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There persons and a dog   作者: 浜崎汪《はまさきめーる》
12/17

今日降る雪の・・・

素敵なクリスマスを過ごした

サクラ、豊治、慶子、まお

新年を迎えて初詣に向かいます

 サクラ、豊治、慶子、まおは初詣に来ている。三人と一匹はおみくじを引いていた。

挿絵(By みてみん)

「サクラさん、大吉だね。」

慶子がいうと、

「今年は、編み物教室でも再開しようと思っているよ。現役の時にはこれで生計を立てていたんだが、体調を壊してからはなんか気が抜けたようで。慶子ちゃんがクリスマスに保育園に一緒に行ってくれたから、また何かしようという気持ちになったよ。」

と、サクラ。

豊治もおみくじを開いた。

・・・凶・・・

「ああー、わしはいっつもこうだ。去年家族とここに来たときも、これを引いてしまった。そうかと思えば脳梗塞になって九死に一生を得たものの今の施設に入ることになった。わしはもう死んでしまいたい。」

「わん」

まおが吠えた。

「豊治さん、今年はいいことあるよ。私やサクラさんといい出会いがあったんだもの。豊治さんもこれからじゃない。今度はお花見で、バンドやるわよ。」

と慶子。

「そうか、そうか、バンドをね~わしはギターが弾けるんだ。ちょうど1950年代なあ。ブームになったんだよ。」

という豊治に

「私とは世代が違うけど、あのころは女の子がポニーテールして、ボンとしたスカートをはいていたかね~」

とサクラは話す。 そのとき、スーツ姿の年の頃30の男が慶子たちを一瞥して神殿の方へ歩いてい行った。目はクリリと大きく、まるでその瞳は目からこぼれ落ちんかのようだ。男は柏手を打ちなにやら真剣に祈願しているようだ。雪がはらはらと舞い降りてきた。

「雪だわ。私、冬が一番好きな季節なの。雪は綺麗だし、空気はきれいだし。」

「慶子ちゃん冗談じゃないよ。冬が大好きだなんて。わしら老人はいつも寒くてたまらないんだ。冬が大好きなんて聞くと腹が立ってくるよ。」

「ワン!」

豊治と慶子の応酬を聞き、まおが吠える。そしてサクラが、

「まあまあお二人さん。歳を取ると寒さは骨身に凍みてこたえるんだよ。しかし、確かに降る雪はきれいだね。ならば、温かい炬燵に入って餅でも食べながら外の景色を眺めたいね。」

と言う。3人と一匹は施設に戻って行った。そして、スーツ姿の男も施設の方向へ歩いて行った。

 男も、施設から歩いて15分のところにあるマンションへと入っていった。エレベーターでマンションの最上階に昇った男は、玄関をくぐった。

「ただ今。」

男が言うと、中から子どもたちが飛び出してきた。そして、このとき、この男は正体を現した。見る見る間に、男は軟体動物に戻っていく。子どもたちはブラックベーダーに飛び付く。

「お父さんだー」

「お父さーん」

そして、言い争う。

「私のお父さんよ!」

「僕のお父さんだ!」

「あんた!弟のくせに生意気よ!」

「おまえは僕より足が短いじゃないか!」

「よーし」

そう言って、お姉ちゃんが墨を吐くと弟も墨を吐く。

「こらこら、モモもクロもやたらに墨を吐くものではありません」

と、妻が出てきた。「

あなた、お疲れ様。」

「ピーチ、年末に体調を壊したらしいけど大丈夫か?」

そう言って妻のピーチの肩に腕を回す。

「ええ、今年は掃除を休んだから。お陰でこのとおり。」

ピーチはにっこりと笑う。

「ずっと家を開けていて苦労かけたな。」

「そうよ。あなたが居なかったから寂しかったわ。」

そう言って拗ねるピーチに

「今年からは、この近くの施設の経営をすることになったからこれからは家族四人水入らずで暮らせる。今日、住吉さまに参ってきた。今年はきっと良いことがあるよ。」

と話す。

挿絵(By みてみん)

明くる朝、慶子のフラワーフィールドカンパニーでは新社長の就任式が行われた。あ、あの人だ!慶子は心の中で思った。「黒田虎五郎と申します。この会社の経営に全身全霊をかけていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。」そう言って挨拶した。 休み時間に休憩室でスマホを見る慶子。英樹からのラインが届いていた。


・・・今日、19:00にいつものところで待っている・・・


慶子に徳田英樹から持ちかけられた東京行きの話だが、慶子は断ろうという気持ちが固まっていった。自分がいなくなったら豊治やサクラは、この施設の中で希望なく生きていくことになるとわかっていたからである。


 慶子と英樹はいつも行く食堂へ出かけた。

「久しぶりだね。仕事はどんな?」

英樹は優しいまなざしで慶子のほうを見た。

「とても楽しいよ。私がいないと、きっとサクラさんたち何にもない毎日を送ることになると思う。」

という慶子に

「東京行きの話、考えてくれた?」

と、英樹は聞いた。 慶子は、英樹の胸元を見ながら話した。

「今の仕事、辞めたくないの。やらないといけないことがたくさんある。今からが一番やりがいがあるときだと思う。」

「そうか、わかったよ。」

英樹は慶子を家まで送っていって、

「じゃあな。」

と、足早に去っていった。

英樹は、3月で東京へ行ってしまう。5年間築いてきた絆なのだが・・・ 週末に慶子は介護福祉士の試験を控えている。 何もかも忘れて、一生懸命勉強しようと思った。英樹のことも何もかも。  


 1月29日、慶子はヤフオクドームに来ていた。雪で足場が悪いなかの介護福祉士の受験だった。慶子は予定より一時間早く家を出た。幸い地下鉄は通常通り動き、予定より早くヤフオクドームに到着した。例年に見ない寒波のため、朝から氷点下6度で積雪に見舞われ、そんな中待っていたが、あたりの空気は動かず寒さも感じなかった。やっとの開場。

慶子は凍えながら席を探す。

後ろから3番目に座る慶子。

遅刻してくる受験生も見られた。 この試験をに合格することがまずはわたしがすべきこと。何もかも忘れて。慶子の脳裏からは、サクラや豊治のことも家族のことも将来のことも消え、目の前の問題だけが時計の針とともに慶子の目の前で進んでいた。

タイトルの

「今日降る雪の・・・」は大伴家持の


新しき年の始めの初春の

今日降る雪のいやしけ吉事よごと


から取りました。


黒田家の家長であるブラックベーダもまた、今年は何かいいことがあってほしい沢山良いことがあってほしいと柏手を打っていたのです。世知辛い世の中を生きる企業戦士としてのブラックベーダと、同じくその時代に一生懸命生きている恵子たちのそれぞれの思いが絡み合ってみんなの運命が作られていくのだと思うのです。

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