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そしてぼくは道を踏みはずす (一)  作者: まふおかもづる
第四章

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 黄三家の老当主と並んで表門へ向かう。

 道々、老女たちに


「早うせぬか」


 と急かされるカップル多数。そして(いさか)いを仲裁してもらっている男女も少なからず見られた。自分たちもこんな感じに見えちゃってたのか。コウジはショックを受けた。思いのほかアホっぽい。


「孫は堅物だからのう。扱いづらいかの」


 コウジに目を向けず、黄三家の老女がぼそっとつぶやいた。


「いいえ、そんなことは」


 並んで歩く青年と老女の間に沈黙が居座る。


――すみません、ぼくがヘタレなんです。


 後悔の念も見透かされているような気がする。コウジはとぼとぼと肩を丸めて歩いた。


「あれはまだ子どもだ。色恋など早かろう」


 老女はため息をついた。


「柚子の時も、そう思っておった」


 沈黙がさらに重苦しく二人にのしかかる。

 柚子は生前、「後悔はない」と言っていたという。コウジも後悔などしない。それでも祝福される間柄ではなかった、それは分かっている。


「紫五家の若衆な、あの娘を悪く思わないでほしい」


 コウジの視線を無視するように老女は頑なに前を向いている。


「あの娘はマレビトどのを我が国に迎え入れる受け皿にならんとしているのだろう」


 再度この国に出現して半年。他の惑星の伝説にちなんでマレビトと呼ばれるコウジに元の世界に帰る兆候は見られない。時間を止めたように変化のない身体のままこの星にとどまると決めてしまっていいのだろうか。コウジの心は時々落ち着かないような、心許ないような気持ちでざわめく。



「あー、そんな心配するほどのこともなかろう」


 鬼熊狩りで橘が怪我をするのではと訴えるコウジを老女は軽くいなした。。


「秋にあのような事件があったが冬を迎えてみれば意外に熊が少ない。鬼熊対策は念入りにするに越したことはないが今年はさして難しい狩りにならないだろう。それにな」


 ほれほれ、表門に集合じゃ、と路地に残っている甘々カップルに声をかけながら老女は微笑んだ。


「鬼熊の毛皮は美しく丈夫だ」

「へえ」

「なにより肉がうまい」

「――そうなんですか」


 異世界パンダはお肉もいけるらしい。内臓など他の部位も生薬になるとかで捨てるところがないと老女は言う。


「鬼熊狩りはただシティの防衛のためだけにあるのではない」


 農場が休みになり、馴鹿(じゅんろく)の放牧も回り持ち、暇をもてあました女たちは冬の間にフラストレーションをためこむ。その発散の場が冬の祭り、鬼熊狩りである。


「女たちの冬の楽しみなのじゃ」

「ご当主も?」


 老女は破顔した。


「そりゃもう、若い頃はすごかったんじゃぞ。――今は血が騒いだりせぬがの」


 ある程度年を経ると冬の祭りの際、控えのグループに入れられる。過去に主力の若い兵たちが狩りに出ている間に別の鬼熊がシティを襲う事件があったのだという。その防衛のために引退間近の壮年体や高年体の動ける者たちが控えのグループを構成する。若くはなくとも経験値は高い。

 ちなみにコウジは、「動ける者」に勘定されていないおばあちゃんズに薪割りで負けている。ナラク女性の戦闘力ってどんなんだ。


――生き物相手だから万が一ってこともある。


 コウジは腹の底で(おり)のように凝る不安を無視することができない。

 今年は大丈夫そうだ、というのがどんな筋の情報なのか分からないが黄三家の老当主は不安そうに見えない。


「孫娘は今年が初めての鬼熊狩りだから気合いが空回りしておるのじゃ。心配いらん」


 老女は安心させるようにぽんぽん、とコウジの腕をたたいた。



 喧噪が近づいてきた。表門だ。

 先王率いる控えのグループに加わるという老女と別れ、男たちのいるあたりにコウジは向かった。牛おっさんと合流する。


「首尾はどうだった」

「う、いや、その」

「――多くは聞くまい」


 ぽんぽん、と牛おっさんがコウジの肩をたたく。周りの牛頭や馬頭の男たちが


――フラれたのだと。

――あわれな。


 ひそひそ囁き合っている。


「マレビトどの、泣くな」

「見て見て!」

「――シュドーよ」

「シュドーだわ」

「やはり牛頭翁様とマレビトどのは――きゃ」

「やだ、狩りの前に滾っちゃう――きゃ」


 泣いてないし、衆道じゃないし、フラれてないし、ちょっと行き違っただけだし!


――ぼくだってあと少しで橘と――、ちくしょー、リア充、爆発しやがれ!


 うぐぐ、と唇をかむコウジの目に涙がにじむ。



 表門前の広場に静寂が訪れた。白いコートを着た王がきびきびした身のこなしで進み出る。


「り*********ろ」


 黒いコートを着た先王が後に続いた。


「り*********ろ」


 女たちが応える。


「り*********ろ!」

「り*********ろ――!」


 王が軍配を振る。


「開門」


 表門がゆっくりと開いた。白く、まぶしい。橋の向こうに雪原が広がっている。


「行ってまいる」

「うむ。気をつけてのう」


 王と先王がうなずき合う。

 先王と年配の女たちや子どもたち、獣頭の男たちが見送る中、女たちと三頭犬が行進する。ナラクでは珍しく銃のようなものを携えた女や、(おおゆみ)を載せた(そり)も通った。


「り*********ろ――!」

「り*********ろ――!」


 やっぱり「リア充、爆発しろ!」と聞こえる。コウジは少し複雑な気持ちになった。女たちの列に明るい金髪頭を見つけた。目が合う。


――気をつけて。


 橘に伝わったかどうか、分からない。周囲の男たちも無言で狩りに向かう女たちを見送っている。


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