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そしてぼくは道を踏みはずす (一)  作者: まふおかもづる
第二章

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19/83

「慌ただしくてすまないな」


 王によると、これからシティと呼ばれる国の都に戻るらしい。長くて一週間この森の中でキャンプ、と聞いた気がしたけど、とコウジが首をかしげる。聞くと、検査の結果、問題ないということになったのだとか。


「うむ。シティの連中が反対しておる。連中、というより先王の一派がだが」


 前回も自分で帰ってしまったのだから今回も帰るまで森の中に放っておけばよいと主張しているらしい。コウジは項垂れた。無理もない。疫病だけでなく様々ないさかいや変化をもたらしてしまったのだから。


「ただキ神がな――」

「キシン?」

「わがきみ。失礼」


 牛おっさんが割って入った。


「マレビトどのに着替えをお持ちしました」

「おお、用意がいいな」


 王は焚火やかまどの後始末をする橘に「手伝おう」と声をかけた。国のトップなのにフットワークが軽い。コウジは牛おっさんとともに天幕へ入った。長持ちから着替えを取り出した


「その、あの、着替えをご覧になるんでしょうか」


 天幕の外に出ない牛おっさんを振り返り、コウジはおずおずと声をかけた。


「まあ、男同士だ。いいではないか」


 牛おっさんは腕組みをしている。動く様子はない。

 となるとあれか。コウジは得心した。


「実際に男かどうか確かめろと言われたんですか」

「――まあな」


 牛おっさんはでかい鼻の穴からふう、とため息をついた。


「見てどうなるわけでもないんだがな。キ神が性別を確認しているから。――わがきみのおっしゃる通り、マレビトどのは察しがよいな」

「ありがとうございます?」


 結果、牛おっさんに付き添ってもらってよかった。下着を除きすべて脱いだはいいが、コウジは渡された服をどの順番で着るのか分からなかったからだ。最後、毛皮のコートを羽織り、帽子をかぶったところでコウジは牛おっさんを見上げ


「何か皆さんと違うところがありましたか」


 と訊いてみた。


「顔以外で、か? ――いや、ないな」


 牛おっさんは苦笑した。


「違わないことがいつか問題視されるやもしれん」


 牛顔の男の低いつぶやきはコウジの耳に届かなかった。



 二張りの天幕やもろもろの後片付け、出発の準備に四人でおおわらわしている。特に一人はおよそ役に立たない日本人だ。一番下の姉が愛読しているとかいうファンタジー小説では主人公が異世界で無双しまくると聞いていたのにこの違いはなんだ。チートとかいう能力が身につくとかいうギフト的ななにかもまったくない。日本でそれなりにがんばって営業やってたのにこの世界では何の役にも立たない。コウジは己の不甲斐なさにべそをかきたくなった。

 他の三人はコウジの役立たずぶりを特にとがめもせずてきぱきと片付けを進めている。牛おっさんなどはコウジに出来そうな仕事を割り振る余裕すらある。天幕を解体しながらコウジは気になっていることを尋ねた。


「キシンって何ですか」

「ああ――キ神はかつてこの地に人類が降り立った時の船団を率いていた機人類の複製人格の名だ」

「キジンルイ……」


 また聞いたことのない言葉が出てきた。よほど困った顔をしていたらしい。牛おっさんがコウジに気にするな、と笑顔を見せた。


「マレビトどのが亜人類や機人類のいない世界から訪れたことはわがきみから聞いている。我々の世界には母星ガイア由来人類がいてな――」


 母星ガイアを旅だった時、人類は二種類あった。もともとの人類である真人類、そして機械生命体と融合した機人類である。さらに、他種と人為的に融合した亜人類が創られた。


「今ではガイア由来人類のほとんどが亜人類だと聞く。我がナラク国のように女性がすべて真人類というところは稀なのだそうだ」


 牛おっさんの人間臭くやたら表情豊かな牛顔を、コウジはじっと見つめた。亜人類には牛や馬などの哺乳類だけでなく、鳥だの爬虫類だの、果ては虫との融合種族もいるそうだ。にわかには信じられない。コウジが鳥頭や蜥蜴(とかげ)頭の人間を想像している間に牛おっさんの話は先に進んでいた。



「機人類は数が少なくてな。しかし人類の宇宙への拡散に欠くことのできない知識を持っていた」


 ナラク国民の先祖たちが所属していた播種船団にも数人、機人類がいたのだが、惑星ナラクに残る人々、播種船で銀河の更に奥へ旅立つ人々で分け合うほど残っていなかったらしい。


「そこで、播種船団の機人類は複製人格を作った。数万年経て今では神扱いというわけだ」

「あなたはそうでないと知っているんですね」

「まあな。キ神の世話係というか、修理屋だからな」


 なるほど。コウジはうなずいた。

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