5章
ひさしぶりの投稿
「く・・・光が・・・ついに滅びの時が来たか・・・」
「朝ですからね、光ぐらい差し込みますよ。」
カーテンを開けつつ床に散らばる書類を拾い集める。結局終わるまで朝までかかってしまったのだった(途中嫌になって逃げようとしたがゼグラードに携帯魔晶機を破壊され、次に逃げたら部屋のを叩き壊されると言われたので泣く泣く仕事を継続した)
「クソ、ゲーム機壊すことないじゃないか鬼か・・・」
「魔族ですよ。まぁとりあえずお疲れ様でした、朝食はどうされますか?」
魔王の愚痴をサラリとかわし尋ねる。
「とりあえず寝るわ、さすがに辛い」
「かしこまりました、伝えておきます」
そのまま執務室を出て行き部屋に向かう。早朝ということもあり誰ともすれ違わずにすんだのはありがたかった。部屋につくとそのままベットに直行する。
「ようやく寝れるわー。昨日は殴られるわ壊されるわでさんざんだったわ・・・」
忌々しげにつぶやきながら眠りの中に沈んでいく・・・
・・・
・・・・
・・・・・
数時間ほど経過したころ夢のない眠りから強制的に目覚めさせられる、扉を叩く音が響いてきたからだ
「魔王さま、そろそろお昼ですよいい加減起きてください。昼食も用意していますので早くすませてください」
「わかったわかった、すぐに起きるから。食堂には先に行っておいてくれ」
魔王はそう言うもののとりあえず魔晶機を起動させアップデートの内容確認をしていく。
「くそー完全に出遅れたなぁ・・・メンテ終了は延長だったみたいだし、ログインゲーになってたみたいだからそこまで差はついてないと思うんだがなぁ・・・」
データ読み込みをしている間に支度をすませる。その後他のところを巡回しようとするが再度扉が叩かれる。
「まだですか?早くしてください。片付かないじゃないですか!」
「ちょうど出来たところだから今行く!」
慌ててディスプレイを消してドアを開ける。
「悪い悪い、眠くてな。」
「どうせ二度寝でもされたんでしょう?」
「朝まで働かされればそうもなるさ」
「普段から少しづつでもしていればこんなことにはそうそうなりません。」
などと言いながら食堂に向かっていると威勢のいい声が訓練所の方から聞こえてくる。
「なんだなんだ、今日はやけに張り切ってるな。」
「ああ、今日はほら将軍が模擬戦の相手をする日だからですよ。」
月に一度ヴァン将軍が若手を相手に模擬戦をするのが今日である。強い魔力と肉体を持つ将軍は兵達から目標とされているため、この模擬戦は己の力を試すのと将軍に直接稽古をつけてもらえて力を認められれば出世も夢ではない。そのため稽古にも力が入るのも仕方がない。
だがしかし・・・
「暑苦しいねぇ・・・俺にはわからん世界だ・・・」
引きこもりで体育会系とは程遠い魔王にしてみれば、何が楽しくてやってるのか全く理解できないのであった。
「しかしながら魔王さま、先月も視察に行かれてませんよね?そのため本日は是非来ていただきたいと将軍から要請がありましたが?」
露骨に嫌な顔をする魔王・・・しかし正式な要請を無下にも出来ないため悩む・・・
(どう考えてもめんどくせぇ、しかも将軍が俺をそういった場に呼ぶときは大抵がロクなことがねぇ・・・)
考えるものの正当な言い訳も思いつかない、そのため逃げることも視野にいれつつ食堂に向かうこととした。
とりあえず食事が終わり、食後のお茶を飲んでいるとゼグラードから声をかけられる。
「兵たちも昼休憩が終わる時間ですしそろそろ向かいませんと、開始時間に遅れると将軍がうるさいですよ?」
「わかってるんだけどなぁ・・・めんどくせぇ・・・ゲームしてぇ・・・」
「どうせ放っておいた方がめんどくさくなるんですからね。恐らく最後までいなくてもいいとは思いますので、それまでの辛抱です。我慢してください。」
「わかったよ、行くよ行けばいいんだろ?説教はゼグラードだけでいいってのになんで他のとこでも聞かなきゃならないんだよ・・・」
「そもそも私もしたくてお説教などしているわけではないので、そこは勘違いしないでくださいね。」
ゼグラードに小言を言われつつ仕方なく訓練所に向かうことにした魔王。しかし、その足取りは重かった。ゼグラードに愚痴をひたすら聞かせていると目的地に到着する。
「さてと、何の用なんだろうねぇ・・・」
「おそらくは新兵が入隊してからただの一度も顔を出していないからでは?」
魔王は気まずそうに顔を背けて話をそらす
「あー夕飯なにかなー」
「ごまかせてませんよ、まったく・・・とりあえず今回の視察でしばらくは静かになるでしょう」
だから大人しくしてください、とゼグラードに釘を刺されながら渋々訓練場へ入っていく。
そこでは丁度模擬戦用結界で将軍がハッスルしていた
「気合が足らん!この程度では実戦に耐えれんぞ!」
将軍に向かっていった新兵が吹っ飛ばされるとこを見て、帰りたい気持ちがより一層強くなったが来たからには仕方がないという顔をしている魔王に将軍が気づいてこちらに向かってくる。
「おお!魔王様来ていただけたのですね。新兵もより気合が入ろうというものです!」
「ああ、別に整列とかいいからな。模擬戦見せてもらったら帰るから大層にしないでくれ。」
「承知しました。では続けさせていただきます。」
そう言うと再び結界内に戻っていく。将軍に向かって新兵が次々と向かって行くが誰一人として当てることすらできずにいた。
「暑苦しいなぁ、こっちまで汗が出る」
「何もせずに座ってるだけで汗をかくとは・・・食っちゃ寝ばかりしてるからですよ」
「デブってないわ!メンタル的なこと言ってんの!!」
失敬なといった感じで答えるが少し腹を確認する。
(落ち着けまだ焦るほどじゃない・・・あの彼もそう言ってくれるさ・・・きっと・・・)
「心の中で自分に言い訳するくらいなら自己管理ぐらいしてください」
「読まないでくださいよ!ほんとに!」
そんなやりとりをしていると一通り相手を終えた将軍が声をかけてくる
「改めて本日は視察に来ていただいてありがとうございます。新兵も励みになりましょう。」
「いいからいいから、終わったのか?」
言外に帰っていいかと聞くが
「今からは新兵同士の模擬戦ですので、それも是非見てやってください」
こちらもまた言外に帰るなと言ってくる。
さすがにこの状況では帰るわけにもいかないので視察を続けることになった。
しかしそれが良くなかったと気づいたのは少ししてから将軍からの提案を受けたときだった
「魔王様も少し体を動かしていってはどうですかな?」
「いやいやいや、無理だからね?俺は武闘派じゃないからね?」
逃げようとしていたが、将軍の次の言葉を聞いて固まる
「そのようなことだから昨日のように勇者ごときに敗北するのではありませんかな?」
あの件は一応ゼグラードから口外しないように伝えられてたはずだが・・・なぜ一番知られたくない相手に知られてるんだ・・・と思考を巡らすも恐らく将軍側の者から伝えられたのだろうと結論をだすが何も解決はしていない
(おいおいどうするよ。別に俺は気にしないが面倒くさいから人間嫌いの将軍派には伝えてないはずだよな?)
(まぁ完全に抑えるのは無理ですからね。面白おかしく話したものがいるのでは?)
ですよねー、と頭を抱える。
「まぁ何も本格的に鍛えましょうと言っているのではありません。普段から部屋にこもられてばかりいますからね。ちょっとした運動だと思っていただければよいかと。」
話している内容は魔王の事を考えているようには聞こえる、しかし完全に目が笑っていないのでしごかれるのが目に見えていた。どうにかこの窮地を脱することはできないかと考えるも何も思いつかずにモタモタしていると、新兵の一人が模擬戦用の武器をいくつか持って来てしまった。
「さあ、魔王様好きなものをお取りください。私はそうですね・・・新兵を相手にする時のこの棒でお相手をさせていただきましょう。」
と将軍が50センチほどの棒を手に取る。
「ん????いやいやいやまさかとは思うが将軍が相手とかじゃないよな?」
確認というよりはそうであってほしい、という思いを込めて聞いてみるが・・・
「何をおっしゃいますか!魔王様のお相手に新兵如きを選ぶなど失礼ですからな!お誘いしたのは私ですからね。是非お相手をさせていただきます」
魔王にとっては暑苦しいうえに面倒くさい話を聞いて顔には出さず-出すと余計に面倒くさいため-心の中でうんざりとする。そして一応の反撃を試みてみる。
「いやぁ、わざわざ将軍に相手してもらう程じゃないから新兵でいいんだけど・・・」
「ハハハ、先程も言いましたがそんなに重く考えないでください。軽い運動だと思って頂ければよろしいのですよ。体を動かせば悩み事もなくなるでしょう!」
ノータイムで脳筋理論で返されてしまい説得する術が思いつかずにいた。すると隣にいるゼグラードから
(魔王様ここはとりあえず模擬戦を受けた上でさっさと負けてしまえばよろしいのでは?まぁあからさまにするとやり直しをさせられるかもしれないので程々で、多少疲れはしますが模擬戦をせずに将軍が解放してくれるとは思えませんし・・・)
(ん----------、それしかないかねぇ・・・)
(早く終わらせて次の仕事を済ませていただかないと困りますしね)
どっちもやりたくないなぁでもやんないと終わらないんだよねぇ、と頭をかきながら覚悟を決め将軍の提案を受けることにする。
「じゃあちょっと相手をしてもらおうかな、将軍頼むわ」
「承知しました、では早速始めましょうか」
今回もノータイムで返事をされ本当に暑苦しいなぁ、という想いを心の隅にしまいこんで模擬戦用の剣を片手にフィールドに入っていく。
「そういえば魔王様。改めてお礼を申し上げようと思っていたのですよ。」
そう言いながら将軍が頭を下げる。
「なんのことだ?」
最近何かしたかと考えるが思いつかない。
「この模擬戦用の魔導装置のことですよ。これが出来てからフィールドの中で思いっきり打ち合ってもあの魔導石がダメージの身代わりをしてくれるので心置きなく訓練が出来るようになったのですから。そしてそのおかげでこのように魔王様と手合わせが出来ると思うと感謝の気持ちが込み上げてきましてな。」
そういや訓練施設を新しくしろとせっつかれた時に訓練で怪我するの馬鹿らしいなぁ、とか思ってとりあえず施設の改築をした時に装置を作ったけどそんなに感謝されてたのか・・・
しかし、それのせいでこのような状況になったと考えればいらんものを作ってしまったなぁという思いがこみ上げてくるのを抑えることができそうにない。
「では始めましょうか、まずは軽く体をほぐす程度でいきましょうか」
「お手柔らかに頼むわ、いやほんとにね。」
魔導石がそれぞれ赤と青に輝き出すと同時にフィールド内に魔力が満ちていく。
「それでは、いきますよ。」
「何度も言うけどお手柔らかにね?」
魔王と将軍は向かい合い礼をして構える。
(さっさと負けて部屋に戻ろう、こんなおっさん相手にするぐらいなら書類仕事してる方が何倍もマシだわ)
と考えていると
「何をぼんやりされてるのですかな?魔王様」
目の前に将軍がいた。そして思いっきり吹っ飛ばされる!
「いやいやいや、だから力むなよ!」
「ハハハ、ですので全く力は入れておりませんよ?」
装置があるので怪我などはないが吹っ飛ばされて気持ちがいいわけがないので勘弁して欲しい。
そのままの勢いで将軍がさらに迫ってきて棒を何度も打ち付けてくる。なんとか剣で防ごうとするフリをしながら将軍の攻撃をわざと受けにいく。そして一応攻撃も試みてはみるが、まぁ当たらないこと当たらないこと。
(こりゃあわざと行かなくても普通にやられそうだな、しかも大して時間もかからずに)
実際に魔王のダメージ判定をしている魔導石が終了が近いことを知らせる点滅をしていた。
「魔王様もっとしっかりと腰をいれて打ってこなければ当たりませんよ!」
「ハァハァ・・・結構・・・いっぱいいっぱいなんだよね・・・」
ダメージは防いでくれても疲労までは肩代わりしてくれないので体力底辺の魔王は息も絶え絶えとなっていた。そして疲れて剣を持ち上げれなくなった瞬間に将軍の一撃が決まる。
魔王の魔導石の点滅が止まり終了しフィールドが消滅する。
「いやぁ疲れた疲れた、これで・・・」
終わりだな、と言おうとして将軍を見ると思いっきり棒を振りかぶって向かってきていた。
フィールドが消滅した今その一撃を受ければ神装甲の魔王などお陀仏だろう。
「ちょ!!将軍!終わりだって!」
全く警戒していなかった魔王は動けずにその攻撃が当たる、まさにその時魔王の目の前で棒がつかみ取られる。
「将軍、終わりだと言ってるではないですか。一体何をされてるのですか?」
ゼグラードが飛び込み将軍の攻撃を事も無げに止めていた。
「ぬ?何故止めるのですかな?」
「逆にお聞きしたいのですが何故まだ攻撃をされているのですか?」
ゼグラードは魔導石を指さしながら問いかける。将軍は今気づいたかのように
「おお!魔王様との初手合わせに熱くなりすぎてて気づきませんでした。」
「本当に気付かなかったのですか?」
ゼグラードが胡散臭そうに将軍を睨むと、わざとらしく肩をすくめる。
「いやはや本当に申し訳ない。今度正式に謝罪をさせていただきます」
魔王は慌ててそれを止める。
「いや、それには及ばない。熱くなってしまったのなら仕方がないよな。新兵にはそんなことがないようにだけ気をつけてくれればいい。」
「そうですか、わかりました以後気をつけますのでまた是非お越し下さい。」
このまま将軍に絡まれることを考えればさらっと流すに限る!そしてこれはここから離れるチャンスだと思い締めに入る。
「じゃあ気にせず訓練がんばってくれ!俺たちは執務に戻るからな。」
「では、みなさん訓練頑張ってください。」
そう言って魔王たちが挨拶をして立ち去ろうとすると将軍が頭を下げてくる。
「寛大なお心遣い感謝します。そしてより一層訓練に励ませていただきます。この国を守るためにね。」
いささか不穏に聞こえる部分もあったが気にしないようにしておいた。
「ああ、ほどほどにな」
そしてようやく訓練所から出ることができた。
「ふー、ゼグラード助かったよ。ありがとうな。」
「いえ、恐らくなにか仕掛けてくるかとは思っていましたがあそこまで直接的とは思いませんでした。」
総答えながら魔王に水筒からのお茶を渡す。
「プハー、うまい!!そうなんだよなぁいくらなんでもアレはないな。この前の申し入れを却下したのがそんなに気に食わなかったのかねぇ」
「それと外壁の件もあるのでは?」
それもか・・・とうんざりしながら空を仰ぐ。
「もう少し”今”を見てくれないものかねぇ」
「難しいでしょうね、将軍を含め多くの魔族は武闘派ですからね。今の檻の中のケモノのような扱いは屈辱なのでしょうね。」
魔都から自由に出れない国民の苦情は常に届いている。しかしそれに応えれる環境ではまだないので解決策がないのが現状のため、国全体が慢性的なストレスに苛まれている状態なのだ。
「まぁそれももう少ししたらある程度改善できると思うんだけどな。」
「そうですね、ですからもうひと踏ん張りしましょうか。休憩は切り上げて執務に戻りましょうか。」
そう言ってゼグラードが執務室に向かおうとする。
「いやぁ・・・もうちょい休ませてくれない?思った以上に疲れてさぁ!」
そのまま魔王は逃げの体勢に入ろうとしたが首根っこを掴まれて動きを抑えられる。
「さぁ魔王さま!魔族の未来のために頑張りましょう!」
「いーーやーーもう少しやーすーむーのー!てかお前そんなキャラじゃないよね!」
いつものように魔王の悲鳴が城の中に響き渡るが、いつものとおり誰も気にしないのであったとさ。
「納得いかねぇ!!!」