夕凪に・・・
夢のような時間もあっと過ぎる。
二人は東京と福岡でまた離れ離れに過ごすことになる。
慶子は、英樹の家で一泊し翌日は英樹と一緒に浅草を散策した。
鰻 やっこという店で慶子はニコニコして鰻を食べる。
「どうだ、オレにしては太っ腹だろ。」
「うん、英さんはいつも財布の紐が固かったから。」
と、二人は笑う。
ゆめまち劇場でお芝居を鑑賞したあと、雷門へ向かう二人の背を低くなった陽の光がやわらかく照らしていた。英樹は時折生あくびをしていた。
「英さん、疲れているんでしょ?」
「大丈夫、今日一晩寝ればなんとか回復するし明日は少しゆったりしてるからすぐに元気になるよ。」
心配している慶子に英樹は微笑んだ。
夕闇が昼間の陽気さをさらっていったようで、京浜急行の中はしんとしている。二人にも会話はない。ただ黙って立っている。夕凪にほのかに蜜柑の香りがする。
ターミナルで英樹は言う。
「じゃあな。またラインするよ。」
「うん。身体大事にしてね。」
慶子は答える。
構内にアナウンスが聞こえる・・・20時発福岡行きご搭乗の方は搭乗口へお急ぎください。
「じゃあ。」
「うん。」
・・・・・・・・・・・・
慶子の乗った飛行機は、夜空へと飛び立った。
翌日のフラワーフィールドカンパニーはとても忙しかった。豊治が退院してくるため、居室担当の慶子はベットメーキングをしたり片付けていた豊治の私物をタンスに入れたりと休み時間もバタバタと過ごしていた。
午後三時、豊治が帰ってきた。息子の押すリクライニング型車椅子に乗り妻信子とともに慶子のところへ来た。
「豊治さん、お帰りなさい。待ってましたよ。」
豊治は、にっこり笑い何かを言おうとしている。坂田看護師が言う。
「小さい声だけど、耳を傾けたら言葉になるから聞いてみて。」
慶子は、言った。
「豊治さん、なんて言ったの?」
「た・だ・い・ま」
豊治は無声音で話した。
豊治の息子が、徐に席を立ち自動販売機のほうへと歩いていった。
「今の方、豊治さんの息子さんですよね?梨花ちゃんのお父さんのお兄さんですか?」
慶子が尋ねる。信子が答える。
「あの子はね、うちの長男でね去年まで名古屋に住んでいたけど、お父さんの具合が悪くなったし名古屋での仕事がうまくいってなかったから福岡へ帰ってきたんですよ。」
「そうなんですね。親孝行な息子さんですね。」
そして、豊治に息子さんの名前を尋ねる。豊治は一生懸命答えようとする。
「△△○ふ」
何だろう、聞き取れない。
「たろう?」
豊治は首を横に振る。慶子は、信子に言う。
「私が、必ず豊治さんに息子さんの名前を聞きますので答えないでください。」
この日は、慶子は早上がりで施設の前のバス停へ歩いていった。そのとき、豊治の息子が慶子を見た。そして、信子に慶子がきたことを知らせた。三人は挨拶をする。そして、そのときに来たバスに信子と息子は乗り込む。主要道路を曲がっていくバスを慶子は見送った。
二人の未来・・・
それは・・・




