仲間入り
お待たせ致しました!
それでは、本編をどうぞ!
「紅さん?どうしてこんなところに」
「…。」
彼女は黙ったまま答えない。
さっき、彼女は吸血鬼の事を、お兄ちゃんと呼んでいた。
よく見てみると、吸血鬼の顔立ちも彼女と少し似ている。
物静な物腰、それでいて芯の強そうな眼、うん、確かにこの二人は兄弟なのだろう。
ということは、彼女も吸血鬼なのだろうか。
子供の頃から一緒にいるが、彼女は日中も普通にしていたし、どうも彼女と吸血鬼の特徴が噛みあわない。
自分がピンチなこともすっかり忘れて、僕は目の前の吸血鬼と彼女の事を考えていた。
僕の頭の中は色々な事がありすぎて、パンクしてしまったようだ。
「凛、吸血鬼は陰で生きる生き物だ。普段は吸血鬼ということを隠さないといけないし、吸血も人の目の届かないところで行わないといけない。吸血の対象者も、目撃者も記憶を消す必要があるんだ。」
「でも、赤石君は私の友達なの。お兄ちゃん、何とかできないの」
「それは無理だ。掟で人間に吸血鬼の事は漏らすことはできない。俺たちのの存在を、外部に知られてはいけないんだ」
「そんな…。赤石君は優しくて、なんにまた、忘れちゃうの」
「なに?まさか、あの時の少年か?なんの因果か分からないが、よほど吸血鬼に縁があるようだな」
何を話しているのか分全く分からない。だが、僕が話に入る余地もなく話は進んでいく。
「凛、掟は曲げられない。それに、記憶を消さないということは、彼を危険に巻き込むということなんだよ、分かっているのかい」
「そうだけど、でも!」
「話は終わりだよ。俺も残念だとは思うけど、あまり長く記憶を保持し続けると記憶を消すのが難しくなる」
そう言い、吸血鬼は僕の方に目を向ける。
僕の視界は真っ赤な瞳に吸い込まれた。
「君は今日、何も見なかった、さあ、自分の家にお帰り」
吸血鬼の声を聴き、目が覚める。
どうやら気を失っていたみたいだ。
吸血鬼は僕の瞳を覗いてくる。
「なに!?吸血眼が効いていない?どういうことだ」
「えっ、それってどういうことなの、お兄ちゃん!?」
なにやら二人の様子がおかしい。
そして、僕は違和感に気づく。
吸血鬼の話だと数日の記憶を失うらしい。
しかし、僕は吸血鬼も紅さんの事も覚えている。
記憶を消す方法は分からないが、どうやら失敗したみたいだ。
「まさか吸血眼が効かないとは、こんなことは初めてだ。前例も、多分ないはずだ」
「あの、僕はどうなるんでしょうか?」
僕はつい、疑問を口にする。
記憶を消すことはできなかった。殺すこともできない。
僕は秘密を話せないように、監禁でもされるのだろうか。
「…仕方ない。彼を吸血鬼にしよう」
「お兄ちゃん、それは!」
「これは緊急事態なんだ。
今の時代、人攫いなんて真似はとてもできない。
彼を同族に引き込んだ方が賢明だ。
いくら殺しがご法度でも、吸血眼が効かないなんてことを上の者たちが知ったら、彼は、秘密裏に暗殺されてしまうかもしれない。
彼にそんな生活を送れと言うのかい」
暗殺なんて大げさな、と思ったが吸血鬼の事を外に漏らさないという意味では記憶を奪ってしまうのが一番確実だ。
それが効かないなんてことが知られれば、僕は今後、自由に外出することもできなくなるだろう。
ならば、吸血鬼になってしまおう。
たとえ日の光に当たれないとしても、紅さんと一緒なら嫌な気分はしない。
「僕、吸血鬼になります」
「赤石君、もっとよく考えて!」
「紅さん、いいんだ。記憶を忘れない僕が悪いんだし。お願いします」
「よく言った。君を、吸血鬼五大氏族<魅了眼>の一族と認めよう」
吸血鬼がいきなり自身の腕を掻き切った。
縦に伸びた切り傷からは、真っ赤な血が滲んでいた。
そしてそれを、僕の方へ伸ばす。
「さあ、俺の血を舐めるんだ。その瞬間から、君は吸血鬼だ」
(血を舐める。吸血鬼の眷属を作る方法と一緒なんだ)
僕はこの日、吸血鬼になった。