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6章

魔王が模擬戦で疲弊し、それでもなお仕事から解放されずにゼグラードによって執務室に閉じ込められている、まさにそのとき別の場所で魔王に対する憎悪と悪意が生まれようとしていた・・・


「あー、もう!なんで私が魔王のために苦労しなきゃならないのよ!!」

連日、新区画の式典のために事務処理のために部屋に閉じこもりっぱなしの勇者の声が響く。

「そう言うなって、どちらかといえばこの仕事は国からの・・・いや大臣連中からの嫌がらせなんだから、それで恨まれたらいくら魔王でもかわいそうな気がするな。」

カイルは別件で来たものの仕事が山積みになっていたので手伝いを申し出ていたが、レティシアのあまりの魔王への恨み言がひどいので少しフォローを入れてみるも効果のほどは期待出来なかった。

「なんで私たちが嫌がらせをされなきゃならないのよ!結局あいつのせいってことには変わりないじゃないの!!」

勇者議会には魔都動き(主に魔王の動向)の監視のために魔都包囲都市の維持と拡大のための多額の予算が組まれているが、現魔王になってから魔族との戦い自体がなくなりその存在を疑問視する声も多くなってきている。

その中でも特に議会に対して批判的なのは大臣と軍の将軍である。議会を解散しその予算を自分たちの下で使えるようにと画策をしているようだが、魔族との戦いこそないが魔物による被害が減っていない。その脅威に対しても活動をしている議会解散に反対する勢力もいるので解散を押し切ることができないでいる。さらには魔族の脅威を直に体験した聖王が解体を認めてはいないために、大臣たちもそこまで強くは議会の解体を強くは言えないでいる。しかし多額の予算が組まれているために年々議会の存続に国民からの疑問の声が増えてきているのも事実である。

「まぁ実際問題、魔族とはあの日以来戦争どころか小競り合いすら起きてないからな。連中の言いたくなる気持ちもわからんではないんだけどな。」

休戦協定が結ばれた後は、魔族は中と外を隔離する結界がある魔都の中から基本的には出てこれない。主に出てこれるのは魔王を一部許可を得ている商人のみである。わざわざ許可をもらい出てくる魔族が揉め事を起こすわけもないので現状これといった問題は発生していない。

「別にあいつらがきっちりと魔都を抑えて脅威を防いでくれるなら別に議会はあってもなくてもいいのよね・・・でもどう考えても金勘定と他国との戦争に備えたいだけのあいつらがそこまで考えてるとは思えないの。」

苛立ちを声に含めて吐き出すように愚痴る。

「俺としてはそこまで言うつもりはないんだけど、最近は特に嫌われてると感じることが多いのも事実だよなー。報告に行くたびにイヤミを言われるのは堪えるんだよなぁ・・・このままじゃハゲちまう」

カイルは苦笑気味にその時のことを思い出して肩をすくめる。

「そのときは私があいつらの残り少ない毛とご自慢のちょび髭を引っこ抜いてやるから安心しなさい。」

「いやいや!?抜けること前提にしないでくれよ!!ハゲないようにもう少し折り合いよくしてくれた方が安心できるからね!!」

やや必死さのにじみ出る抗議をするも聞き入れてもらえそうにないので溜め息が出てしまう。

「どうしたのよ溜め息なんかついて、髪の毛と一緒に幸せまで抜けていくわよ?」

「抜けてないから!髪の毛も!幸せも!」

「まぁまぁいいじゃないそんなことは、そういや何か用があるって言ってなかった?」

「そんなことって言うなよ悲しくなるだろうが・・・」

少々落ち込みながらも気を取り直して話始める。

「さっきの件ってわけじゃないけど、新区長のウォーレンスだけどギードと親しいってだけじゃなくてどうも大臣サイドから送り込まれたようだな。恐らく議会の予算を少しでも減らして活動を邪魔するために来てるようだな。」

「めんどくさいわね。ってかこっちもカツカツの予算でやってるのにどこを削るっていうのよ。」

「まぁそのへんは難癖つけて削っていくんだろう。例えばペンの購入料を減らせ、灯りの油代をもう少し節約できるはずだ、とかな。」

「みみっちいわねー。そんなんとっくにやってるわよ。これ以上絞られても何も出ないってーの。」

怒り半分、呆れ半分でぼやく。カイルもそれについてはよく知っているので頷きながら言葉を返す。

「実際向こうもわかってるんだよ・・・そこは言ってしまえば入口だな、一番は戦いもないのに準備ためだけに今の予算が必要なのか?ってとこを突っ込んで削ってやろうって魂胆だろうな。この辺は大臣というよりは将軍からのだけどな。よっぽど自分たちにその予算を回して欲しいんだろうよ。」

「くっそ!あいつらはその予算で防衛じゃなくて侵略に使う気だとしたら魔族なんかよりよっぽど邪悪よね。」

「今のは流石に言いすぎだな、聞かなかったことにしとくよ。それに予算が削られてるのは我が国だけではないだろう?」

カイルは書類に目を通しながらも発言が際どくなるレティシアに注意する。事実、聖王国だけではなく他国での魔都包囲都市の必要性に疑問を感じる者も増えている。特に直接魔族との戦闘を経験していない世代が上層部に多くいる国ほどその傾向は顕著になってきている。

「まぁうちだけじゃないのは分かってるわよ。最近は滞在費削られてよっぽどのことがないと、こっちに来れない人たちも増えてるしね。ほんと平和が続いた結果がこれだとしたら爺ちゃんたちも報われないわね、なんのために頑張ったんだかわかりゃしない。」

話ながら少しづつ語尾がきつくなっていきレティシアの決済印を押す力が強くなる。そのせいで机が軋み出し、それに気づいたカイルが慌てて止める。

「ストップ!ストーーップ!!机が壊れたらまた俺が愚痴られる!!!勘弁してくれ・・・」

「こんなんで壊れるなら不良品よ!家具屋に行ってきてちょうだい!」

「ちがう、机は悪くないんだ!こんなこともあろうかと結構頑丈な素材を選んだんだぜ?!頼むから少し抑えてくれーーー」

レティシアの腕をつかみながら止めようとするが、余程腹が立ったのかその腕が机の寿命を少しづつだが確実に削っていくのを止めることが出来ずにいた。

「カイル!なんなのよ、仕事の邪魔しないで!早く終わらせて休みたいんだから!」

「だれかーーーたすけてーーー!」

ここでもまた一つの不幸が生まれ、一人の人間の悲しみが虚空へと消えていった。

「勝手に消すな!!!あ、やめ、だめーー!?!?」

カイルの悲痛な叫びはそれ以上の大きな音にかき消され誰の耳にも入ることはなかった・・・

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現在の魔都での最大派閥は将軍をトップとする軍である。

その軍と魔王は方針の違いから折り合いが悪い、というよりは完全に反発している状態である。

ことあるごとに対立を繰り返している


「何故わからんのだ!やつには魔族の誇りというのもがないのか!」

夜、ヴァン将軍の部屋に怒声が響く。

「まぁ前魔王ゼグルス様が討ち取られた後、そこに滑り込んだだけの臆病者ですからな。仕方ありませんよ。」

今後の方針を話し合うべく将軍を訪ねてきたオルガは酒を飲みながら魔王への暴言を吐く。

そこには魔王への敬意は一切感じ取れない。それどころかその声色には侮蔑すら込められていた。

「まさかゼグルス様が討たれた際に発動したゼグラード様への継承の術を横取りするものがいるとは考えもしませんでしたからな。」

代々魔王は死の間際に後継の者に己の力を受け継がせる術を使い、魔王の力を絶やさぬようにしてきた。

しかし先代の継承の術が発動した際に当時最も魔力の強かったゼグラードに受け継がれると思われていた。しかし原因は不明だが、当時全くと言っていいほど名を知られていなかったアルバティアに魔王の力と資格が受け継がれることとなった。

そのことに対する不満は相当なものではあったが、第一候補であるゼグラードが早々にアルバティアを認めたために表立って批判するものは一応は減少した。しかし内心ではその不満と憤りが燻っているものは決して少なくない、そしてヴァン将軍もその中の1人であった。

「何故ゼグラード様ではなくあのような者に力が受け継がれてしまったのだ!今日の訓練の時の無様な姿に比べあの方の動きと力はやはり素晴らしいの一言であった!あの方こそ魔王の座に相応しいのだ・・・なのに何故!!」

「まぁまぁ、それも時間の問題ではありませんか。我々の計画が始まればあの臆病者を魔王の座から引きずり下ろし、今度こそ力ある真の魔族の姿を取り戻せます。フフフ・・・」

興奮するヴァンをなだめるも、その計画のことを思い出すオルガこそ己の中の興奮を抑えきれずにいるようだった。

「しかし計画のことはゼグラード様には気づかれていないだろうな?やつはともかくあの方は聡明だ、不自然な点があれば始める前に潰されかねないぞ?」

「安心してくださいとは言いませんが、心配しすぎて不安になりすぎる方がボロを出しやすくなりますぞ?いつものようにドンと構えていてください。(まったく・・・いざとなったらビクつくとかコイツの方が小心者じゃないか・・・こんなののために計画が失敗するとかあんまりだぞ・・・組む相手を間違えたか?)」

将軍の態度に心の中で悪態をつきながらもここまで進んでしまえばやり切るしかない、そう切り替えながらオルガは続ける。

「策は用意しておりますので、後はそれが芽吹くのを待つだけです。」

「ふむ、まぁ確かに今は待つべき時なのだろう。後は事が起こり次第動けるように準備をしておこう。」

とりあえず2人は一息ついて、進行状況を確認していく。

「まもなく開催される式典のため勇者どもが魔都に来ることが正式に決まった。此度の計画のためとはいえ忌々しい・・・」

「必要なことなので割り切っていただかねば困りますよ?そのように憎しみを全面に出されてはうまくいきません、ここでは構いませんが議会の者の前では抑えてください。」

内心の苛立ちを隠しながら話を続けていく。

「例の協力者とは話がつきました、これでスムーズに事を進めれます。」

「信用できるのか?向こうの内通者ではないだろうな?」

「お互いに利のある話でしたし、向こうもかなり追い詰められてるようなので恐らく問題はないでしょう。この話がなくなれば損をする、で済むような軽い状況ではないようですしそういう意味では信用してよいかと・・・」

「わかった、しかし裏切る素振りをみせるようなら即座に始末するぞ。」

「まぁ最終的にはそうなるでしょうが、ギリギリまで働いてもらいたいものですな。我々のためにね・・・」

その後深夜まで将軍の部屋で打ち合わせは続いた・・・

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魔都を中心とし様々な思惑が渦巻く・・・

己の理想が正しいと信じる者・・・

己の欲望を実現しようと計略を巡らせるもの・・・

周囲の思惑を利用しようと画策する者・・・

思いが錯綜するなか魔都と包囲都市での覇権争いが本格化していくのであった。


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