必死の攻防戦
それを直接見たドラゴンは苦しげに咆哮を上げ、そこらをのたうち回る。その衝撃で周りの木が小枝の様に折られていく。よほど堪えたと見える。しばらくは目は使えないだろう。まだ眩しいがようやく少し視界が見えてきた。
「よしっ、これでしばらくアイツは行動できない。早く逃げるぞ!」
アリスはコクリと頷き、また二人で走り出す。その最中、さっきのことを質問する。
「あの閃光玉みたいな魔法って何なんだ?かなり強烈だったけど」
「あれはね、エールが考えたイタズラ魔法で、名前は確か…「フラッシュバン」て言う『ぴかっ』てするやつだよ。咄嗟に思い出したのがあれだったからっ!」
なるほど、あの弟が考えそうなことだ。イタズラで済まないレベルの魔法作りやがって………だがそのおかげで命拾いしたし、帰ったら少し褒めといてやるか。これで少なくとも5分くらいは足止めになった………
「ギャガォォォオオオンンン!!!!!!」
と思っていたが、そうでもないみたいだ。あのドラゴンはさっきの閃光玉に怒り狂ったように暴れ出す。木々があちこちに投げ飛ばされる。
その1本が、俺たちの方向に飛んでくるのに俺はいち早く気付く。
まずいな…
今からアリスに指示を出していたら間に合わない……!!仕方無い。
「アリスっ!!!」
横にいるアリスに叫び、こちらを向かせる。その瞬間に俺はアリスの体を掴み、押し倒して一緒に伏せる。アリスは俺の行動に仰天していたがそれは後だ。次の瞬間にはアリスのいた場所に回転しながら斜めに飛んできた木が通過し、地面にぶつかってバキバキッと砕けていく。
「悪い、急に。立てるか?」
「う、うん。びっくりしたよ!!」
まだ驚いているアリスを立たせながらも、ドラゴンの方を見る。先程よりは大人しくなったが、いつまた暴れ出すか分からない。さっさと離れたほうがいい。だが、そのドラゴンはこちらにキッと顔を向けて唸りだす。数分とはいえ、確実に目は見えないはずだった。しかし、何故…
「そうか…嗅覚か…鼻が潰せなかったか…クソ!」
竜のことまはよく知らないがおそらく、鼻がよい。あいつは俺たちの匂いをたどろうとしているに違いない。
「アリス、鼻は潰せないのか!?」
「一応、あるけど…」
またあの弟か、便りになるじゃないか…
だが今度は先程と状況が違う。閃光玉の魔法をくらわせた今は、高確率で次の攻撃が警戒されるだろう。さっきのように当てるのはまず無理だ。
「ギャグググォォンンン…」
ドラゴンは低く唸り、体をスルスルと動かす。さっきの様に無闇やたらに攻めるのはやめたようだ。まあ、それはこっちにとっても好都合なんだよ。
「とにかくアイツを引きつけないとその魔法も当てられそうにない。逃げて逃げて追いかけさせるんだ」
アリスはコクリと頷いてまた走る。できるだけ音を立てるように動き、注意を引こうとする。
視覚を潰された今、出会った時のように余裕を持ち合わせていないだろう。
奴は必ずのってくる…
「ギャグゴォォォンッ!!」
よし、来た!
優雅に動かしていた体の動きが少し荒くなった気がする。目の影響で確実に集中力が落ちている。
今引きつければかなりの確率でヤツは行動できなくなる。
俺は逃げながらも隣にチラリと目をやる。アリスの息もかなり上がっている。もうこれ遠くにはいけなさそうである。
「アリス!頑張れ、あともう少しだ!」
励ましの言葉をかける。かなり辛そうだが、あともう少しでヤツを捲ける……
頼む、耐えてくれ……
竜は俺達が逃げると思いこみ、どんどんとこちらに向かってくる。
あと8m... 5m... 4m... 2m...
「アリス、いけ!」
寸前まで迫ってきたのを見計らって、すかさず指示を出す。アリスはパッと竜に体を向け
「いっっけえええ!!!」
思い切り叫び、腕をつき出し、魔法が竜に直撃した……