魔道士
「ライトニング!?」
アリスが素っ頓狂な声をあげてて目を見開く。その様子に困惑した俺は戸惑って尋ねる。
「ど、どうしたんだ?ライトニングが何かあったのか?」
すると横からエールが、耳元でささやく。
「兄貴、この世界でライトニングは小さいガキでも知ってる最強の英雄の名なんだぜ」
最強の英雄?つまりこの俺達の前で座っている柄の悪い男がそう言われているということか。
「魔法使いには、その力量に応じた称号を与えられんだ。低いほうから非魔術師、魔力感知者、魔法使用者、魔術師、初級魔術師、中級魔術師、上級魔術師、高等魔術師、そして魔導師。当たり前だが、称号が高くなる度に該当者も少なくなっていくが、魔導師は別格。この世界に2桁もいない、魔法の神道をいくヤツらだ。その中でこのアレクサンダーは最強だと言われていてさ。それまであと五年はかかると言われた戦争をたった半年で終結させた、雷鳴の魔導師『ライトニング』と呼ばれて恐れられているんだぜ。つまり……」
その最強がこうしてはるばる、ここにやって来たというのはただ事ではないということかよ……この若さでそこまで言われるほどの強さを身につけるとは、このアレクサンダーという男には計り知れないものがある。
「ちげぇよ」
その魔導師、アレクサンダーはポツリと、しかし怒気を含んでつぶやく。それにビビったエールがぴしっと気を付けの姿勢になる。
「な、何か間違えたっスかね?」
「俺の名はアレクサンダーじゃねぇ。名はアレク、苗字がサンダースだ」
あのバカ、名前を間違えて呼んでいたのか……まあ、ややこしい名前だけどな?アレク・サンダースだろ?あ、何故かアレクサンダーと呼びたくなるの分かる気がする。
「ま、ちっとばかり事情があってよぅ。普段はこんなことねぇんだが、評議会で働くことになっちまってな。あまりこのことは広めんなよ?」
そう言ってアレクはこちらに鋭い目を向ける。
「んで、そろそろ本題に入りてぇんだが」
そうだった。この男は俺に評議会への同行を求めてきたのだ。
「それで、俺が評議会の方に行かなきゃいけないってどういうことですか?」
「そのまんまの意味だろぅが、テメェはあのリーフメトラと交戦したようじゃねぇか。一応あれも竜として知的生命、つまり人に数えられるんでな。傷害罪っつーことになるんだ」
その意欲のない抜けた言葉にアリスが反応する。
「そんなのおかしいじゃん!だって私たち食べられそうになったんだもん、叶人くんは全然悪くないよ!」
「んなことくらいわあぁってる、すぐに正当防衛として片付けられる。向こうもまだ子どもで知性はまだ発達していなさそうだった。けどよぅ、いっぺん評議会のほうで取り調べを受けさせんのが規則でなぁ、それ無しだとテメェらも、のちのち面倒なことになっちまうんだ。悪ぃが協力してもらえねぇか?」
なるほど、レスターさんとサラさんが言い淀んでいたのはこの事か、とそう悟る。それになぁ、と前置きをして身を乗りだしてくる。
「気になってんだよなぁ、おい」
「…何がですかね?」
「テメェ、あの竜をどうやって倒した?まったく魔力は感じねぇが、丸腰でやり合ったっつー訳でもねぇんだろ」
俺はその質問に顔をしかめてしまう。自分でも説明できないからだ。
「俺にだって分からないですよ。意味がわからないまま、突然手から短剣が出てきてーーー」
俺の話に、さらに目つきを悪くする。
「おい、どういうことだ。魔力はねぇんだろ?」
その態度に流石に癇に障り、睨みつけてしまう。
「……はい、あなたが言ったとおりです。調べてみましたけど、俺には魔力は全く無いらしいので。だから、こんな魔法みたいなことが突然起こって意味が分からないんです」
「だいたい、どう見ても赤の他人のテメェがここにいんだ?答えたくねぇんなら別にいいがよぉ」
アレクが鋭いのは目だけでないようだ。
「実は俺、数日前に違う世界からここに迷い込んでしまってーーー」
俺はこれまでの経緯をありのままに話した。
その話を、アレクは心底意外そうに聞いていた。
「おー、珍しいじゃねぇか。そういう奴は前にもいたが、最後に見たのは十数年前ってとこだなぁ」
そこで言葉を切り、アレクは笑い出す。
「んでもって、知らねえやつに力渡されて、理由も分かんねぇってか!?ハッ、テメェおもしれぇな」
「お、面白い?」
相手の反応に面食らう。そこで彼は言葉を切り、ニヤリと笑ってこちらに身を乗り出した。
「おいテメェ、オレと来ねぇか?」
「……………は?」