第13話 雪道を進むように
春はまだまだ先
雪景色の中を進んでいくように
静かに 静かに
ゆっくり ゆっくり
帰りは、地下鉄のダイヤも乱れ帰宅困難となり、慶子は家まで三時間かけて歩いて帰った。空気は冷え込んでいたが、寒さすら感じられず、しかし、吐く息は白かった。果して、家にたどり着いた。見ることすら忘れていたスマホを覗き、凍りついていたものが溶け、温かくなっていった。
英樹からのラインに気づいたのである。
おはようございます☆自信を持って頑張ってきてね。
慶子は思わず英樹に電話した。
そして、 英樹が電話に出た。
「どうだった?」
「なんとか、全部解答できた」
「そうか、きっと受かってるな。頑張ってたからな。」
「受かったら・・・」
受かったら、英樹と一緒に旅に出たい と、言いたかったのだが・・・
「英樹は、どう?忙しいの?」
「3月に入ったら東京だ。会社のほうも早く社員を育てたいみたいで。卒業式には戻ってくるよ。」
「そうか、大変だね。体を壊さないように気をつけてね。」
「近いうちに会えるかな・・・慶子の顔をよく見ておきたいよ。」
やはり、英樹が好き。英樹と話すと温かくなる。英樹に会いたい。英樹についていきたい。慶子はそう思ったのだ。
翌日、慶子はフラワーフィールドカンパニーにいた。
「慶子ちゃん、今日は休むかと思ったよ。あはは。」
「試験で疲れて雪も積もっているから、きっと来ないんじゃないかって、豊治さんと話していたところだったのさ。」
豊治とサクラが茶化すと、
「失礼しちゃうわね。わたしがここを病気で休んだことは一度もないでしょう?雪が50センチ積もっても歩いてくるに決まってるでしょう。」
慶子は言った。
「ははは、慶子ちゃんは気丈だからね。わしらもそれで元気になるんだよ。慶子ちゃんの彼氏がうらやましいよ。」
豊治は笑った。そんな豊治に変化があった。
豊治の左手が上がらない。慶子はそれに気づき、看護職に報告した。
慶子の発見のお陰で、豊治はまた救われることになるのである。
一方、ここはF1333星のオメガリオンアルファの事務所である。
オメガリオンアルファは、器用な生物で同時に50ものことをこなすことができる。今日も、同時にパソコンで事務処理をし、大好物のハンバーガーを食べ、コーヒーを入れ、アイドルグループ茶目っこクラブの高橋まみこのDVDを観て、読書もし、コーヒーを淹れている。ブラックベイダーの報告を聞き、上機嫌になっている。
「そうか、フラワーフィールドカンパニーのグループに潜り込むことに成功したか。それは良かった。そうなると、あとはそこの経営主体となるように動いていくことだな。」
「はい。」
「これで、わがアルファグループも1億規模になる!ハッハッハ」
「それで、有給の件ですが・・・五月に家族旅行を計画しておりまして・・・」
ボスの顔を伺いながら話すブラックベイダーに、
「そんなの勝手に取るがよい。世の中金だ!金さえ儲かればワシは何も言わんぞ!」
と、ニヤリと笑って言う。
「そうですか!ありがとうございます。」
ブラックベイダーは事務所を出て電話をかける。
「ピーチ、ゴールデンウイークは家族旅行だ!今から予約するぞ。早くしないと満席になってしまう。」
「わかったわ。今から宿と交通機関を手配する。」
電話の向こうでは子どもたちの声がする。
「やったー」
「旅行だ!旅行だ!」
マンションの外では雪が積もり、静かに静かに時が流れている。
慶子は雪道を分け、介護福祉士試験開場から帰りそして翌日雪道を歩き出勤する。
ブラックベイダーの家族もまた雪に閉ざされて生活する。ピーチの夫寅五郎はF1333星のボスのところへ出勤。そして、英樹も。
大切な人との物理的距離は遠くとも、心が近く感じられる。
書いた後にそう感じました。




