナさん。魔法使い系といってもいろいろ種類がありまして、それによって就職するための試練が違ってくるんですが、どうなさいますか?」

 そう言って、お姉さんは一冊の本を渡してくれた。〝魔法使い転職ガイド〟と書かれている。


「この本、くれるの?」

「あげません、貸し出すだけです。来週までには返してくださいね」


 お姉さんはそう言うと、巻末にあるポケットからカードを抜き、わたしの名前を書きこんでから、後ろの棚にある引き出しにしまった。なんだか図書館みたいだなぁ〜。


「来週までに返してくれないと、ペナルティで今までの活動記録が全部抹消されますので、ちゃんと返してくださいね」

「そんな横暴なぁ〜っ」


 最近、週一くらいでしか来てないのに、来週までに返さなきゃダメって事は、いつもより早く来なきゃいけない。それにわたしは毎日タケルの世話で忙しいので、この本を読んでいる時間も取れるかどうか……。


「うううぅ〜っ、今読んで返すことにするしか……」

 どうせこの後、いつものように、よその国から来た冒険者がタケルに絡んで、決闘って流れになるだろうし、その間に読んでしまおうという考えだ。ふへへっ、わたしってもしかして天才かも……。


「タケル、もし誰かに喧嘩ふっかけられたら、今日はなるべく長期戦になるようにしてね。その間にこの本を読んじゃうから」

「……わかった」


 わたしは、ガイドブックを開いて目を通す。

「ふむふむ、魔法使いといってもホントにいろいろあるのね。あっ、この付与術師ってのは、タケルを助けるのに良さそう。ああ、この聖職者ってのも良さそうだけど、これは教会が絡んで来そうだから、止めといたほうが無難ね……それからえーっと……」


 一通りガイドブックを読み終えたわたしが辺りを見ると、すっかり夜になっており、ギルド内に残っていたのは、わたしたちと受付のお姉さんだけだった。そのお姉さんは、すごく引きつった笑顔でわたしを見ていた。


「あっ、お姉さん。わたし、就職する職業選び終わりました」

「そうですかッ! それは良かったですねぇ、ファナさんッ! そんなことよりもッ! 今何時だと思ってるんですかッ? もう今日の業務の時間が終わってから、2時間も経ってるんですよッ!」


「お姉さん、もしかしてすごく怒ってます?」

「当たり前ですッ! ファナさんったら、いくら呼びかけても、ちっとも反応してくれないんですからッ!」

「ご、ごめんなさいぃぃ〜っ。お詫びに晩御飯おごるから許して」

「えっ? 良いんですか? だったら――」



 わたしは、お姉さんに『晩御飯をおごる』と言っただけのはずなのに、お姉さんは、どういうわけか、ご飯を食べた後、わたしの家まで一緒について来ていた。


「あの、お姉さん? どうして、わたしのお家までついて来るのでしょうか?」

「えー? だって、ファナちゃんたちの夜の営みとか見t……ごほんっ、今日は終電逃しちゃったし……ね」


「いやいやお姉さん、終電……ってなんですか? この世界に電車は走ってないでしょう。まあ、馬車のことなんだとは思いますけれど……というか、その前にもしかして、夜の営みを見たいとか言いました? そんなもの見せるわけないでしょうがッ!」


「ファナ、それ日本語……」

「ファナちゃん、何言ってるか分かんない。ちゃんとヘウベカ語で言ってよ」


 あっ、お姉さんの言葉をタケルに伝えようとした瞬間に、お姉さんがとんでもないことを言ったから、思わず日本語でつっこんじゃってたみたい。

 タケルは、夜の営みという単語に反応して赤くなっちゃってるし、もう、踏んだり蹴ったりだよ。


「お姉さんッ! わたしとタケルは親子なので、そういう関係じゃありませんッ!」

「あっ、そうなんだ? ごめんね。……まさか2人がそんな関係だったなんてね」

「分かってくれたのなら、それで良いです」


 まったく、このお姉さんってば、とんだ曲者です。ギルドにいるときは普通の人だと思ったのに……。ホント、お酒飲ませたのは失敗だったみたい。


「それで、ファナちゃんは、いつもタケルさんにオシメを変えてもらったり、そういうプレイをしているのね」

「違うわよっ!」

「あっ……じゃあ、タケルさんのオシメをファナちゃんが変えてるのかぁ」

「ん……それは、してたわね(前世で)」

「ええ〜っ? じゃあやっぱり、2人は変態さんだったのね〜。ん〜っ? あっ、そういえば大切な用事を思い出しちゃったから、私、帰りますねぇ〜!」


 お姉さんは青ざめながらそう言い残すと、逃げるように帰って行った。わたしたち、変態じゃないし、伝染病じゃないから移ったりしないんだけど、まあ、平穏が取り戻せたから、これで良いか。


 しかし、まだ本を返せてないので、またギルドに行かなくてはいけないのは億劫だなぁ。


「そういえば、わたしが本を読んでる間に、タケルは何してたの?」

「ずっと、ファナを見てた」

「えっ? 今日は誰も戦いを挑んで来なかったの?」

「何言ってるか分からないから、無視してた」


 うーん、言葉が通じないから戦いに発展しなかったのか。それは良かったのか悪かったのか、判断が難しいところね。

 とりあえず就職したら、タケルの言葉が自動で翻訳できるアイテムが作れないか、研究でもしてみましょうかね。

 とりあえず早く就職したいし、明日もギルドに行ってみることにしよう。


 そんなことを考えながら、眠りにつくのだった。

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