常識人達。
ようやく、本編開始デス。
ヤマザキは、趣味以外は至って普通の日本人だ。
孤児院で育ちはしたが、ひねたりぐれたり何かせず、至極まっとうな人間として世の中に出た。
報道される凄惨な殺人事件何かに対して、眉をしかめたり、常識の範囲内で憤ったりもする。
孤児院で育った影響だろうか、児童虐待何かの事件には内心穏やかではいられなくなる。
………あくまで、常識の範囲内でだが。
しかし、その常識の範囲内に含まれる出来事は、あくまで現実世界での事のみ。
よって………
「あんた、何やってんすか?」
「ひ、ひぃ!!助けて、コイツの賞金はくれてやるから、見逃してぇぇ!!!」
目の前には、一人の女。
四人の内先頭に立っていた男二人を一呼吸でまとめて仕留め、残る二人に手をかけようとした時にその女が行動を起こした。
一緒に行動していた少女を、自分の前に押し出し、命乞いを始めた。
せっかく、楽しい気持ちで人を殺していたのに。興ざめも良いところだ。
【キリングフィールド】内でのアバターは、デバイスによるスキャンによって現実世界の姿が投影される。
見れば、差し出された少女の頬はこけており、まともな生活を送っているとは到底思えないありさま。
その表情に至っては、今まさに自分の命が殺人狂に差し出されようとしているにも関わらず、全て自分に関係の無い事の様な、無感情な、諦めてしまった顔をしている。
孤児院で時折見かけた、長年虐待され続けた子供の顔だ。
「………君、歳は幾つっすか?」
「………12歳。」
「さっき殺した奴のどっちかが、君のお父さんっすか?」
「………うん。」
そう答えた少女の顔に、ヤマザキを恨む様な物は見えない。
「あ、アナタ、ワタシを見逃して」
「外野は黙ってて下さい。殺しますよ?」
完全に蚊帳の外だった母親らしき人物が声を上げるも、ヤマザキは攻撃的な言葉を返し其れを掣肘する。
「………君は、お父さんとお母さんが好きっすか?」
ヤマザキは思う。何………分り切った事を聞くんだろう。この状況を見る限り、彼女が両親を好きな訳が無い。
だが、これは必要な事。義憤に駆られた自分が、彼女の為に行動を起こすには必要な事。
「………ぃ。」
少女が口を開く。
「いっつも私を殴るお父さんも、お母さんも、大っきらい!!!」
其れは、ヤマザキが初めて見た少女の感情。
両親に対する、明確な拒絶。
其れを聞いた母親は少女の口を塞ぐ為、少女を殴ろうとする。
………が、それは出来ない。
少女を庇う一人の殺人狂が、其れをさせない。
「んじゃ、決まりっすね。」
ヤマザキは母親を蹴り倒し、その胸に大剣を突き立てた。
光となって母親が消えてゆく中、少女は彼女の英雄に出会った。