一対一
直撃したかと思えた。
しかし、途端に竜が体を捻り、一気に遠ざかる。唖然としたアリスと俺だったが、もう遅かった。アリスの手から白い光が虚空に放たれ、空中で散り散りになっていった。
やられた。あの竜は俺達の考えがお見通しだったのか……誘い込んでいたつもりだったが、逆に誘い込まれたのだ。なんと狡猾で利口なのか。
そこまで考えに至って、突然に真横から衝撃が加わる。俺は横に吹っ飛ばされた。内蔵がシェイクされ、思考は停止、目が飛び出しそうな激痛に襲われる。そして近くの木に体が叩きつけられ、呼吸が止まる。腕に枝が刺さり、血が噴き出す。そのままズルズルと落ちて仰向けに倒れた。何が起こったか理解できずにいたが、目の端っこにあの竜の姿を捉えた。
そうか、ヤツが体当たりしてきたのか。
身体中がボロボロになっても冷静さを失わない自分がいた。少し身動きできるまでまで意識が回復し、腕に刺さった枝を引き抜く。さらに血が吹き出す。普通なら痛過ぎて発狂しそうなものだが、アドレナリンが多量に分泌されてもはや痛みも、ほとんど感じない。
「叶人くん!?」
アリスが悲鳴のような声をあげている。まだ無事なようだ。よかった……
心配させないようすぐに立ち上がる。まだ竜の注意はこちらに向いたままだ。魔法を使うアリスは厄介と判断して、俺を狙うことにしたようだ。
「早く、逃げ……ろよ。助けを呼んでくれ……」
途切れ途切れになりながらも声を絞り出す。
「できないよ!叶人くん死んじゃうかもしれないじゃん!」
「早、くしろ、ヤツの…注意が俺、1人に向いているうちに……」
「でも…」
「頼、む…俺は…大、丈夫だから……」
心配そうに怯えるアリスに、精一杯力強く笑いかける。その意志が伝わったのか、アリスは少し迷ってから覚悟を決めたように走り去る。これでいい。
さて、で一対一になったわけだが、途端に竜が俺めがけて突進してきた。反射的に横へ体ごと飛び込み、なんとか躱す。腕を思い切り擦りむいて、血がダラダラと垂れてくるが知ったことではない。歯を食いしばってなんとか立ち上がり、にっと笑い、言葉を投げかける。
「……どうした、馬鹿蛇、それしかできないのか?」
「ギャグゴゴゴォンン!!!」
挑発が通じたのか、ヤツは躱されたことに怒ったかの如く、また同じ突進を繰り出す。が、行動が先読みできた俺はいち早く回避しており、突進は空を切り、木に激突する。
よし、これなら、助けが来るまで、なんとかなるかもしれない……
「どうした…もう終わりか……」
また、竜に向かって言う。竜はこちらを睨みつけ、低く唸り声をあげる。今度は突進はしてこず、また策を練るように近づかず、俺の周りを和のようになり囲んで逃げられなくする。こうなるとコイツはとことん厄介だ。自分の強さに奢らず、確実に仕留めようとしてくる。ヤツがまたも仕掛ける。尻尾を鞭のようにしならせて俺を打とうとしている。なんとか1度目は躱したが、また間髪いれずに2度目がきて避けきれない。体全身を鞭で打ち付けられたような痛みが駆け巡り、そうしてようやく俺は意識を失ったーーー