~宇宙へ~そして、朝焼け・・・
サクラは戦死した夫の政夫と夢のようなひと時を過ごす。そのとき、サクラをいざなうものは・・・
そして、就活のため慶子と距離を置いていた英樹との再会。この物語の一つの山場にさしかかる。
花火の音はちいさくなっていく小さくなっていく。宵闇の中、政夫はサクラに言った。
「お前には、本当に苦労をかけたよ。しかし、正志も雅彦も立派に育っている。お前のお陰だ。」
そして、サクラの顔をじっと見つめた。
「あなた、これからもずっとここで一緒に暮らせるのよね。私はずっとあなたを待ってたのよ。」
サクラは政夫の腕に手を添えた。政夫の手の温もりが本当にそこに存在した。
二人の前に、パッと白い光が差しシャッと何かが落ちてきた。そして、大きな物体が、
「ワーン」
と、サクラに呼び掛けた。
犬の形をした宇宙船だ。
「未来へ行かれるかた、お急ぎください。」
そして、中から慶子と豊治が呼んでいる。
「サクラさん早く。」
サクラは政夫を見た。
「あなた!早く!」
政夫は言う。
「俺はそれには乗れない。それは生きているもののみ乗れる宇宙船だ。サクラはそんなには長くはないが、まだ生きていける。そして、残った人生で出来ることがある。そして、するべきことがある。俺は、いつでもお前の心の中にいるから。」
そして、闇の方へ歩いて行き、後ろ姿はどんどん小さくなっていく。
「サクラさん早く。」
サクラは宇宙船に乗った。
宇宙船の搭乗口のドアが閉まる。
そして、慶子がアナウンスをする。
「本日は、宇宙船フラワーフィールドにご搭乗くださいまして誠に有難うございます。操縦士は前田豊治、副操縦士は下野サクラ、そして、客室乗務員を勤めさせていただきます木下慶子でございます。ただ今、この宇宙船は福岡上空1キロメートルのところにございます。間もなく大気圏を出ますので、皆様安全ベルトを着用ください。」
慶子とサクラは乗客の安全ベルトを点検した。
「それでは、大気圏に突入します。」
ものすごい音とともにまばゆい光が差し、ふわっと体が軽くなった。眼下には透き通った青の地球が、小さく小さくなっていく。
慶子は、またマイクを持った。
「ただ今の時刻は21時3分です。22時に天王星付近を通りまして、0時にアンドロメダ星雲、帰りは最速で銀河系を突き抜け、月にて機内食を召し上がり、地球に戻ります。」
宇宙船フラワーフィールドは、無限に広がる宇宙を、そして、たくさんの塵の中を進んで進んで、もう銀河のはてまで来てしまった。そこへ、
ウィーン ウィーン ウィーン
と警報音が鳴った。
「宇宙船外部アンテナに異常が見られます。何者かが、アンテナを破損させています。」
豊治がモニターでアンテナ付近を見ると、タコのような真っ黒な宇宙人が何やら金属を集めている様子だ。
豊治、サクラ、慶子は手早く身支度をし宇宙船の外に出た。
「その、アンテナをどうするの?」
慶子は、宇宙人に言った。
「これか?これを集めてなー携帯電話を作って売るんだよ。私の星でも認知症の高齢者の家族には人気で金になるからねー。」
慶子は言う。
「それがないと、私たちは地球へ帰れません。やめてください。」
「経営者たるもの、人の言い分を聞いては仕事にならん。返さんぞー(笑)」
「それなら、これは戦うしかない。」
豊治の指令で、タコの形の宇宙人にレーザー光線を放った。
宇宙人は、円盤に乗ってブラックホールの中へ逃げていった。
宇宙船に戻った3人は話した。
「あれが、ブラックベーダーだったんだ!」
「噂よりずっと間抜けな感じがしたね。」
「でも、旅人のアンテナを取って携帯電話を作るとか許せない。」
「あいつは、あくどい商売するって有名だからな。」
と、話は盛り上がった。
宇宙船は、最速で銀河鉄道を追い越し、人工衛星はやぶさとすれ違い、星ぼしの表情をチラチラと見ながら太陽系に戻ってきた。ちょうど冥王星付近には、向日の世界との境が見えた。サクラは政夫を呼んだ。
「あなた」
すると、向こうの世界の声が聞こえてきたのである。慶子も、子どもの頃亡くなった祖母を呼んだ。やはり、向こうの声がする。慶子は豊治のほうを見て言う。
「不思議ですね。」
豊治は答える。
「わしは大学で物理を勉強したが、世の中に不思議なことなどないと思っていた。今だって科学で証明されないことはないと思っている。だが、科学で証明されていないことはたくさんあるんだ。わしはな、神とか幽霊などいるなら見てみたいと思っている。捕まえて正体を暴いてやりたいよ。だが、いるという証拠はない。いないという証拠もない。こんな風にわからないときには、そのことを考えるのを棚上げして避けて通る癖があるんた。」
「えー!言っていることがわからない。」
慶子が言う。
その日の午後、慶子は英樹の家にいた。
「久しぶりだな。」
「うん。内定おめでとう。」
「ありがとう、なかなか苦戦してな。」
英樹は嬉しそうだ。
「俺は、法学部で勉強して何ができるだろうと考えてた。就活していて、マスコミはいいなと思った。社会を批判的に見て、皆に伝えることで社会を良くすることができると思うんだ。」
英樹は、慶子に話しまくった。慶子は黙ってうなずいていた。窓からは西日が差し込む。5時を回った。英樹が慶子に言う。
「今日、泊まっていけ。」
「え?」
慶子は驚く。
「今日は、親父とお袋は親戚のところに泊まる。慶子と一緒にいたいんだ。」
慶子の心に迷いが生じた。
慶子が社会人一年生のとき、英樹は慶子の友達の久美が英樹と同じ大学の自治会の活動をし、悩みを相談し、一晩英樹と過ごしてしまったときのことを思い出してしまった。もちろん英樹と久美の間には何もなかったのだが。そして、今度の就活のときの「距離を置こう」という言葉もまた慶子を迷わせた。
しかし、一方で高校のときに出会った実習生の杉谷先生の話を思い出した。
「あのとき付いていってたら、違った人生もあったと思う。」
英さんなら大丈夫。
慶子はこくりと頷いた。
「もしもし、お母さん。今日は、友達と遅くまで遊ぶから泊まりになる。」
「そう、あんたももう大人だからね。気を付けてね。」
二人の世界。慶子の手作りのご飯。そして朝日を見る。
朝焼けの中、英樹は慶子の顔を覗いた。
「慶子、綺麗だよ。」
確かに、慶子は綺麗になっていた。
「山笠のときだったかな。一緒に朝日を見たの。」
「うん。」
慶子はにっこりと笑った。
「慶子に、話があるんだ。」
次月へ続く
ここは、皆様の想像にお任せしたいところです###