序章
闇に閉ざされた部屋の中で影が一つ蠢く
この世の全てを呪うかのような呻き声が響く中起き上がる者がいた
「封印が解けかけているというのか・・・なぜこのような時に・・・」
その時光が闇を切り裂き一人の男が現れ・・・
「魔王さま!朝ですよ、早く起きてください。洗濯が終わらないじゃないですか」
おかんのように部屋に入ってきた。
「なぜ封印を解いたのだゼグラードよ」
「封印とか大層に言ってますけどドアの外に《起こすな危険》とかどっかで買ってきたステッカー貼ってるだけじゃないですか!あんなもの貼ってシールの部分が残ったら掃除が大変になるじゃないですか、今後は禁止ですからね」
ゼグラードをにらみながら、魔王はさらに言いわけを続ける
「我に指図するとは随分と偉くなったものだなお前も、裁きを下してやってもよいのだぞ?」
「またゲームの影響ですか?この前はなんか語尾に《ござる》とかつけてましたけど使用人の間で笑われてましたよ?多分ブログとかでネタにしてたのもいましたけどね、特に止める気にもなりませんでしたけど」
「いやそこは止めようよ、うっかりエゴサーチしたら涙出てきちゃったからさぁ・・・」
口調が変わってることも気にせず落ち込みながら布団に潜り込むが、ゼグラードに布団を剥ぎ取られる
「どうでもいいですが今日こそ布団は干しますからね、一度部屋から出て行ってください。掃除もしてしまいますので!」
シーツをはがしながら魔王を床に落としそのまま部屋の外に転がしていく。
「いや、仮にも王様なんだよ?もう少し気を使ってくれないかなぁ??部下に布団剥がれて転がされる魔王とか聞いたことないよ??」
「ならちゃんとしてください、してればこんなことにはなりません。」
そう言いながら、カーテンを開け掃除を始める。その手際はまさに歴戦のおかんを思い起こさせる
「ぐああ!聖なる光で消滅してしまうぅぅ、今すぐに闇の中にもどらねば!」
「太陽がまぶしいだけでしょう!くだらないことを言ってないで今日こそ公務をすすめてくださいね。いい加減城下の住民どころか城内の使用人ですら魔王さまの顔を忘れかけてますからね」
「あー、確かにこの前トイレに行ったとき新しい使用人と勘違いされたなぁ」
「全く嘆かわしい、とにかく今日は街の視察をしてください。顔を思い出してもらいます」
ため息をつきながら本日の予定を話す。
「いやまぁいいんだけどなぁ・・・忘れられたところで困らないし。」
「それだといざという時に統率が取れませんので却下です。早く支度してください」
着替えを渡されたので渋々着替えながら魔王がふと思い出したように尋ねる
「そういえばしばらく街を見てないが最近は何か変わったのか?」
「先週一応お話はさせてもらったんですがね?覚えておいでではないと?」
口笛を吹きながら-但し音はなってない-目線をそらす
「はぁ・・・もう一度いいますが先月から拡張工事が始まっていましたが来週には完了するようです」
「ん?てことはまた増えたのか?毎度毎度ご苦労なことだねぇ。」
「そうですね南の王国から増員みたいですね」
苦虫をかみつぶしたかのような顔で魔王が呻く。
「めんどうくさいなぁ・・・また増えるのかよ、何もしないんだからほっといてくれないかねぇ」
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およそ100年前突如魔王による侵略が始まった。
突然のことに当時の聖王国グラーディアは抵抗らしい抵抗もできず、次々と砦が落とされていった
そして残る砦は一つとなり間もなく王都まで魔王軍の手が届くかと思われた、しかしそうはならなかった
その直前に魔王軍の動きが止まり引き返し始めたのだ。
聖王グラーディア14世は何かの策かと疑ったが一向に攻めてくる様子がないことに次第に安堵し、その後原因を調査するよう命じた。理由が分からず本当に安心して良いのか不安になったためだ。
魔王領に調査隊を派遣し周囲での聞き込みと焦る魔族がもらした情報を集めていくうちに理由が判明した。数万の軍隊でも敵わなかったのに数名の者たちが魔王領に乗り込み魔王討伐を果たしたのだ。
聖王は心の底から喜んだが、魔族が滅んだわけではないということが不安になり討伐隊を向かわせることにした。
魔王討伐をはたした勇者を中心として軍を編成し魔王領に攻め入る。
魔王を失った軍は精彩を欠き次々と攻め落とされる、最初とはまるで逆の結果となっていった。
そして魔王城がある魔都ザバルドスを落とすのみとなったが攻略は一筋縄ではいかなかった。
最後の砦となっただけあって攻防は熾烈を極めた、周囲を深い堀に囲まれ最期に魔王が残した結界が張られているため上空からの攻撃も届かないため橋を越えなければならなかったが1ヶ月以上攻め続けても攻略は出来なかった。
聖王軍は決め手に欠け一度帰還も視野に入れていたその時、魔族を驚異をこれ以上野放しにするわけにはいかないと周辺国からの支援が届き巨大なキャンプが造られていった
そして現在では勇者の子孫を長とする魔都を取り囲む街となっていた。
魔都包囲都市はここから始まっていった。
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