3章
先代の魔王が討たれ、勇者を筆頭とする軍の侵攻があとわずかで魔族を滅ぼせるところまで来ていた
しかし、魔都ザバルドスには先代の魔王が滅びる直前に己の肉体と魔力を媒介に強力な結界を解き放たれていた。
その結界は魔都をいかなる魔法や大砲から守り、許可なきものの侵入を防いでいた
唯一魔都に通じる外門も厳重な封印が施されていた。そのため勇者たちは魔都を攻めることができず魔族を外に出さぬよう封鎖するという、消極的な方法をとらざるを得なかった
軍を維持するため各国から物資が集まり、そしてキャンプは魔都を包囲する街となっていった
時が経ち魔都包囲都市ができてから50年ほど経ったある日突然外門の封印が解除され、魔王が人々の前に姿を現した。
再度侵攻が始まるのか、不安が広がるなか魔王が示したのは和平の提案であった
当時の代表勇者ヴァルス、補佐官ローディエンスとの話し合いの結果は定期的な視察を行うことで合意をすることとなった。
暫定とはいえ戦争が起こる可能性は減少したものの、包囲都市を撤退させるには確証が足りないのと大きくなりすぎたため放棄が困難となっていた。
そのことを魔王に伝えると
「まぁいいんじゃないかな?近いほうが視察もしやすいでしょ。基本的に俺の許可がないと魔都には入れないしな」
とのことで現状維持となった
何故魔王が突然の和平を申し出たのか和平は本心からのものか確認するためにも勇者たちは問いただしたがはぐらかされるばかりで理由は分からずじまいだった
その後包囲都市には勇者たちの子孫による都市の守護組織《勇者議会》が設立されることとなる
そしてさらに50年ほどが経ち今に至る
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魔王は勇者に贈り物を渡すと
「さて、これで終わりでいいよな?帰るぞ!」
踵を返し颯爽と帰ろうとする魔王の頭をゼグラードが、襟首をレティシアがつかむ
「魔王さまそんなわけないのはご存知でしょう?今から新しくできる区画の視察と区長との会談が残っています」
「さっさと帰らないでくれる?あんたに仕事をしてもらわないと私が議会で責められるんですからね」
「今度するからさ!今から超大切なイベントの時間なんだよ!レアアイテムゲットのチャンスなんだ!」
「却下です、何一つ理由になっていませんよ。」
魔王は子供のように座り込むとさらにごねる
「やーだーよー、そもそも外に出たくないんだよー」
「子供みたいなこと言わないでください、というかそろそろ立たないと危ないですよ」
「あん?なにが・・・ごほぉ?!」
鬼のような形相で勇者が拳を腹にめり込ませていた
「何か言ったかしら?まさか帰ってゲームしたいから仕事を放り投げるなんて言わないわよね?」
鬼から一転とてもいい笑顔で魔王を見るが怒りの感情しかそこにはなかった
魔王はすぐさま立ち上がり何故か敬礼をする
「全く言っておりませんです!今からまさに視察に行こうと立ち上がろうとしていたとこです!」
「ならよし、じゃあ行くわよ」
「毎度毎度申し訳ございません、勇者議会の三人の長のうちのお一人であるレティシア様にご迷惑ばかりおかけして」
ゼグラードが勇者に魔王の情けなさを謝罪する。勇者も申し訳なさそうに言葉を返す
「いえ、こちらこそ無礼な振る舞いをして申し訳ありません。それにゼグラードさんにはいつも助けられてますので・・・」
「そう言っていただけると助かります、さぁ魔王さまも謝罪をしてくださいね」
「へいへい申し訳ありませんでした」
「全く子供ですか・・・」
ゼグラードが額に手を当てながら嘆息する
「もう少し周りの人達に迷惑かけないようにしなさいよ、あなたみたいなのでも魔王なんだからしっかりしてもらわないとこちらとしても困るのよ」
側近と勇者に小言を言われ続けているうちに新区画に到着する
「さてこちらが第18区ウォーレンスよ」
「ふ~ん、なんか感じが違うな」
「そうですね、とても良い雰囲気ですね」
魔王とゼグラードは周りを見渡しながらつぶやく
「ここの区長が高級住宅地をコンセプトにしたかったらしくてね」
「さよか。で、その区長さんはどこにいらっしゃるのかな?」
「確か今の時間は来週のセレモニーの準備でホールに詰めてるはずよ、いきましょう」
「いやもう忙しそうだし邪魔しちゃ悪いから帰るよ?」
魔王は踵を返し帰ろうとする。しかし勇者に肩を掴まれて止められる。
「邪魔じゃなくてあなたと会うのも仕事なの、さっさと行く!」
「デスヨネー、ワカッテマシタ・・・」
ズルズルと引きずられながらホールへと連れて行かれる
「いつになったら帰れるんだろうなぁ・・・」
「仕事が終わったらよ、ダダこねなきゃもうちょっと早く終わってるわよ」
などと言い合いながら向かうのだった
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「全くなんなんだろうねぇ、あの区長は!」
「まぁまぁ魔王さま、お待たせしたのは事実ですし。ここはこらえましょう」
新区長への挨拶が終わり、帰りの道中珍しく魔王がイライラとしていた
「いや、それはわかるんだけどね。だからってさ『いやぁお時間がおありで羨ましい、見習いたいものです』や『お忙しいでしょうにわざわざこのようなところまで来ていただいて申し訳ない』とかイチイチ嫌味ったらしいんだよ」
新区長のウォーレンスは仕事ができる雰囲気を醸し出す嫌味ったらしい(魔王談)男だった
到着早々に慇懃無礼な態度をとられ延々と遅刻してきたことへの文句を遠回しに指摘され続けた
「まぁお忙しいんでしょうしね、それに間違ったことは言われてませんので耳が痛かったですよ」
ゼグラードにも小言を言われそうになったので聞こえぬふりをして口笛を吹いて(が、音は出せない)
ごまかそうとする
「朝も言いましたが吹けてませんし誤魔化せてません」
「こまけぇこたぁいいんだよ」
「またネットの真似ですか?いい加減にしないと魔晶機を叩き壊しますよ?」
「やめて!ごめんなさい!」
光の速さで土下座する魔王、それを見るゼグラードはため息をつきながらぼやく
「毎度見てるのであまり新鮮味がないですよその土下座、将軍にもそのことで怒られてましたし反省してくださいね」
「わかりましたよー、全く・・・魔王なんですけどねぇ・・・もう少しみんな敬ってくれてもいいんじゃないですかねぇ?」
「ここ20年ほど引きこもりのような怠惰な生活をメインに送っていれば、相手側にもそりゃあ呆れられますよ」
やれやれと言った声で続ける
「ご存知ですか?聖都のマニュアルで『魔王は城からほとんど出てこない引きこもりなのでアポ取得はお早めに』っていう文言があるのを?」
「あれかな?馬鹿にされてるのかしら・・・」
「というよりは事実教えてるだけでしょうね、3区が出来たの時ゲームに集中しすぎて着任の挨拶やらセレモニーやら全部無視したのが原因だとは思いますけどね」
ジロリと魔王を睨むものの魔王はどこ吹く風
「いやぁあれはあの時期に大型アップデートが入ったのが悪い、置いてかれたらプライドが傷つく!」
「そんなことよりも現実のプライドを大切にしてください」
「まぁ今日は終わりだしもう帰って部屋にこもるからな!出ないからな!」
高々と街中で宣言すると、周りの人たちから声がかかる
「相変わらずねぇ、ケンちゃんあれはなったらダメな見本だからよく見とくのよ」
「あれで魔王とかないわぁ、だから勇者たちに馬鹿にされるんでしょ?」
「ちゃんと働いてくれないかしらねぇ、やだわぁ。」
などなど愛が溢れすぎてこぼれ落ちた意見が多数である
「聞こえなーい聞こえなーい」
魔王は耳に手を当てて聞こえないふりをしながら呆れて物が言えないゼグラードとともに城へと帰っていった。
後日談として結局魔王はこの日も窓ガラスなどを割ってしまった酒場への謝罪には行かなかった、というよりは完全に忘れていたので評判はより一層悪くなったのでした。