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There persons and a dog   作者: 浜崎汪《はまさきめーる》
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慶子、看護大学の試験を受ける

古代中国の思想家、荘子の『胡蝶の夢』という哲学があります。

 わたしは夢に蝶になった。わたしは、もしかしたらもともと蝶なのかも知れない。そして、蝶が夢の中で私に姿を変えているのかもしれない。わたしが蝶なのか、蝶が私なのかわからない。

 しかし、わたしという本質は変わりはないのだ。

・・・というものです。

 夢を見ることは大事、

 つらい現実の中に夢を見出していくこと、これを伝えたいと思います。

 そして、わたしたちの現実を少しでもいい方向に変える力になればいいなと思います。


 受験会場は、私服の受験生が大勢いて慶子のような制服姿の学生はちらちらとしか見られなかった。問題が配られた。昨日慶子が自主登校のとき、先生がはったヤマがあたったようだ。ラストチャンスの試験だ。看護大学の奨学生として入学できれば、慶子の家庭の事情でもなんとか、看護師になることができる。

 手ごたえはあった。他の受験生の答案には、ところどころ空白が見られたが、慶子の答案はぎっしりと、生物の解答が記されていた。

 

 家に帰り、慶子は英樹と電話で話している。

「最後の問題に、こんなのがあったの。

・・・ウイルスに抗生剤が効かない理由を説明しなさい。細胞という言葉を必ず用いて説明すること・・・

って。」

「へえ?それで慶子はなんて書いたの?」

「ウイルスは細胞へ侵入できるけど、抗生剤は細胞の中へは入れない。だからウイルスには効かない・・・って。」

「よく解けたなあ。俺だったらそんなに解けないよ。慶子よかったなあ。今度は合格だ。」


 英樹は一つ上の高校の先輩で、現在、地元の某国立大学に通っている。

 英樹との出会いのきっかけは、慶子が生物の教科書を忘れ、英樹のクラスの友達に借りに行ったときに、たまたま英樹がいて慶子に教科書を貸してくれたことだった。それから、英樹の受験のとき、慶子の受験のとき二人の関係が変わったりもしたが、歩み寄り約二年の付き合いが続いている。


 慶子は夢見ていた。憧れのF看護大学を出て、看護師になること。そして、お年寄りと一緒に歌を歌って元気にすること。少しでも、苦しみを紛らすことができたらいいなあと。小学校2年のとき、祖母の最期を見送り、褥瘡で苦しむ姿を見て子ども心にお年寄りを元気にする仕事に就きたいと思い続けていたのだった。

 慶子の家庭は母子家庭で、ビルの清掃をする母の収入と月三万円の養育費、そして児童扶養手当で生活していた。あまりの収入の少なさに、慶子の学校の中では慶子の家の困窮度はトップクラスの中に入り、高校から奨学金をもらえるほどであった。それでも、慶子はハンドベル部に所属しながら、夢に向かって生き生きと高校生活を送っていた。


 看護大学の合格発表は、3月5日。それまで、ホッと一息する慶子だった。

挿絵(By みてみん)

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