吸血鬼
しばらくぶりです!
またお世話にならせていただきます!
ゆっくりと投稿していくので、どうぞよろしくお願いします!
僕は必死でその場から逃げ出した。
噛まれた女性の事が気になったが、背に腹は代えられない。
次に噛まれるのは、僕自身なのだから。
そうして、鬼ごっこが始まったわけだ。鬼だけに。
しばらく走り続けて、違和感を覚えた。僕はこんなに体力はないはずだ。
おかしいとは思いつつも、「火事場のバカ力か」と自分を納得させる。
幸いなことに鬼との距離が開いてきている。
このまま走り続けて、撒いてしまおう。
こうして鬼を撒いて、冒頭に戻るわけだ。
鬼とも大分距離が取れたはずだ。
恨みを持たれている訳でもないし、家にまでは追ってこないだろ。
このことは全部忘れてしまおう。
僕はそう決めて自宅へと戻った。
おかしい。
もう家に付いているはずだ。道も絶対に間違えていない。
なのに、僕は迷ってしまった。そして、気づいた。
この場所はさっき通った道だ。
こんな危機に陥っているときに、迷って同じところで足踏みしてしまった。
(ここは危険だ。早く逃げないと)
そう思ったが、もう遅い。
目の前にはあの鬼が佇んでいた。
逃げ場はもうない、力でもまず敵わない。
僕は死を覚悟した。
すると鬼が口を開いた。
「お前に見られたのは失敗だった。まさか人払いの結界が効かない人間がいるとはな。
まあ偶にそういう奴もいると他の吸血鬼に聞いたことがあったからな。
吸血眼で足止めをさせてもらった。すまないが、ここ数日の記憶は忘れてもらう」
「僕を殺すつもりはないんですか」
「当たり前だ。我々は不死族のように野蛮ではない」
どうやら殺すつもりはないようだ。
さらっと吸血鬼、吸血眼、不死族など、気になる言葉があったが、時間切れだ。
吸血鬼がこちらに近づいてくる。
「本当に数日の記憶が無くなるだけで済むんですね」
「ああ、保証しよう。すべて忘れて、日常に帰るがいい」
覚悟が決まった。
どうやらこの吸血鬼は少なくても僕を害するという気はないようだ。
女性が噛まれたという先入観から、彼を悪い奴と決めつけていたが、吸血という行為は、彼らの種にとって必要なものなのかもしれない。
僕は目を瞑った。
記憶が無くなるのは少し怖い。
しかし、どうせボッチの僕なんだ。
僕の記憶が無くなったところで、誰も悲しんだりしない。
(吸血鬼に会えた記憶が無くなることだけは残念だな)
そんなこと考えていると、ふと今日の事を思い出してしまった。
<紅凛>
そうだ、彼女のことだ。
吸血鬼は、数日の記憶を消すと言っていた。
一緒に吸血鬼について話したこと、明日お勧めの本を貸すこと、たったそれだけのことだが、僕にとってはとても大事なことだ。
僕がこの記憶を忘れると、彼女の数少ない吸血鬼について話せる人間が減ってしまう。
そして、彼女は明日僕の持ってくる本を楽しみにしているだろう。
だが、僕は本を渡すことができない。
それどころか、僕は記憶がないから、彼女の話が理解できず困惑してしまうだろう。
普段からボッチな僕だ、話を合わせることも難しいだろう。
瞼の裏に、彼女の悲しむ姿が浮かんだ。
(忘れたくない!!)
その直後、まだ覚えのある声が聞こえてきた。
「ちょっと待って!赤石君の記憶を消さないで、お兄ちゃん!」
目を開けるとそこには、先ほどまで悲しげな表情をしていた女の子が立ち尽くしていた。