森にいた
この俺、水瀬 叶人は気付いた時にはもう、全く見覚えのない場所にいた。
俺はどこかの森で仰向けに倒れていた。下の方から草や土の感触が伝わってきてくすぐったい。あまりの状況にしばらく固まっていたが、なんとか上体を起こす。そして、起きる前に何をしていたか記憶を辿る。確か……川でダンボールに入って流されていたネコを見つけて…助けようとしたのだが、うっかり水を飲んで、意識が遠くなって…
気付いたときには森。結論を言うと
「意味不明すぎるだろ」
森の中で一人で絶叫した。その後の静寂が虚しく感じて溜め息を吐く。どう転べばこのような状況に陥るのか全く理解できない…服はほとんど乾いていたようだが、ところどころでまだ湿っている。あれから数時間たったとみていいだろう。
「まあ、うじうじしていても仕方ないな」
俺は立ち上がって周りを見てみる。森と言ってもそこまで深いところでもなさそうだ。大きな木に周りを囲まれていて、明かりはその隙間から僅かに注ぐ木洩れ日のみで薄暗い。が、少し向こうに行ったところには光がさしているらしく明るい。それが唯一の救いだった。
「向こうまで行ってみるか」
光に向かって進んでいく。途中で周りの草花に足を取らせそうになって転びかける。とても歩きにくい。平行なコンクリートに慣れている俺は、このデコボコだらけの場所がどうも苦手らしい。まあそんな環境に慣れていくと共に、視界が少しずつ明るくなっていく。木々から抜けると、ぱっと光が俺の目に入り込み、思わず目を閉じ、顔に手をやって日陰をつくる。。その空間だけ丸く木をくり抜いてできたような野原があった。花が咲いていたり、クローバーが埋め尽くしている。そして目の前に一人の女の子がいた。その子はキョトンとした顔をしていたが、
「ぅうひゃあぁぁ‼︎‼︎」
「うわっ!!」
彼女がさきに叫び声を上げて尻餅をつく。それに驚いた俺も後ずさって声を漏らす。なんとなく人に会うことはないと思っていたので余計に驚いたのだ。落ち着いてからその少女に眼をやる。どうやら俺と同年代ぐらいだろうか。だがそんなことよりも、その少女の顔に目が止まってしまう。とても綺麗だった。人形のように整った顔立ちだ。いっそ本物の人形だと言われれば迷わず信じただろう。キラキラしたまだ幼さ残る紺碧の目。金髪の長い髪。日本人離れした外国人のような雰囲気だ。その長い髪を青いリボンで束ねている。青がトレードマークなのだろうか、青いワンピース姿に青い水玉の靴下と青い靴。青尽くしだ。そんなことよりヤバい…俺英語は苦手なんだけど…
彼女はまだ驚いているようで「……どうしてこんなところに…」と目を丸くして呟いていたが、どうにか身を起こす。何度か目を瞬かせてから思い出したようにぱあぁっと盛大な笑顔を向けてくれる。
「え、えとっ、こ、こんにちはっ!とっってもいいお天気だね!」
ニコニコしながら子供っぽい挨拶をしてくる。イメージとは違い、とても天然そうな子らしく面喰らう。
「え…あ、はい」