ちょっとしたひととき
俺達は家に戻ってきた。あの後も何度か試してみたが、正真正銘俺に魔力はなかった。アリスに魔法を何度か見せてもらってお開きになった。
「か、叶人くん。そう落ち込むことないよ。叶人くんにはもっとすごいいいとこあるよ!」
アリス、その慰めが逆に効く…
まったく…自分に特別な力があるのではと、少しでも期待した自分が馬鹿だった。まあ、今までもそんな片鱗は一度も見たことはなかったけど。
そんなことは置いておき、これから何をしようか。リビングにあったソファーに腰をかけてそんなことを思う。することがこれっぽっちもなくてかなりの暇人状態である。
ふと、家族のことを思い出す。俺の家族は母と妹と俺の3人だ。家族仲は世間一般でいう普通なところだったが、そんな家族との関係が、俺は嫌いでなかった。今頃、家に帰って来ないだの誘拐だの大騒ぎしていることだろうか。そう考えると、少し申し訳なくも可笑しくも思えてくる。俺は戻らなくてはいけない。
しかし少しここで過ごし、意見が変わりつつあった。
だが、絶対ではない、と。
この世界には俺がまだ知らない多くの事があるだろう。
魔法をもっと見てみたいし、小人やドラゴンにだって会ってみたい。それに、ここも浮いているらしいじゃないか。
確かめないと気が済まない…俺は、もっと…
「ーーん…と、くん。叶人くん!」
何度も呼ばれていることにようやく気が付き、ハッとする。
「あ、ああ、聞いてなかった」
その態度が気に入らなそうに頬を膨らませる。
「なんで無視するのさぁ〜!」
「悪かったって。それと、俺やることないしさ、何か手伝う事ないか?」
アリスはキョトンと首をかしげる。
「お手伝い?ん〜、ママに聞いてみよっか!」
そう言うとアリスはトテトテ小走りに行ってしまった。しばらくして、『ママー、叶人くんがお手伝いしたいってー!』『あら、それなら…そうね、冷蔵庫の中が寂しくなってきたようだし、アナタと一緒におつかい頼める?』『んー!分かったー!』
と言う会話が聞こえてきた。そして、また戻ってきて、
「えとね、食べ物を街に買ってきて欲しいって。案内しなくちゃいけないし、私も付いてくよ」
全部丸聞こえだよ……
「いや~、荷物いっぱいになっちゃったね〜」
「お前が買うからだろ……」
「えへへ、だって頼まれたのが多かったんだもん」
「…まあな」
サラさんから渡されたおつかいメモの項目の多さに愕然としていた俺達だったが、それもなんとか全て無事に買うことができた。今はその帰り道、アリスと雑談をしながら帰っている最中だ。
「悪いな、こんなのに付き合わせて。面倒だっただろ?」
俺はアリスに労いの言葉をかける。家から街までは確かに距離があったが、結局もう夕焼けが綺麗な時間帯になってしまった。よくここまで買い物で時間を使ったものだ。それにアリスは驚いた顔をする。
「そ、そんなことないよっ!わ、私も楽しかったしっ」
多分本当だろう。俺はこの子と今日初めて……もとい、昨日会ったばかりだが、なんとなく、彼女は、嘘なんてつけないような子だと、直感的に悟っていた。
「それより、早く帰ろっ!早くしないと暗くなってくるよ!」
「ああ、サラさんたちに心配かけさせるわけにはいかないしな」
「あ、そだっ!行き道は通らなかったけど、近道あるよ!そこ行こっ!」
そう言うと、俺の返事も待たずに違う道に進路を変える。おーい、何にも言ってないんですけど……
まあ、仕方無い。
「待てよ、置いていくな」
少し先を歩くアリスに追いつくために、駆け足になる。地面に映る影がさっきよりも大きくなっているように見えたーーー