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『ツキ』

作者: 悠太郎

 …目の前の、先生と呼ばれる男が微笑んでいる。

 今日初めて会ったばかりの男だ。


 優しい顔をした男。おそらく年齢は50代後半くらいだろうか。真っ白な膝まであろう長い白衣を着ているが、しかし中は黒のTシャツと、Yシャツではない。

 よく見るとTシャツの首元は少しくたびれており、敷居が高いようにも、低いようにも見える先生だった。


 先生の口調はとても穏やかで、ゆっくりと私に向かって何かを語りかけている。先生と呼ばれるのも分かる気がする。


 私は先生の向かいに座り、先生の話を熱心に聞いているフリをしていた。

 そう、フリだ。先生の口調は穏やかながらも、何か熱を帯びているようにも感じる。その為、私は多分そうしている。

 だがしかし、先生とは今日会ったばかりだ。


 先生の話は全く私の頭に入らず、ただぼんやりと聞こえる音に感じたが、先生が言葉の最後に『ツキ』と言った気がした。


『…ツキ?』


 ふと、私は何故かその二文字だけに反応した。妙な違和感を感じた。聞き返すのさえ面倒だったし、先生は少し間を置いてまた話を続けたようだったので、私は聞き返す事はしなかった。


 ツキ…

 私はふいにそれがどうしても気になり、考えた。

 この目の前の男は、これをどういう漢字で話したのだろうか。


 1.憑き

 2.ツキ(ラッキー的な意味)

 3.月

 4.尽き

 5…


 私は少し考えた。こうして考えていくと、ツキにも色々な意味があるのだな、と子供染みた考えをしてしまう。しかし、この考えが浮かんだ優先順位のようなものは、もしかしたら今の自分の心理状態を表しているのかもしれない。とも思えた。



 私は最近、自分なりに奇妙な出会いをいくつかしていた。

 先生ともそうだったが、私のネガティヴな何かが今目の前にいる、まだ何の信用も出来ない男を引き寄せたようにも感じている。

 いや、ネガティヴという概念もよくわからない。私は最近不運な事が続くので、正月におみくじを引く為にひとり神社に行ってみた。が、それもやはり『凶』だった。

 私に何かが憑いていて、あまり信じてはいないが霊的な負の要素がある気さえしている時期だ。だから『憑き』が最初に浮かんだのだろうか。


 ただ、出会いという点では、多くの人と出会える事だけに関して言えばツイてる、とも取れる気がする。だから二番目にきたのだろうか。


 色々な事を考えながら思わず天井を少し見上げたが、そこには無機質なコンクリートや冷やかな蛍光灯があるのみで、もちろん月は見えなかった。



 …人生とは、そういうものなのだろう。

 誰かが私に、ネガティヴな人の方がポジティブな人より癌になりやすい。と言った事があった。そんなふうに考える事もあるのか、と私は少し驚いたのを思い出した。


 私たちは、普段自分でも気付かないペースで多くの事を選択していると思う。例えば道の左右どちらを歩くとか、目の前のもの達を手に持つ順番とか。ついさっきの自分も、自分の今の状況や心理から『憑き』と最初に無意識に決定し認識し、結果、より先生にネガティヴな印象を抱いたのかもしれない。


 先生の話はまだ続いているが、私はやはり聞く気にはなれない。私は今も無意識に選択しているのだ。初めから『ツキ』と浮かぶ人間にならなくては、やはり巡ってきたチャンスにも気付かず、つまらない人生を歩んでしまうのだろうか。だから一般論では、前向きになりなさい。とか、ポジティブが成功の秘訣。とか、無情に平気で言えるのだろうか。


 ただ世の中の正論は大概正論だとも思う。言葉では理解出来る事も、確かに多いと個人的には思う。でも人間って、そんなに簡単な構造じゃないんだぞ、と反論したくなる事も、もちろんある。


 私は未だに先生の話も、先生と今日出会った事も、とてもじゃないがポジティブとかチャンスとか、思えない。

 しかし先生は何故こんなに熱心に私に何かを話してくれているのだろう。人の行為を好意と感じられるのも、自分の無意識の選択の問題なのだろうか。




 ふいに私は、この先生の話題も今執筆中の小説に入れてやろうと思いついた。

 そうすると、ネタが増えたような気がしてきて、今日は少しツイている。と少しだけだが、そう思える気もしてきた…







もし、最後まで私の小説を読んで下さった方がいるとしたら、私はその方に、本当に感謝します。


この作品は、私の二作目の作品です。

日々の生活の中で感じた事をどうしても書き留めてみたくなり、執筆に至りました。


知識も経験もゼロの中の超短編です。もしかしたら小説ファンの方達にとっては、大変失礼な作品になるのかも知れません。。


短いストーリーではありますが、私なりに想いや価値観を、熱を込めて書き上げたつもりではあります。

どうか、ご容赦ください。

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