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第5話 でも、計画通りに行かないのが人生なのです

「やめなさーーーーーい!」

「村人たちの平和な生活を乱す輩は絶対に許さない」

「私たちは、夢の世界からやって来た愛と希望の守護者」

「そんなかんじです」

「「「魔法少女 ドリーム☆シューティングスターズ!」」」


 ババーン


 2日目。俺たちは民家からニワトリを盗んだゴブリンどもを退治しに来ていた。


『ゴブリン・スカベンジャー モンスター・レベル12』×3


 レベルだけ見ると丁度いいイベント・ボスだが魔法少女たちの規格外の能力の前では少し物足りないくらいだ。このクエスト報酬は【地鶏】。毎日1個の鶏卵を生む便利アイテムだ。咲の【調理】スキルを上げ、俺たちの食卓を救うために必要不可欠の存在だ。

 それにしても、魔法少女たち。言葉が通じる敵が現れるたびに冒頭の”名乗り”を上げるので困っている。俺の……というか女子高生あらため魔法少女あおいちゃん用の登場ポーズまで用意してもらった都合、付き合ってはいるんだけどね。

 ほらほら、歴史の授業で勉強しませんでしたか、鎌倉武士が名乗りを上げてから一騎討ちするような、そんなのりなんです。それに対してゴブリンは百戦錬磨の戦国足軽。容赦なく先制攻撃を仕掛けてきます。

 ま、魔法少女のアイデンティティみたいなもんだし、ギリギリまでは好きにさせておくか。

 そんなことを考えながら俺が後方で眺めていると、あっという間にゴブリンどもは討伐された。

 このレベル帯の戦闘などはほとんどただの殴り合いなので報告するような話はない。

 この機会に咲と梨恵のスキルも確認しておこう。


『名前:サキ

クラス:ハイプリースト レベル10

戦闘スキル:【信仰魔法ランク1】【癒しの光I 】【信仰魔法ランク2】

生産スキル:なし

特殊スキル:【魔法少女】』


『名前:リエ

クラス:ウィザード レベル10

戦闘スキル:【精霊魔法ランク1】【魔力分析】【精霊魔法ランク2】

生産スキル:なし

特殊スキル:【魔法少女】』


 KFOキリングフィールドオンラインでは、クラス・レベル3毎に戦闘スキル1スロット、生産スキル1スロットが貰える。戦闘スキルはレベル上昇時に選択式で獲得できるのだが、生産スキルについては別にスキル経験値が設定されていて、たとえば【調理】であれば、実際に調理を繰り返して経験値を貯めることで初めて【調理ランク1】のスキルを手に入れることができるのだ。ちなみに【調理ランク1】獲得に必要な【ゆで卵】の数は200個。

 特殊スキルは通常はNPCが持つスキルで、PCが取得できる機会は限られている。

 このまま順調に行けば明日には、最初のレベルアップやスキル修得が期待できる。


「真希さんと梨恵さんには採集のお仕事をお願いしていいです?私と咲さんは先に村に帰ってお昼ご飯の用意をするです」


 ちなみに今日の朝食は【黒パン】と【ゆで卵】が4個と【牛乳】でした。

 民家にニワトリを返して【地鶏】×4羽を貰うと、再び【黒パン】を作成。机の上にはまだゆで卵が84個も残っていた。

 簡単なお使いクエストをすることで【ライ麦粉】を分けてくれるライ麦叔母さんを発見したのはいいが、このまま黒パン生活が続くと本当に参ってしまう。そこで俺は次の作戦を開始することにした。


「咲さん。いっしょに畑を作りませんです?」

「素敵ですね。私そういうの初めてだから、ちょっとドキドキする」

「なぁに簡単ですよ。すぐに楽しくなるです」


 まあ俺もKFOキリングフィールドオンラインの中でやったことがあるだけなのだが、ここはゲームの世界、うまくいくに決まっている。

 我が拠点、サマダラ・マハダラマの工房。その裏には荒れはてた畑がある。

 栽培に関しては基本的に


『 植物の種 + 肥料 + 水 』


 の組み合わせで、収穫できる物と品質と量が決まるのだった。

 工房にあったのは【オニオンの球根】【スピナッチの種】【キャロットの種】どれも初心者向けの植物の種であり、5日程度で収穫できるはずである。

 肥料は【馬のフン】、水は【井戸の水】を使うことにする。どちらも村の中で拾える最低レベルのアイテムである。


「ふう。土をいじるのは楽しいですね」

「そうだね。私はいつも部屋の中に籠りきりだから、こうやって外で汗をかくのは楽しいよ」

「咲さんは、麦わら帽子とか、とっても似合いそうですよ。麦わら帽子を作れるようになったらプレゼントするです」

「え、本当?うれしいなぁ」


 なお,【麦わら帽子】は【裁縫ランク3】で作成可能。【園芸】判定にボーナスが付く。


「うんうん。いい感じです。戦うことも大事ですけど、こうやって物を作ることも大事なことなんです」

「そうだね。こうやって、植物を育てる人がいるから、毎日おいしいご飯が食べられるんだね」


 たった二度の食事だが、お百姓さんに感謝してもしきれない気持ちになってしまった俺たちだった。


「ところで咲さん。魔法少女は楽しいですか」


ふと疑問になっていたことを聞いてみた。


「楽しいとかそういうんじゃないな。誰かがやらないといけない。そういうことだから」


 咲の顔が少し曇る。真希なんかは、敵をぶっ倒すことができてストレス解消だぜなどと言っていたけれど、咲は全面的に魔法少女であることを肯定しているのではなさそうだ。確かに彼女は受験生。ゲームの世界で過ごす時間が現実時間にどう影響するかはまだ分からないが、それによって彼女の人生は大きく狂わされるかもしれないのだ。もちろんそれだけじゃない。ごく普通の高校生が死と隣り合わせの生活を送っているとすれば、とてもマトモじゃいられないはずである。


「悩ましいですよね。でも私は咲さんが先輩でよかったです」

「そう言ってもらえるとうれしいよ」


 まあ、これは29歳のオジサンから送る本気の応援であったりする。

時計を見る。気が付けばもう14時を過ぎていた。


「二人はまだ帰ってこないのですかね」

「……ちょっと気になるよ。森まで見に行こう」


 咲の表情が暗くなる。何か予想がついているようだ。俺は咲に従うことにした。

 二人と別れた場所の近くに行くと、そこにはサハギン族の行商人がいた。


「すいません。ここらへんで変な格好をした女の子二人組を見ませんでした?」

「ギョギョギョ。確かに見たぞよ。おらぁ【縞々海岸】から来たんだけども、ここに来る途中、似た格好をした女の子を見たと教えてやったら血相を変えて東の方へ走って行ったぞよ。ギョギョギョ」


 くそう、アイツらめ。勝手な行動をしやがって。


「やっぱり、他の仲間を助けにいったんだ!」

「すぐに追いかけるです」


 俺はすぐに駆け出したかったが、一つ思い出したことがある。


「そうだ、オジサン。ゆで卵いらない?」


 行商人NPCは、プレイヤーのレベル帯では未だ侵入できないエリアの採取物などを売り歩いている。この行商人が【縞々海岸】から来たとなれば、全力で【岩塩】を買い占める必要がある。【ゆで卵】84個を【岩塩】42個と交換。ありがとう半魚人!


                 ◇


 東に3時間移動すると【縞々海岸】とのエリア境界線までたどり着いた。境界ラインを超えれば20レベル級のモンスターのテリトリーである。幸いにして、俺たちはその境界線を越える必要はなかった。

 何故ならそこには、打ち倒された数十体のトカゲ男の死体と共に瀕死状態の魔法少女が6人、横たわっていたのだ。

 咲に「【癒しの光】をお願い」と告げると咲はうなづいて杖を天高く掲げ、癒しの光を生み出した。咲の周囲にいる私たちのHPが少しだが回復する。咲は使用限度いっぱいこのアビリティを連続使用した。


「梨恵さん……真希さん……なんで私たちにちゃんと連絡してくれなかったんですか」

「すまない。嫌な予感がしちまったんだ」

「申し訳ありません。お二人に心配をかけるつもりは無かったのです」


 仲間がピンチだったから助けに行った。そう言われてしまうと非難することはできない。しかし、ここはゲームの世界。数値は残酷なのである。魔法少女たちはきっと今まで気合いだとか根性だとか、愛だとか勇気だとかで何でも乗り越えてきたんだろう。そういうわけにはいかないんだよ。そこを早く理解して欲しい。

 残りの4人の状態を見ると3人は【戦闘不能状態】、つまりHPが0の状態である。KFOキリングフィールドオンラインではHPが0になったからといって当然にキャラクターが消滅するわけではない。その代わりレベルの半分の日数、つまり10レベルであれば5日間の間行動不能となる。この行動不能期間を短縮するアイテムもあるのだが、とてもじゃない俺たちのスキル・ランクでは作成できない。


「申し訳ない。私の名前は魔法少女ライトブリンガー・ジュリ」


 ワンレンで前髪ぱっつん。いかにも誠実で実直といった中性的な顔だちの女の子。新メンバー唯一、HPが残っている彼女と挨拶を交わす。


「私は魔法少女予定のあおいです。まだ正式なコスチュームがないので本名で呼ばれているです」


 私はぺこりと頭を下げる。そういえば今日は咲とお揃いの魔法少女サンライト・サキのコスチュームを着ているのだった。ジュリはそのことを少し怪訝そうに見ている。


「私もゲームの世界には詳しくない。梨恵から少し話は聞かせてもらったが、どうやら力押しで何とかなる相手ではなさそうだ。魔法少女の仲間としてこれからよろしく頼む」

「もちろんです。よろしくです。」


 さて、5日間は再起不能の3人はさておき一人新キャラが増えた状態。一気に人数が増えた影響でパーティの意思決定に変化が出なければいいが。

 それに問題はそれだけじゃない。この様子だと梨恵も真希も今日の採集は全く進んでいない様子である。【戦闘不能状態】の3人だって三食飯は食うだろうし、咲あたりは下手すると3人の看病をすると言い出しかねない。

 さらに、2日目に無駄な戦闘をしてしまったおかげで装備の耐久度の限界が近づいている。まだまだスキルが育っていない状況では【修復】さえままならない。

 2日目にして、当初の計画は白紙撤回状態である。

 全く胃が痛くなってきます。あ、でもそれより夕食が心配……


 最後に新キャラジュリのステータスを覗いておこう。

 彼女の本名は 姫茴香樹里(ひめういきょうじゅり)


『名前 :じゅり

 クラス:パラディンレベル10

 STR(筋力):22

VIT(生命力):26

AGI(敏捷力):16

DEX(器用さ):14

 INT(知力):18

MEN(精神力):24』

戦闘スキル:【断罪の剣I】【パワーブレイク 】【病気に対する絶対耐性】

 生産スキル:なし

特殊スキル:【魔法少女】』


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