群れる者達。
ミスって途中で一度上げてしまった物の、完成版です。
混乱させてしまった方、大変申し訳ありませんでした。
「おらぁ、喧嘩売ってんのかゴラァ!!!」
「俺らヤタガラス舐めんじゃねぇぞ!!!」
「んだぁ!?ゴラァ!!!」
何処までも澄み渡る青空。さわやかな風が、背の低い草を撫でてゆく。
そんな、心地よい景色をぶち壊す声が聞こえてくる。
彼らは、ギルド【ヤタガラス】。
メンバー百人前後の中堅ギルドだ。
全員が昭和のヤンキーのような格好をしているギルドである。因みに、中身は未成年ではなく、見るからに成人男性。中年男性までもが学ラン姿で決めていて、何とも言えない痛々しさがある。
格好だけなら良いのだが、彼らは群れで弱者を狩る。
【MLF】のメンバーが狼や熊の様な害獣として忌み嫌われるのに対して、彼らはハイエナやハゲタカの様な嫌われ方をしている。
そんな彼らの前に、【MLF】の三人が立つ。
「さぁて、手前ら。この落とし前はどうつけてくれんだろうな!?」
猛るゲイツ。
「三千世界の烏を殺し尽くせば、ゆっくり朝寝が出来るだけの時間ができるらしいネ。うるさい烏は纏めて駆除して、あーちゃんとゆっくり遊ぶとするヨ!!」
威圧する、軍麗。
「ふふ、ふふふ、狩るッす。トコトン狩るッす!!!根絶やしにするっす!!!」
スイッチが入るヤマザキ。
二つのギルドの抗争の火蓋が、今まさに切って落とされようとしていた。
数十分前。
ヤマザキ達は、あーちゃんとMMOらしく遊ぶべく低級モンスターの居る区画でモンスター狩りに出かけようとしていた。
過日、少女の胸中を知った彼らは彼女とより積極的に接するようになった。流石に人を狩りに行く際に彼女を連れだそうとはしなかったが、彼女が少しでも安心できるように、彼女に危険の及ばない範囲で以前の倍の頻度でフィールドに出るようになった。単なるレクリエーションとしてだけではなく、ヤマザキ達の戦闘力を彼女に肌で感じてもらい安心感を与える為でもあった。
何時襲撃者が現れても離脱出来るように、彼女にはギルドホームへ直行するアイテムを持たせてある。決して安いとは言えないアイテムではあったが、少女の為に大量に買い込んである。
何時も通りにシティ近くのフィールドに向かった一行であったが、そこには【ヤタガラス】の面々が居た。
今日は、彼らが『集会』と呼ぶ月に一度の集まりの日。
折角の一家団欒に水を差されてはマズイと、踵を返した【MLF】の面々だったが、運の悪い事に彼らに目を付けられてしまった。
「んだぁ!?お前らぁ!?」
「ココ何処だと思ってんだよ!!」
そんな罵声が飛んでくる中、最初はヤマザキ達も穏便に事を済ませようとしたのだが………
「おーおー、可愛い嬢ちゃん連れてんじゃねぇか!!」
ピクリ。
「お嬢ちゃん、んな奴らよりも俺達と遊ぼうぜぇ!!!」
ピクリ、ピクリ。
「んだよお前、ロリコンかよ!きめぇ~、ぎゃははははは。」
プツリ。
彼らが、幼い少女を対象に罵声を飛ばし始めた為遂に三人の臨界点は突破してしまった。
「あーちゃん、ワタシ達一寸用事が出来たヨ。」
「何、大丈夫スグに終わるから。」
「一旦、ホームに戻ってて欲しいっすよ。帰ったら、今度は街に遊びに行くッス。」
そんなやり取りを経て、冒頭に戻る。
「んじゃ、俺真ん中なー。」
「ワタシは右からネ。」
「左からっすね。了解ッす。」
ヤマザキが言い終えるや否や、三人はそれぞれ担当した方向に突っ込んでいく。
そこに、チームプレイなど存在しない。
ヤマザキが鋭く、目ざとく。
軍麗が華麗に、残酷に。
ゲイツが勇敢に、獰猛に。
相手の命を狩り取っていく。
それぞれ、全く違うベクトルの戦闘スタイル。
彼らに共通するのは只一点。
その顔には、須く笑みが張り付いている。
相手の首を撥ね、足を切り落とし、胸に剣を突き立てる。
喉を噛み切り、目を潰し、断末魔を堪能する。
相手を殺す全てを、五感を持って味わう。
相手が半分になっても、まだ足りない。
20になっても、まだ満たされない。
5人が残った。まだまだ足りない。満たされない。
長閑だったフィールドに、絶叫が響き始めてから約15分。
「な、何だよお前ら、何なんだよお前らぁ!!!」
最後の獲物が、声を荒げる。
「何って…なぁ?」
「そうっすね、強いて言うなら人殺しが好きな」
「社会のゴミって所ネ。」
そう言って、本日最初で最後のチームプレイ。残った獲物にそれぞれの武器を突き立てるのだった。
「いやー、狩った狩った!」
「今日は街で、思いっきり遊ぶとするヨー。」
「早く戻って、あーちゃん安心させたげましょう!!!」
相手の死体は既に光となって電子の海へと消えていった。
3人が去った後、その殺戮を知る者はだれ一人居なかった。
3人組は比較的強いのですが、今回は相手が弱すぎたのでこんな結果。と言うお話。