結局と行方
竜は、ものすごい音を立てて盛大に倒れ、地面が少し揺れた。短剣であの巨体には、浅い傷しかつけれなかったし、急所に攻撃を加えたわけではないので、死ぬことはないだろう。
終わったのだ…ようやく緊張から解かれた俺は深く息を吐きだす。
と、同時に、みなぎっていた不思議な力も抜けていくのを感じ取った。もっていた短剣をみると、これも少しずつ光の粒子になって飛散していき、やがて跡形もなく消えていった。
途端にどっと疲れが押し寄せてきて、思わずへたり込む。
一体全体、あれは何だったのだろうか。あの人物がさっきの力を与えてくれたとみて間違いないだろうが、方法も目的も全く分からない。謎だらけで意味が不明だ。
と、向こうの遠くから人の声が聞こえてくる。アリスが呼んできてくれたのか。少し遅かったが助かった。ここから一歩も動ける気がしなかったからだ。
俺はその声にむかって精一杯声を張り上げたーーー
それから数日が過ぎた。ベッドの上で目を覚ます。寝起きで少し倦怠感もあるがのそのそと着替え始める。それが終わると部屋を出る。すると、アリスに出くわす。まだ寝癖をつけえアクビをしており、彼女もたった今起きたみたいだった。こちらに気づくとすぐに笑顔になる。
「叶人くん、おはよう!もうすっかり元気だね!」
「ああ、もともと傷もなかったからな。ただ大事をとっていただけだったし、もう大丈夫そうだ」
それまで安静にしているようにアリスのお父さんレスターさんに言われていたのだが、ついに許可がおりてこうして日常に戻れている。
あの後、俺はアリス一家に家へ担ぎ込まれ、とても手厚く看病され(ただ疲れただけなのだったが)、その次の日には質問攻めにされた。なぜ森から来たのか、竜にあった経緯、その後どうやって竜から自分の命を守ったのかと、知っている限り正直に話した。
あの不思議な体験についても聞いてみたが、みんな知らないようだった。また短剣をだせるか試したものの、その後は全くでることはなかった。
ちなみに、あの緑の竜は身動きがとれないように縛ったらしく、後から来る専門の人に任せておいたそうで、この2,3日で手配しているらしい。
とにかく、こうしてまた平和な日常に戻ってこられたわけだ。久しぶりにベットから抜けだしたからか、のびが心地よい。
「あ、あのね…」
不意にアリスが切り出す。
「ん?どうしたんだ?」
俺が視線をむけると、少しアリスは落ち込んでいるように目を伏せていた。
「今回は無事でよかったけど、ホントだったら叶人くん、1人だったら死んじゃったかもなんだよ…」
「いや、別に俺は死ぬ気なんてなかったけどーーー」
「そーゆーことじゃないの!」
突然大きい声を出したアリスに驚く。
「私がいいたいのはね、1人で全部頑張ろうとしないでってことなんだよ。私もいるもん、叶人くんは1人じゃない。2人でやればもっとうまくやれたかもしんないし、叶人くんだけ傷ついてるのなんてみたくないよ…」
この深刻な雰囲気に耐えられない俺はおどけてみせる。
「大丈夫だって。ほら、あんあに怪我していたけどあの後ーーー」
「叶人くん……」
「…」
「次は私を頼ってね?」
「……ああ」
「ホントに?」
「約束するさ」
「うん、約束ね?」
俺が頷くとようやくアリスにも笑顔が戻る。
「よし、じゃあいこっか。寝坊しちゃったから、きっともう朝ごはんできてるよ!」
そう言って元気に階段を駆け下りていく。頼ってほしい、か。でもな、もう俺はお前に頼りっぱなしなんだ、アリス。もし森でアリスに出会っていなかったら、全然違う人生になっていた気がするんだ。お前には他愛のないことかもしれないが、俺にとってはとても重要なんだ……
みんなをまたせるのも悪いので、ここで切り上げて俺も1階に降りていく。