マグノリア家
テストが近いのに大丈夫なのてすかねぇ(笑)
みたところ、木造建築。2、3階はありそうな一戸建てである。落ち着いた薄い緑の壁のせいかなんなのかリラックスしているような、安心感がある雰囲気だった。
そんな家の2階から1階へ降りようと、知り合って間もない少女、アリスに案内してもらっているこの俺、水瀬叶人は異世界に来てしまったにもかかわらず、呑気にそんなことを考えるのだった。普通はパニックになったりするのが正解なのか、ひゃっほー異世界だ!っと盛り上がればいいのか、まあそんなことはどうでもいいのだが。
アリスは俺の服を引っ張ってハミングしている。そんな彼女の横顔を改めて観察する。容姿は思わず見惚れそうなくらい端麗。この褒め言葉が言い過ぎと思えないからまたすえ恐ろしい可愛さである。イメージカラーなのか青で服装を統一している。青いワンピースやトレードマークのごとき青リボンで後ろに黄金色の長い髪をまとめている。1階に降りるとすぐ、朝食の支度の香りが漂ってくる。見計らったように自分の腹が鳴る。
「あはは、もう叶人くんってば」
アリスが笑う。だがその直後にアリスからぐーっと音がする。アリスはみるみる顔が赤くなる。
「…あ、あはは…叶人くん。そ、そんなにお腹減ってたの…」
俺のせいにするつもりかよ。
「どう考えてもお前ーー」
「なにか?」
振り返って向けてくる笑顔がなんか怖い。
「…いえ」
あくまで自分ではないらしいね。まあどっちでもいいのだが。階段を降り、アリスが廊下の左奥の扉へ入っていくので、俺も後に続く。部屋はだいたい20畳以上はありそうなLDKの空間。キッチンは清潔感もあり、朝の日差しがちらちら見える。その中で何かの歌を口ずさむ女性がいた。おそらくあの人がアリスの母親だろうか。
「ママっ、おはよ」
アリスの声にその女性がこちらに気付き笑顔で迎える。
「あら、アリス。おはよう、その彼氏さんも」
「あ、どうもおはようございます。俺は水瀬叶ーーって、ゲホッゲホッ、い、いえアリスとは全然そんな関係ではなくてっ!?」
俺の慌てた様子にアリスの母親はクスクス笑う。
「ふふっ、分かってますよ。ちょっとした冗談ですから」
冗談に聞こえなかったんですけど…アリスをチラッと見ると困った様に笑っていて、「こうなると思ってたよ」と言いたげな目を向けてくる。ただ、そんなことはすごく赤い頰を隠してから言ってほしい。
「初めまして、私はアリスの母のサラと言います。気軽に接してもらって構いませんよ」
礼儀正しい言葉使いの中に、親しみやすい暖かさが感じられる。アリスと似ているのは、やはり親子だからだろうか。笑った顔がとても魅力的だ。
「あ、はい。改めまして、俺、水瀬叶人って言います。あの、娘さんにはお世話になっております」
「あら、気を使わなくてもよろしいのに。もう少しで朝食ができますから、リビングでくつろいでいらして下さいね」
そう言ってサラさんは支度に戻る。
俺はアリスとリビングにあったソファに腰をかける。
「いいお母さんだな」
「あははっ、うん。ちょっと困るとこもあるけどね」
まあ、お前も似たようなもんだけどね。
そのとき、ドアが開いて人が入ってくる。現れたのは俺より2、3歳年下と言ったところ。黒髪混じりの金髪、白いTシャツにジーンズというラフな格好だ。目付きは悪い方か。その少年が俺に気付き、こっちに近いてくる。
「ようっ、えーっと…確か叶人さんだったか?姉貴にもう聞いたぜ。俺っ、エールって言うんだ、よろしくなっ」
そして俺の手を素早く取ってぶんぶん上下に振る。痛いし。
「お、おう」
あまりの勢いに圧倒され、しどろもどろになってしまう。って言うかコイツフレンドリーすきるだろ…
アリスが助け船を出してくれる。
「ごめんね、叶人くん。私の弟って、何かしてないと気が済まないんだよ」
「んだよ、仕方ねえだろっ。根っからこうなんだからなっ」
と言って偉そうに腕を組む。
「姉貴こそ何で急に男が出来たのかしんねえけど…」
「わ、私と叶人くんはそんな関係じゃないしっ!!」
「へえっ、コイツがねぇ」
「…なんだよ」
「よしっ、折角だし親父とも挨拶済ませとくか」
その挨拶って言い方が腹立つところだ。完全にからかっているようだ。そう言い残してエールは、部屋から消えて行った。俺何も言ってないのだが…
「俺、なんで出会って2日の奴の家族に挨拶してるんだよ…」
なんか自分自身に幻滅して、深々と溜息をつく。
「ま、いいじゃんっ。別に悪いことが起こる訳でもないんだし」
いやそうじゃなくてね?いろいろと俺の立ち位置がね?まあこれくらいでその話は切ろう。
「そういや、アリスって魔法使えるんだろ?」
突飛な問いにキョトンとしたアリスが首をかしげる。
「え、うん。確かに使えるって言ったけど」
「俺のいたところはそういうのなかったからさ。朝ごはん終わったら見せてくれよ」
その言葉にアリスはぱあっと明るい笑顔になる。
「う、うんっ!いいよ!」
突然、ドアが勢いよく開けられる。エールだ。
「おい兄貴っ!」
「誰が兄貴だ」
全力で否定する。
「親父連れて来たぞっ」
そして後ろにいた人物を無理矢理前に引っ張り出す。身長は、180cmをゆうに超えている。エドとよく似た黒髪混じりの金髪の髪。なんだか知性的な印象を受ける。パジャマ姿でまだ状況が分からず、キョロキョロしている。叩き起こしてきたのかよ……
「親父、叶人さんだっ」
「え…あ、ああ、昨日アリスが家に連れて来た子だね」
思っていたより柔らかい話し方をする人だ。ようやく合点がいったらしく大きく頷く。こちらを向き、
「いやぁ、悪いね。こんな寝間着姿で挨拶するつもりはなかったのだけれど。僕はアリスのお父さんのレスターと言うんだ。よろしく頼むよ」
と、俺のすぐ横の何も無い場所に握手を求める。呆気に取られていると、
「あ、パパ。メガネ忘れてるよ?」
アリスがそういうと、アリスの父レスターさんは思い出したかのように胸ポケットからメガネを取り出す。かなり目が悪いらしい。
「あ、これは失礼。まだ起きたばかりでね、許してくれ」
笑いながら頭をかき、改めて俺に握手をもとめる。どこか抜けているところが誰かさんに似ていて、フッと笑みをもらす。
「はい、水瀬叶人です。お邪魔してます」
その手に俺も応じていう。なんと言うか、この家族で一番まともそうな人だな、いい意味で。俺は心の中でホッと息をつく。
「で、アリスとはどこまで進んでるんだい?」
アンタもか!
ニコニコした顔でいるレスターさんに抗議の視線を送ると、少し笑いながら肩をすくめ、何も言わずに部屋から行ってしまった。短時間にいろいろ起こったなと息を吐く。が、どこか憎めない家族だ。
「いい家族だな、みんな少しアリスに似てたし」
「えへへ、そっかなぁ……ん?なんかバカにされてる?」
あれ?と首をかしげるアリスに吹き出してしまう。
「……クッ…はは……き、きのせいだ」
その態度が気にいらないようで、アリスは頬を膨らませて睨む。迫力は皆無だが。
「あ、ちょっとぉ〜!」
そんな俺の心中もつゆ知らず、いつもと変わらないアリスと雑談している最中、サラさんが、
「皆さん朝食の準備ができましたよー。集まって下さーい!」
という声がかかり、俺達は食卓のテーブルに向かう。
続く……てす