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女王陛下のおちゃめなイタズラ

作者: 高瀬めぐみ

 ここは女王陛下の大いなる力により守られている世界。

 女王陛下には、7人の補佐官が女王を助ける為に存在していた。


 そんな偉大なる女王陛下には、愛してやまぬ妹がいた。

 女王陛下と同じく世界を守る力を持ち、どちらが女王になるかと先代女王に問われ、互いに相手を思いやり自分こそがその重責を負い、姉妹には安息の日々をと願い合った妹である。


 その女王陛下の妹――フィアナが、補佐官の1人――ギルバートと魅かれ合い、恋をして結婚したのがつい先日のことである。




 これは、そんなある日の出来事であった。







「なっ・・・なんだこれはー!!」


 その日の朝は、ギルバートの叫び声から始まった。



 この素っ頓狂な、普段まず聞くことのないギルバートの叫び声に、屋敷にいた使用人達を始め、庭の木にとまっていた小鳥たちもあたふたと慌てて飛び立って行ったのだった。


 ただ一人、先日やっと結婚を許されたギルバートの最愛の妻であり女王陛下の妹であるフィアナ一人だけが、叫び声をあげたギルバートの後ろで何事もなかったかのようにスヤスヤと気持ちよさそうに布団に潜ったまま眠っていたのであった。





「何でこんな・・・何か原因が・・・」


 叫び声をあげた後、頭を抱えるようにしてブツブツと独り言を言ったかと思うと、ギルバートはおもむろに立ち上がり、手早く着替えを済ませて部屋を飛び出して行った。





「ギルバート様、一体何が!?」


 バタバタと主の部屋へと向かって走って来ていた執事の横を走り去り際、『訳は後で話す』と言い残し、ギルバートは一路女王陛下のおわす王宮へと向かった。


 その後姿を呆然と見送り、執事は愕然として思わず今見た現実に頭を抱えそうになったのであった。


 そして、一言ポツリと呟いた。


「今のは・・・ギルバート・・・様??」







「陛下!・・・陛下!?」



 王宮に到着したギルバートは、すぐさま女王陛下その人に会う為に謁見室へと向かう。


 そこにはまるで、ギルバートが来ることが解っていたかのように現女王であるミリアナが待っていたのだった。




「あら、おはようギルバート。早いわね。」



 部屋に入ってきたギルバートに、ミリアナはニッコリと微笑んで何事もないかのようにそう言った。



「陛下・・・この姿の俺を見て、驚くことなくそう言われるという事は・・・

 やはり、あなたの仕業ですか!!」



 ギルバートは朱金の長い髪を振り乱し、妖艶な身体を怒りに震わせながらそう言った。


 そう、今まさにギルバートは男ではなく、多少きつめの顔立ちではあるが絶世と付く美人の部類に入るであろう女性の姿をしていたのである。



「おほほほほ・・・


 ちょ~っと昨日のお茶会のお茶に、魔女殿からもらった秘薬を入れてみたのですわ。

 もちろん、私以外の全員のカップにですわよ。」



 さも楽しそうに笑ってミリアナはそう告白する。



「という事は・・・」



「もちろん、フィアナの飲んだお茶の中にも入っていてよ。」



 ニーッコリと笑って、ミリアナは悪びれることなく言った。





「ま・・・まさか・・・フィアナは男の姿になってるんじゃ・・・」



 ミリアナの言葉を聞いて思わずギルバートはそんな事を想像してしまい、顔面蒼白になる。


 自分の姿に驚いていたため、布団に潜って眠っていたフィアナの姿には、全く気づいていなかったのだ。



「あぁ、大丈夫よ。あの子の分は違うものを入れたもの。

 他の者たちの姿を見るのも楽しみだわ。」



 ニコニコとミリアナは自分のイタズラの成果を確信して、昨日のお茶会に出席していた他の補佐官達の姿も想像していた。







 一方その頃。


 ギルバートが飛び出して行った後の屋敷の方では、またもや一騒動持ち上がっていた。


 今度はフィアナの叫び声が屋敷中に響き渡ったのだ。




「な・・・なんなのこれはー!?」



 ギルバートが飛び出して行った後、一応の落ち着きを取り戻していた使用人たちが、またもや慌てふためいたのは言うまでもない。


 主人に続いてその奥方までもが、朝から同じような叫び声を上げたのだから、仕方がない事であろう。





「どういう事なのこれ・・・何か原因が・・・」



 ギルバートと同じようにブツブツと独り言を言ったかと思うとギルバートの姿がない事に気付き、何かに思い至ったのか着替えを手早く済ませて部屋を飛び出した。




「フィ・・・フィアナ様?」


「ごめんなさい、説明は帰ってからします!?」



 部屋を出たところで慌ててやって来た執事とすれ違いざま、驚いている執事にそう言い残してフィアナは王宮へと急いだ。






「ちょっとお姉さま!陛下!?

 何なのよこれ・・・は??」



 パタパタと王宮の廊下を走って来たままのイキオイで飛び込んだ謁見室には、美女美女美少女・・・総勢7名がズラリと立ち並んでミリアナの前に立っていた。


 そして、その7人と女王ミリアナが目を向けた部屋の入り口、今現在フィアナが開いた扉には、金の髪の愛らしい少女が立っていた。




「フィアナ・・・か?」


「ギ・・・ギルバート様ですか?・・・ってもしかして・・・まさか・・・」



 朱金の髪の美女を見てから、まさかと思い他の7人の顔もまじまじと見返した。



「そのまさかだ・・・ハァ・・・」


「まーったく、陛下もすごいイタズラしてくれるものだよね。」


「どうでもいいから、早く元に戻してくださいよ!?」



 口々に7人はミリアナに向かってそう言う。


 もちろんフィアナの予想通り、ここにいる美女(美少女)7人は補佐官達であった。







「どういう事なの?」



 訳がわからず、フィアナは説明を求める。


 とりあえず全員揃ったという事で、ミリアナはフィアナの言葉に対して、他の7人にも説明した。


 女になった原因はもちろん、昨日開かれた女王陛下主催のお茶会のお茶である。


 そのお茶の中には、補佐官達には女になる薬を、フィアナには子供になる薬を入れたと言うのである。


 そしてそんな事をした理由をミリアナは、



「たまには美女に囲まれているのもいいと思いませんこと?

 いつも同じ顔を見ているのも、飽きてしまうではありませんか。」



 と言うのである。つまりはミリアナの退屈凌ぎなのであった。



 この言葉に対してフィアナは思わず『何で私まで・・・』と呟いた。



「それはもちろん、あなたの子供時代も久しぶりに見てみたいと思ったからよ。」



 とミリアナはフィアナの言葉にニッコリと笑って答えた。


 そして更にニッコリと笑って、補佐官達にこう言ったのである。



「今日一日はその姿で執務を執り行ってちょうだい。

 薬の効き目は今日一日だから、何も心配いりませんわ。」





 こうして、補佐官達は女王陛下のイタズラのせいで、部下に驚かれつつも一日女の姿で執務をこなし、子供姿のフィアナは、愛らしい姿で磨きのかかった天使の笑顔を振り撒いて女王陛下に面会に来る人々の癒しとなっていた。







「とんだ目にあった。」


「全くです。」



 屋敷に戻ったギルバートとフィアナは、朝の騒ぎの詳細を使用人達に話して、夕食を済ませた後で部屋へと戻った途端、同時にため息をついてそう言った。




「これじゃあ、俺の愛しの奥さんにキスも出来やしない。」



 絶世の美女の姿でこの言葉遣いもどうかと思うが、中身は男のギルバートのままなのだから仕方がない。


 このギルバートの言葉に、子供姿のフィアナは思わず吹き出した。



「おぃおぃ・・・何も笑う事はないだろう?」


「だって・・・ギルバート様はギルバート様なんですから、私は気にしないのに。

 そんな事で拗ねてらしたんですか?」



 クスクスと笑いながらフィアナがそう言うと、ギルバートは拗ねていないと言った。

 そして、そのまま笑っているフィアナの唇に自分のそれを重ねた。

 しかし・・・



「何か・・・」


「違いますね・・・」


「変な気分だ。」



 と互いの唇が離れた後、二人ともそう言って顔をしかめた。





「今日はもう、寝ましょうか?」


「そうだな・・・

 明日の朝になれば、俺の奥さんの姿が見れる事だし。」


「その姿でそう言われると、変な感じですよギルバート様。」


「言ってる俺も変な気分だ。」



 お互いに苦笑を浮かべ、フィアナとギルバートは眠りにつく。






 そして、翌朝。



「おはよう。俺の愛しの奥さん。」


「おはようございます、ギルバート様。

 やっぱりギルバート様はその姿の方がいいですね。」


「それは俺のセリフだな。

 陛下のイタズラにも困ったものだ。」



 元の姿に戻ったギルバートは、同じく元の姿に戻ったフィアナにそう言って苦笑いを浮かべた。



「でも、たまには面白くていいと思いますよ。」


「俺はもうゴメンだな。女の姿じゃ何も出来やしない。」


「ギルバート様ったら・・・くすくすくす・・・」



 ギルバートの言葉におかしそうに笑っているフィアナに、ギルバートは昨日一日楽しめなかった分と言って、朝からフィアナの唇をたっぷりと堪能したのであった。



~Fin~

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