小さな短剣
目を覚ますと、またさっきの場所に戻っていた。俺は直前まで立っていた場所から10mほど離れたところで倒れていた。竜は勝ち誇ったように唸りスルスルとこちらによってきている。どうやら、意識をうしなってからまだ数秒しかたっていないようだ。あの奇妙な時間はなんだったのか、辺りを見回すが人の気配はない。が、こうしてはいられない。とにかく動かないと…
俺は立ち上がり、ヤツとの距離を取る。われながらなかなかタフじゃないか。俺と竜は睨み合い、沈黙した。
ほら、こいよ……俺はもうやられたりしない。生きてやる。
絶対に死んでたまるものか!
そう心の中で叫んだとき、胸の奥から何かとてつもないものが溢れだしてくるのを感じた。
魔力?いや、違う……魔力は俺の中に全くないはずだ。それに、これはもっと……
そう思ったかと思うと今度は左手が焼けるように熱くなる。思わずそちらに目を向けると、手の甲から鋼色の剣の柄が出てきた。ぎょっとするが痛みはない。
なんだ、これ……その剣はスーッと中から通り抜けるように刀身を現す。
それは刃渡30cm程度の短剣だった。俺は直観的に悟った。これがあの謎の男が貸してくれた力なのだろう。どういうことかは全く分からないが、今はこれが唯一の突破口だ。俺はその柄を握ってみる。
っっ!!!
途端に体中から力が溢れ出るような感覚になる。
竜は警戒したのか、怯んで襲ってこない。体が羽のように軽くなり、今ならなんでもできそうな気がした。と、あることに気付く。全身の傷が塞がっていくのだ…さっきまでドクドクと血が流れ出ていた腕の傷口はみるみると回復していき、他の傷ももはや消え去っていった。これも、この短剣のおかげなのか……すごい。俺はヤツに向き直って不敵に笑う。今なら、何も怖くない…!
「反撃開始だな」
今度は俺が先制した。地面を蹴り、周りこもうとする。恐ろしいほどの脚力が自然と加わり、ほとんど一瞬で移動する。そして地面に着いた瞬間にまたヤツに飛びかかり、胴を切りつける。まるでペーパーナイフで紙を切るような刃通りだ。
[ギャグォォオオン!?」
ヤツは悲鳴を上げてその場でのたうつ。かなり効いているようだ。だが、すぐにまた諦めず、俺へ突進して来る。それを俺は真上に跳躍して躱しながら、近くの樹の幹を足場にして跳びかかり、そのままヤツの体に短剣をつきたてる。刺しては躱し、刺しては躱す。苦しそうにヤツは払いのけようとするが無駄だった。ヤツを攻撃するごとに、どんどん速くなっていくのを感じる。もっと速く、もっと強くなる……
そして竜は堪忍袋の緒が切れたかのごとく体をのけぞらせて、大きく全身で振り落とそうとしてくる。が、それに俺は逆らわずに竜から離れる。
次で、終わらせる……
着地してすぐにヤツにむかって走る。ヤツの鱗を前にして俺は短剣を大きく振りかぶる。
本当に…散々な一日だったよ…