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第7話 ただ今仕事中なのであしからず

 5日目 昼ごはん。


 今日は【縞々海岸】まで遠征中。

 いったん【銀狐の森】とのエリア境界線で休憩を取り、昼ごはんにすることにした。

 さぁて、今日のお弁当は何かしら、わくわく。

 ジャーン

 【黒パン】+【目玉焼き】+【牛乳】の三点セットです

 もう慣れたもので、ため息もなく黙々と黒パンと牛乳を口に含む俺たち。

 しかし、今日に限ってはこの昼ごはんにも意味がある。【縞々海岸】遠征の目的はそこで手に入る新たな生産素材の確保。それが俺たちの台所事情が改善するのは間違いないのだ。【黒パン】を噛みしめ、今日で最後だと士気を上げているのだ、とでも思えば少しは気が楽になるか。

 【縞々海岸】は南北に延々と伸びる海岸線のエリア。その名前の由来である白い砂と黒い砂が斑になっている砂浜が特徴的だ。砂浜は急勾配の崖の下にあり、崖の上に登れば浜辺の強い日差しを浴びて成長した青々とした植物たちが生い茂っている。

 ワンダリング・モンスターは【アルバトロス】、【アイアンタートル】、【ジャイアント・クラブ】など。亜人勢力として半海棲のトカゲ人である【ソルト・リザードマン】と半魚人【サハギン】が勢力を競っている。


「亀さんとか蟹さんとか堅い生き物が多いのでそういうのはスルーしていきましょうです。目指すは【海賊の隠れ家】。海岸線の険しい岩場をずっとずっと進んだところに隠し入江があって、そこに隠れ家はあるです」


 海岸線を俺が先導するが、みんなどうにもソワソワしている。理由を聞くと彼女たちは隠密作戦というのには慣れていないらしい。魔法少女というのは、堂々と入り口から突入し、襲いかかる敵をバッタバッタとなぎ倒しながら、一人、また一人と倒れながらボスの部屋に行くのがセオリーらしい。


「相手の技を全て受け続ける。そして、相手の技を全て受けきった上で、自分の技で倒す。それが魔法少女」とは真希の言葉。ストロングスタイルな、お言葉である。なるほどね、それなら今回は派手な戦術を使うのもありかもしれない。


もちろん、隠密行動を得意とする魔法少女もいて、


「マナとカナは得意なんだけどな」


 カナとは、今宿屋のベッドで療養中の魔法少女ダンシングブレード・カナこと猿猴加南子(えんこうかなこ)。魔法少女としては最年少の中学2年生だそうだ。

 マナとは双子なのと聞くと違うとの回答。偶然らしい。

 早く前線復帰してもらいたい。

 とにかく今回はそういうわけにもいかないので動物たちを刺激しないように慎重に進む。

 岩場地帯へと近づくと【ソルトリザードマン・パイレーツ】(モンスター・レベル18)の見張りが3人。いよいよ敵の勢力内に入る。周辺には遮蔽となるような草場もなく、敵に発見されれば後は力押しで砦を落とすしかない。遠隔攻撃クラス(シューター)がいないのはこういう場面で辛い。


「咲の【小治癒(ライト・ヒール)】は樹里に集中させます。後の二人は被弾しないように。私たちの方が敵とエンゲージした場合は基本的に無視してください。アジト内にたどり着いたら私たちがトレインするので、速攻でボスを落としてくださいです」


 トレイン、それが先ほど思いついた派手な戦術という奴だ。


「了解だ。背中を預けるぞ」

「腕がなるぜ。トカゲ野郎には一度世話にもなってるしな」

「みなさん。よろしくお願いします」


 皆準備は万全のようだ。

 まず樹里が後方の弓で武装したトカゲ男を【挑発】。このアビリティの対象になった敵は樹里を最優先の敵と認識し樹里に攻撃を集中させてくる。敵の遠隔攻撃クラス(シューター)が防御力の弱い魔術師(スペルキャスター)系である梨恵を狙うことを阻止するためだ。前の二人は曲刀と両手斧で武装しているから樹里が前に出ることで自然と3体の攻撃を集めることができる寸法だ。樹里が攻撃を耐え忍んでる隙に真希の両手剣と梨恵の【火炎弾(ファイア・ボルト)】の集中攻撃で敵の頭数を減らしていく。

 そんな調子で万事順調に事が進み、俺たちは次々と海岸にいる海賊たちを打ち倒していった。

 最初の関門は隠し入江だった。

 両サイドを切り立った崖に挟まれたその場所は、抉るように海岸線が陸地に入り込んでいる。入江の幅は見た目よりも広く船が1隻丁度収まるくらいだ。ただでさえ緑が生い茂った崖の上からこの場所を見つけるのは困難だが、崖を渡すように張られたネットに迷彩が施されていた。今この入江に船は停泊していないようだ。

 入江に隣接するように大きく口を開いた洞穴が見える。入り口は波しぶきによって湿っているが、洞穴はずっと奥まで続いているように見えた。

 その洞窟の入り口を守るように6体の【ソルトリザードマン・パイレーツ】が待ち構えていた。


「私たちが3体引き受けるです。ゴメンね、咲」

「ううん。まかせておいて」


 樹里たちの動きは従前どおり。彼女たちが敵を殲滅するまでの間、俺と咲で敵の半分を引き付けておく作戦だ。咲は【光の盾シールド・オヴ・ライト】により防御を固めつつ、握りしめた魔法のステッキで殴打し敵を引き付ける。俺は手作りの木製の棍棒(クラブ)で殴り掛かるがダメージは期待できない。


「あおい。危なくなったら私の後ろに隠れていてね」


 咲の言葉。我ながら情けないが、歴然とした能力差に加えて戦闘スキルを何も持たない女子高生の辛さである。幸い棍棒を振り回す女子高生など相手にする価値もないと攻撃はすべて咲に集中する。多少の傷は、自分自身に行使する回復呪文がたちまち治してしまう。


「大丈夫?あおい」

「全然です。大丈夫」


 トカゲ男のわき腹にスイングを決めるが、どれほどのダメージを与えられているかはわからない。


「こうやって話するのも久しぶりだね」


 咲はそんなことを言い出したが、三食一緒にご飯を食べているのでそんな印象はない。私が回答に困っていると


「一緒に畑に植えた野菜、そろそろ収穫の時期だよ」


 収穫日は明後日になる。そのころには,ベッドで寝ている3人の魔法少女も治療が終わって前線復帰となる予定だ。忙しくなりそうだ。


「おいしくできているといいです」


 適当にそう返事をしたが、その回答に咲は不満そうだ。

咲は魔法のステッキを振りかぶり、トカゲ男の脳天に振り下ろすと話を続けた。


「野菜の収穫も一緒にしようね」

「はいです」


 俺は今度はトカゲ男の足をめがけてスイングする。分厚い皮に阻まれてか感触は鈍い。

 咲も戦闘中にわざわざこんな会話をしてくる以上、何か言いたいことがあるのだろう。そんなことには気付いたもののなんと切り出せばいいのか分からなかった。


「咲の作るおいしいご飯楽しみにしてますです」


 とりあえずそう答えてみたが咲の機嫌は直りそうにない。

 そんなところで樹里たちが敵を掃討し、援護に駆けつけてきた。


「順調です。このまま一気に行きましょうです」

「そうだな。ずっとこの程度であれば楽でいいのだが」


 俺たちは樹里と軽く作戦を確認するとアジトの中へ足を進めた。


               ◇


 隠れ家は大きな空洞になっており、その中を木で作られた壁がいくつかの部屋に区切っている。屋根のない屋敷のような構造になっていた。

 ここでの俺の役割は陽動だ。咲と二人で入り口からボスのいる部屋までの最短ルートを一度駆け抜ける。そうすれば当然そこに控えているモンスターたちは俺たちを追いかけてくる。そいつらを引き連れて逃げ回るのが、いわゆる『トレイン』と言われるテクニックだ。

 あとは樹里たちが敵のいない通路を通ってボスを倒す算段になる。

実はすでに作戦は実行中で、狭いアジトの中を走り抜けている。

トカゲ男12人が俺たちを全力で追いかけてきている。まあ、厳密にいうと咲を追いかけているのだけれど。本当にそのことは申し訳がないと思っている。

 しかし、今はそんなことは言ってられない。

 廊下を走り回る。

 咲がドアを開ける、俺がドアを閉める、トカゲがドアを開ける。

 廊下を走る。

 あとは樹里たちがボスを倒してくれるのを待つだけなのだ。


「あおい、引き離すから例の場所で合流しよう」

「OK。気を付けてです」


 作戦は第2段階に移行。

 咲の持つ【信仰の活力】は、自分自身にHP20点分のダメージを吸収するバリアを張ると同時に移動速度を上げる効果を持つ。

 俺はそっと脇道に逸れると、通路に置かれていた樽の陰に身を隠す。

 あとは、うまく咲が敵を引き離して合流場所に無事たどり着けばこうして走り回る必要もなくなる。合流場所は台所の食料倉庫。最短ルートから一つ脇に逸れた部屋である。敵に出会う可能性はない。

 食料倉庫を開けるとうずたかく積まれた木箱があった。咲を待つ間暇なので中身を覗いてみると、ナツメグ、コショウなどの香辛料を見つけることができた。あーこれ持って帰りたいなぁ。とりあえずベルトポーチに入る限り入れとこう。


「ハムだ、ハムだ」


 俺が夢の一時を過ごしているとガチャリと戸が開く。一瞬緊張したがそこには咲の笑顔があった。


「ぶい」


 咲のVサイン。その顔は満足そうで怪我などはないようだ。

 俺が安心した様子を見せると咲はわぁっと俺に飛びついてきた。そのまま背中に手を回し、ほとんど肌が触れ合うほどに顔を近づけてきた。

 俺が動揺していると


「疲れたぁ」


 とため息をつく咲。そのままへなへなと床に腰を落とす。

 ものすごく動揺してしまったが、女の子同士ってこんなものなんだろうか。


「あとは楽チンだねー。ちょっとずるいけどここで休んでいよう」


 まあ俺が動いたところで戦力にはならないからね。

 二人で小麦粉袋の背中を預ける。


「あおいは最近ずっと樹里と一緒だね」


 突然そんなことを言いだした。

 最近といっても2日だけの話なんだけどな。


「咲は先輩として頼れない?」


 そんなことを訪ねてきた。俺が樹里を主軸に魔法少女たちをまとめようとしていることが目に付いちゃったのかな。咲はそんなことは気にしない方だと思っていたが。


「たしかに樹里ちゃんは頼りになるけど、私と同じ年だし。せっかく私にもカワイイ後輩ができたと思っているのに、すごく寂しいんだよ」


 これは驚きの連続である。まず樹里が高校3年生だったということ。彼女とは戦略的な話ばかりでプライヴェートな情報についてはあまり集めていなかったのだけど。うーん、そうだとするとやっぱり樹里に頼りがいがあるのは本当だなぁ。てっきり魔法少女たちのリーダー的な少女だと思っていたのに。

 そしてもう一つ。咲が樹里に対して嫉妬のような感情を持っていること。これについては俺の認識が甘かったのかもしれない。


「ごめんなさい。咲。咲は本当に友達だと思ってて、精神的に凄く頼ってるんです。今日だって頼りきりで。樹里はチームをまとめようとがんばっているので、すごく協力したい気持ちになってるんです。でもそれは頼りになれるとかそういうのとは違って……」

「ううん。私もゴメンナサイ。樹里ちゃんのことになると私ちょっとライバル意識みたいなのがでるのかなぁ。今度、あおいのところでお泊り会をしようよ。もっと、あおいの悩みとかを私にぶつけて欲しいな」


 いやぁ、本当の悩みはぶつける訳にはいかないんだけどなぁ。でも、咲も頼れば頼るほど力を出せるタイプなのかも。


「そうだね。是非遊びに来てです」


 あんまり俺のプライヴェート領域を犯してほしくないのだが、ここで断る選択肢はないな。


「ありがとう。野菜の収穫も忘れないでね」

「おう、面白そうじゃん。ボクもお泊り会参加するよん」

「え?」


 そこに……誰かいる。

 今の今まで全く気配を感じなかったけれど、積まれた木箱の陰に何者かが隠れていた。


「おお、おまえ、あ、あなたは誰なんです?」

「ボクです?フフフ。まあ、敵ではないですよん。味方でもないけどね」

「姿を現しなさい!」


 魔法のステッキを振りかぶる咲。崩れた木箱の陰から現れたのは……


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