ディナータイム
「「り、竜!?」」
驚きで声がはもる。そうは言ったものの、竜というより蛇に近い。
手足はなく、体を左右にふってニョロニョロ動いてくる様はまさに蛇さながら。
体長は目測でだが、20mはある大蛇。しかし、俺はこの化物をあえてドラゴンと呼んだ。
何故か。
それは有無を言わせない絶対的な力がそうさせたのだ。あれはドラゴンだ。と言う押しつぶされそうな圧迫感に見舞われたのだ。恐怖・戦慄・絶望、そしてほんの少しの恍惚。様々な感情が入り混じり、俺はその場から動くことができなかった。こんな経験をしたことが人生であっただろうか。竜は俺達を見てじっとしていた。奇妙で静かな、しかし確かに渦巻く殺意の間が空く。
「……っ…叶人くんっ!に、逃げよっ!?」
俺と同じくしばらく固まっていたアリスだったが、俺よりいち早く回復して叫ぶ。俺もようやくハッとして来た道を全力で引き返す。ただ、本能の赴くままだった。
「っていうか、なんでこんな森にドラゴンなんかがいるんだよッ!?」けっこう最悪なファーストコンタクトなんですけど。
「し、知らないよぉ〜!!!!」
ああぁ、ちくしょう…
何も考えず、足を動かす。奴は追って来なかった。全く物音が立っていないからすぐ分かった。だが、俺には分かった。奴は、俺たちがどんなに逃げていたとしても、捕まえられる自信があるのだろう。それはおそらく、人がアリを踏むのにわざわざ全力を出さなくても、必要最低限の動作で潰そうとするのに通じるものがある。そしてこの場合、人はドラゴン、アリは俺とアリス。走りながらもアリスに声をかける。
「な、何かっ、魔法はっっ!?」
「魔法!?そ、そんなこと言っても……」
が、突然遮られる。ドラゴンが動き出した。蛇のように体を器用にくねらせ、かなりのスピードを出している。
「この際、なんでもいい!!アイツの注意を引ければなんでも!!」
こうなれば追いつかれるのも時間の問題だ。その前に手を打たないと……!切迫した声にアリスは真剣な表情になる。
「わ、分かったっ!え、えとじゃあこれ!!」
そう言ってアリスは上体だけひねり、ドラゴンに手をかざす。
「えい!!」
パーーーーーンッッ!!!!
盛大な音と共に光が弾け飛ぶ。恐ろしい程眩い光が辺りを包む。直接光を見たわけではないが、急な閃光が目に飛び込んできて一瞬なにも見えなくなる。
「ギャガガガガォォンンンンン!!!!!!」