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There persons and a dog   作者: 浜崎汪《はまさきめーる》
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良き仲間たち

人は人によって育てられる。

よき仲間に恵まれた人は幸せ。

これからの慶子がどう育っていくのかが楽しみ。

 翌日、慶子は2階で勤務していた。3階とは雰囲気が異なりこのフロアーは利用者の人数が少なく、ゆっくりと時間が流れている。慶子の教育係という藤原さんは、一度定年を迎え再雇用された年配の女性である。その年齢にはこの仕事は堪えるらしく、速さという面では慶子の仕事量と変わらないが、職員全体から慕われる大先輩だ。どんな場面でも必ず利用者には丁寧な言葉を使う。語尾に「です」とか「ます」を省略することは決してない。

 藤原さんと慶子は、時間が空いたときにはいつもフロアーや居室の床を拭いている。

「木下さん、今からモップかけをしますよ。」

「はい。」

来る日も来る日もモップかけをする。車椅子の移乗の仕方を教えてもらい、早く一人前になりたいのになかなかさせてもらえない。慶子が2階に異動になって、一週間が経過した日、居室の掃除をしてると、

「あんた、そんなことばっかりしてないで早くほかのことを覚えてくれよ。」

と、かすれた声の利用者が言った。

 慶子もこれではいけないとわかっていた。慶子は藤原さんに話した。

「いつになったら、車椅子移乗を一人でさせてもらえるのですか?」

すると、

「先輩たちに声をかけ、木下さんが移乗をしているのを見てもらって3人の先輩がこれで良いと言ったら、その利用者については合格ということにしましょう。」

と答えた。

 慶子は、離床のときや利用者の食事が終わったあと、先輩を探しては、

「移乗の仕方を見ていただけますか?」

と声をかけ、先輩たちに合格をもらった。

慶子がこのフロアで一通りの仕事ができるようになったのはここに来て2週間後であった。慶子が自分でまわりに働きかけたこともあるが、周りの先輩の温かいこと。


 そして、2ヶ月後夜勤も受け持つことになった。最初の相方は最近ケアマネの資格を取られた古賀さんである。古賀さんは、利用者の状態を見て自分で考えることをさせた。胃ろうの方の口腔ケアのときにも、

「胃ろう者の口の中に、痰がたまっているのを取り除くのはなぜですか?」

と、慶子に聞く。

「胃ろう者は、嚥下機能がよわいから痰を飲み込めないからです。」

と答える慶子に、

「嚥下機能が弱い方の痰を取り除かなかったらどうなりますか?」

と聞く。慶子は答える。

「肺の中に痰が入り、誤嚥性肺炎になります。」

古賀さんは、慶子の知識を引き出し、自分で考えさせるという先輩だった。


 夜勤明けの次の日は、休みになる。その日は日曜日で、慶子は英樹と一緒にマックでコーヒーを飲んでいた。慶子は、英樹に新しいフロアの様子を話す。

「そうか、慶子はいい仲間に恵まれたんだな。」

英樹は、慶子の話を興味深く聞いていた。


 それから、二年が経った。

 4月、慶子の施設には新しい利用者が数名入所した。

 その中に、下野サクラと前田豊治がいた。

 サクラは、大きな紙袋を持った息子と、大学生ぐらいの青年と一緒に施設に訪れた。一見、ただの健康な高齢者に見えた。

 そして、豊治は140センチぐらいの小柄な同じ年ぐらいの女性に車椅子を押され入ってきた。メガネをかけ、なんとなくクールな面持ちである。慶子が、

「よろしくお願いします。」

とにっこり笑って挨拶すると、

「ホッ」

と息を漏らしたのである。

荷物を整理し終わった豊治の妻は、じゃあね、お父さん帰るからねと言う。豊治はまた、

「ホッ」

と息を漏らす。そして、妻の姿が見えなくなると口元が歪み涙を流し始めたのである。


豊治の涙!

一体これは何を意味するのだろう。

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