2章
魔王は部屋を追い出されとりあえず城内をぶらぶらと歩いていると
「おや?珍しいですねこんな時間に起きているなんて」
「どうしました?目覚ましの時間間違えたんですか?」
「ああー、ゼグラード様に追い出されたんですね。それなら早く書類片付けてくださいよ」
などなどあたたかい(?)言葉をかけられる
あまりの反応に人気がない倉庫でへこんでいたが、このままいても仕方がないのでどうすれば威厳を保ちつつ働かずにいられるかを思案する
「くくく、従者どもめ我の力を見せてくれるわ」
魔王から膨大な魔力が溢れ出し、術式の構成を始める
「まずは外見を整えるかな・・・鏡がないからいまいちイメージしずらいがそこはなんとかするか」
魔力が形をとり魔王とソックリな魔力人形-マジックマリオネット-が完成する
「うむ、流石オレだな。そこそこ似てるな」
「そうですねぇ、ひょろいところなんかそっくりじゃないですか?」
「でもオレここまでひょろいか・・・な・・・」
ギ、ギ、ギ、と音がしそうな感じで振り返ると・・・
「ゼ、ゼグラードさん?いつからそこに?」
「いやぁどこぞの方がテロかと思うレベルでの魔力開放をしたあたりからですかねぇ」
「しまった!結界を張り忘れた!!」
「というかその人形で何をされるおつもりだったのですか?」
魔王は斜め上45度に目をそらしながら吹けない口笛をふこうとする
「ふけてませんし誤魔化せてません、どうせ公務をそれにさせるつもりだったのでしょうがばれるに決まってるじゃないですか」
「いやぁだってさぁ・・・見た目一緒でオレが作ったんだからどっちがやっても一緒でしょ?ダメ?」
ゼグラードはため息をつきながら、残念なものを見る目つきで魔王を見る
「そんな目で見るなよ!寂しくなるだろうが!」
「とりあえずそんな人形では臨機応変には動けませんし、何よりバレたらまた炎上しますよ」
魔王城が公式でやっている広報は基本魔王が働かなさすぎるのと、たまに動けばいらんことしかしないので問い合わせの大半が苦情なのである
「それに今日のは朝も言ったとおり間もなく外の増設が完了するので見に行かないといけないのと先方に挨拶にいかないといけないので人形では失礼にあたります」
「あいつ単純だしさぁいけるんじゃない?」
「認められません、また暴れられると手に負えませんし無駄な被害がでます。大人しく仕事してください」
魔王は窓の外から外壁のさらに先にある自分たちを100年近く包囲し続け、広がり続ける街を見る
「まったく・・・なんで勇者に挨拶にいかないといけないんだよ・・・めんどくせぇ・・・」
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ゼグラードが人形を抱えながら
「早くこれを消してください、誰かに見られたらややこしくなります」
「ハハハハハハ、無理無理。この魔王が魔力を解放して作り上げたマジックマリオネットだぞ?実体化したら消せるわけないだろう」
「なんて無駄な労力を・・・」
眉間に皺をよせてため息をつきながら人形を包めそうな布を探す
「とりあえずこの人形はこの布で包んで倉庫に放り込んどきますよ」
「容赦ないなぁ、おい・・・」
魔王人形を布で包んで倉庫の奥の方に片付ける
そして魔王の襟首をつかみながら引きずっていく
「さぁそろそろ時間ですよ、準備して外門に向かわないといけません。逃げないでくださいね」
「おいおい、この俺が逃げるとでも?敵に背を向けたことはないんだぜ?」
「そもそも向かい合ってないでしょうが」
そんなやり取りをしているうちに城の入口まで引きずられながら到着する
ゼグラードは魔王を立たせて身なりを整えていく
「今から城下の民に仕事をしてますというアピールをします」
「アピールというかするんだよ?仕事を」
「調子にのって張り切るとろくなことになりません。まずはしっかりと公務に向かってください」
鬱陶しそうな顔をしながら返事をする
「わかってるよ、そんなに言わなくても何もしねぇよ」
「そこが心配なんですけどね、まぁいいですでは行きましょうか」
扉を出て外門に向かうべく馬車に乗り込む
歩きでもいいのになぁという顔をしている魔王に対して
「徒歩ですとまた住民に囲まれますからね、この前酒場のドアと窓ガラス割ったことに対して謝罪に行ってないでしょう?マスターがかなり怒ってましたよ?」
「いやあれは不可抗力なんだって、わざとじゃないしさぁ」
以前子供のいたずらで街中で落書きが多発したことがあり犯人探しと清掃に魔王が向かった-無理矢理だが-ときにいい格好を見せるのと面倒くさかったので酒場の周辺を魔力で一気に片付けてしまおうとして失敗して大破させたことがあった
その後ゼグラードが取りなすのと修復をしてくれたので事無きを得たが、魔王は謝罪をせずに逃亡してしまったためその話を聞いた住民から総スカンをくらってしまっていたのだ
「それでも謝罪は必要です、今更ですが菓子折りもってこの後謝罪にいきましょう」
「えー、やだなーへこむわぁ」
「今日の公務が全て終了すれば好きなだけへこんでください」
そしてしばらくすると馬車が止まる、外門に到着したので開ける準備をしていく
兵たちが緊張感を高めていくなか魔王の準備が出来上がる
「さってと行きますかねぇ、今日はとりあえず完成間近なのでそのお祝いをすればいいんだろ?」
「そうですね、本格的なものは完成後に行いますので。今回は挨拶程度でよろしいかと」
「さくっと終わらせますかねぇ、んじゃ開門するかね」
そう言うと魔力が膨れ上がり外門の封印が解除されていく
全ての封印が解除されると巨大な軋む音とともに開かれる
「毎度毎度大層なもんだよな、もう少し楽にならないのかねぇ」
「これがないと丸裸ですからね都市のためなので我慢してください」
門が開ききり魔王が外にでると
「おそ~~~~~い!!!」
絶叫とともに女が魔王の頭を蹴り飛ばす
「約束の時間過ぎてるんだけど、どういうつもり?ゼグラードさんがいながら遅れるとかありえないんですけど?」
頭を抑えて涙目になりながら怒鳴り返す
「いきなり蹴るとかどんだけ野蛮なんだよてめぇは!大体遅れてねぇだろうが!ぴったりだっつーの!」
「よく見なさいよ、1分遅刻!普通は10分前に着いとくもんでしょうが、つまりトータル11分の遅刻よ」
「なんだよその超理論は知らねぇよ、とりあえず仕事させろよ」
立ち上がりながらゼグラードから祝いの品を受け取る
「魔王さま、ここは落ち着きましょう。争っても仕方ありませんし確かにわずかとはいえ遅刻したのは当方です、謝罪をしてきっちりと公務を遂行してください」
「くそ、納得いかねぇな」
女に対し頭を下げながら、苦々しい声で
「この度は遅刻をし多大なご迷惑をおかけしたことを謝罪させていただきます」
「誠意を感じられないけどまぁいいわ、寛大な私は許してあげる」
魔王の額に青筋が浮き心の中では罵詈雑言をあびせるがとりあえず我慢をして祝いの品を手渡す
「来週にも街の増築が完成するということなのでつまらないものですがお収めください勇者レティシア殿」
「ありがたく頂戴します魔王アルバティア殿」
これが勇者と魔王約半年ぶりの邂逅だった