奴隷街と処分
ゆっくり一歩ずつ、客の気のない道を進む。
握られたユキの手はやはり落ち着かないようだった。
辺りには檻があり、様々な……種族…?の子供から大人まで男女関係なく売られている。圧倒的に女の子の方が多い気がするけど、男の子もそこそこいるようだ。
「そこのお方達。そこから先はB品質街だよ?」
少し腰の曲がったおばあちゃんが声をかけてきた。
奴隷商人だろうか。
格好は、お世辞にも良いとはいえない。
「お嬢さんの方はなんだか顔色が優れないようだね。この先はもっと辛いと思うよ?」
ユキを見てそう助言してきた。確かに入り口の時よりも顔色が悪い。
「ユキ、大丈夫か?」
ちらっと上目遣いで俺を見ると、下に俯いた。
「ちょっと、きついかな。」
少し申し訳なさそうに言う。
……気分の良いものではないのは確かだ。多少は元気そうとはいえ檻に入れられ、鎖で繋がれて。どんな人に買われるのか心配そうにしているその雰囲気はどことなく伝わってくる。
「なら、わしの手伝いをしてくれんかな?お兄さんは先に進みたいんだろ?その間だけ、お嬢さんを貸してくれないか。」
悪い人には見えないが。
ユキと目を合わせて、どうするか聞く。
「私は、それでもいいよ。なんかあってもなんとかできるし」
むしろ、そっちを望んでいるように見えた。
そう、ユキは強い。それは間違いない事実だ。だから彼女の意見を尊重することにした。
「じゃあ、見たらすぐ戻るから」
肩にポンと手を置いて俺らは一旦別れた。
さっきのおばあちゃんも言っていたが、どうやらこのあたりはB品質ゾーンらしい。A品質ゾーンは全然長くなかったがBはとにかく長い。
少し痩せていたり、弱々しかったり、そんな感じの子たちが多く見られた。ここら辺には少し客とみられる人もいるようだ。
値段もこの世界の通貨単位“ジクス”ではないが、A品質よりは安いようだった。
そして、俺はここの奴隷街で最も酷い場所と考えられるC品質ゾーンのゲートに差し掛かった。
入らなくても分かる。酷い。まず臭いが凄い。
俺は恐る恐る一歩進んだ。
そこには檻の底にぐったりとしている子や、痩せすぎて今にも干からびそうな子、四肢がない子など酷いものだ。
軽く吐き気すら感じながらも一番奥へと足を進める。
奥に行けば行くほど、無残に、非人道的な扱いをされたことが色濃く分かるようになる。
そして、真正面に檻が現れた。
「一番……奥?」
目の前の檻には髪が長く伸び、ぐったりとした女の子がいた。
その子をじっと見ていると、後ろから声をかけられる。
「その子は、今日処分されるんじゃよ。」
ビクッとして後ろを振り返るとおじいさんが立っていた。
「しょ、処分…って?」
「見れば分かるじゃろ。この子はなぁ、売れ残りに売れ残って結局死を待つだけの子になってしまったってことじゃ。」
そのことをなんとも思わないのか、おじいさんは至って冷静だった。俺は、どんな顔をしているだろう。
多分、いろんな感情でぐちゃぐちゃな顔だろう。
「そ、そんなっ!まだ生きてるじゃないですかっ!息もっ!ほらっ!」
荒だった声をあげたあと、檻の格子を掴み、その子の顔近くになるだけ耳を近づけた。
はぁ。はぁ。とか細い、弱々しい息をしている。
「そんなの、生きてるうちに入らんじゃろ。わしはな、その子をずっと見てきたんじゃ。入荷した時からな。」
「それならなんでっ!」
俺は、冷静でいるそのおじいさんが許せなかったんだろう。軽くだが、胸ぐらを掴んで大きな声で聞いた。
「離さんか。初対面じゃろ?」
ふと我に帰り、すっと手を引いた。
「分かるぞ。その気持ち。だがな、こんな状態で生かされるより、処分場で安楽死させて貰った方がこの子のためになると思ったんじゃ。」
変わらなく冷静だったが、その子をじっと見て少し寂しさのようなものを感じ取った。
「なら、僕が買います。」
無意識にそんな言葉が出た。
その言葉に、驚いたようにこっちを見る。
「おま、この子はもう死を待つ子じゃぞ?!絶対に金の無駄使いになるだけじゃ!」
「そんなの、分かりません。僕の仲間には優秀な魔法使いがいます!彼女ならどうにかできる!きっと!」
確信はないが、この子を助ける綱はそれしかないと思った。
「……。わしとしては嬉しい限りじゃがな。」
少し間があったが、おじいさんはポケットから鍵を取り出した。そして、檻の鍵を取った。
「さ、持っていけ。金はいらん。どうせ、死ぬ運命じゃからな。」
そう言い残して、他の檻の後ろに消えていってしまった。俺は扉を開いてその子を抱き上げた。
小さい。そして軽い。息も、ほぼしていないような状態だ。優しく抱っこして、かつ早く、ユキのいるA品質ゾーンに急いだ。