日常の光景とは
異世界導入前
「おい、叶人。補習も終わったしそろそろ帰ろうぜー。」
世間で言う夏休みに入った7月の下旬。
補修が終わり、数人の生徒が帰っていく中、水瀬 叶人の背中に馴染み深い声がかかる。夏の蒸し暑さは例年と比べ、ちょっとした異常気象と呼んでも過言ではないと思う。俺が何故そんな環境でも平気なのかというと、紛れもなくこの教室のエアコンのおかげなのだろう。まあ今はどうでもいいのだが。
「その言い方は俺も補修を受けていたように聞こえるだろ、静葉」
溜め息を吐きながら振り返るとそこには俺の悪友、風宮 静葉は頭の悪そうな笑顔で立ちはだかる。茶髪に染めようとした結果、下手くそにところどころ残る黒髪のムラや、その他このようなバカっぽい行動がドン引きを喰らっているらしい。実際バカである。ちなみに俺は補修ではなく、夏休み前の最終日、学校に忘れていた参考書を取りに来ていただけであり、赤点をとったなどの理由があるわけではない。
「んだよ、ノリ悪いなー」
「いや、ノリと言うか、お前は勉強の方は大丈夫なのか?赤点とっているんだろ?」
俺の問いに静葉はニヤリとして髪を搔き上げる。
「フッ、それは違うぜ?」
「いやだって…」
「もはや勉強など捨てた」
捨てるなよ…リアルにずっこけそうになったし。
「ば、バカ、何ちゃっかりゲーセン行こうとしてんだよ⁉︎今すぐ机に直行だろ!」
あまりに呆れ果て、俺は言い返す。
「オレは現実という名のボールをバントするだけの技量は持ってるつもりだ」
「バントする前にバットで打とうとする努力をしろ!」
あいも変わらず、どこか抜けた会話が続く。
改めて自己紹介しよう。俺は水瀬 叶人。高校一年16歳。現在、神奈川市のとある高校の生徒である。いたって突飛するような才能もない、ただの高校生だ。少し無口で、友人はあまりいない。入学当初、クラスで隣の席のやつに話しかけてみたところ、そいつがコイツだったのは運のつきだった。
「硬いこというなよ。まだ夏休みも始まったばかりだしよー、一日くらい息抜いたって叱られることはねーさ」
「まあそうかも知れないけれどな…でも悪い、今日は母さんの誕生日でさ。妹の飾り付けを手伝わないといけないんだ」
そういうと、
「そーか、叶人のお袋がなー。そりゃしかたねーな。じゃあ1人でいくけど、次はまたゲーセン行こうぜー」
そういうと背を向けて歩いて行く。その背中にむけ
「ああ、悪いな。またの機会に…というかお前は勉強しておけよ!」
一瞬騙されそうになるが引っかからない。静葉はがははと笑いながら逃げていった。
困った悪友だが悪いやつではない。静葉はもともとコミニケーション能力はよいのだが、俺との付き合いを優先するせいでどうしても周りとの関わりが減ってしまう。友達のできない俺の数少ない友人でいてくれることは俺も嬉しかった。俺は最後まで静葉の小さくなっていく背中を見ていた。
俺は教室を出て、家に帰宅するために動き出す。グラウンドでは運動部の部員たちのかけ声が聞こえてくる。野球部が打ったカキーンという快い金属音を聞き流して、俺は学校を出た。
ん、こんなもんてすね