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We love PK!  作者: ケレンコフ
第一章。
11/11

続・思い出す者。

「そう………大変だったのねぇ。辛かったでしょうに。ごめんなさいね、辛い事思い出させちゃって。」


「いえ………」


ひとしきり涙を流したゲイツは、一昨日彼を襲った悲劇を二人に話した。


そして、そうすることで少し楽になった自分に気付いた。

思えば、彼女が居なくなって初めて泣いた。


(辛い事は人に話すと楽になるとは聞いていたが、本当だったんだな。)


「まぁ、なんじゃ。まだまだ若いんじゃし、女なんぞ星の数ほど居るわい。何ならワシと歌舞伎町あたりに」


「おじいさん??」


「す、すまん婆さん。」


何とも元気な老人だ。


「………そう言えば、自己紹介がまだでしたね。私は『B・武田』と言います。よろしくお願いしますね。」


「うむ、『G・武田』じゃ。」


BとG………


「ぶっ!」


何となく、二人の名前の察しがついたゲイツが噴き出す。



「なんじゃ、人の名前聞くなり笑いおって。」


「………んで、お前さんは何て言うんじゃ?」


「あ、あぁ、失礼しました。私は、『びびる・ゲイツ』と言います。」


………。


「「「ぶっ!」」」


少し遅くなった自己紹介で、笑いあう三人だった。







その後も、三人の交流は続いた。


VRMMO老人二人と、フィールドへモンスターを狩りに行ったり(一番強いのは、お婆さんだった)。


「若い頃はブイブイ言わせたもんじゃぁ!!」と、言い出した爺さんに連れられて二人でナンパに行ったり(何故か爺さんの方がモテた)。


見つかって、お婆さんに揃って説教をされたり(ゲイツのトラウマになった)。


老人二人を見て、丁度良い獲物と襲いかかってきた敵を返り討ちにしたり(凄まじい戦闘力のお婆さんに、ゲイツのトラウマが増えた)。


平和とは言えなくとも楽しいと言える。

至って【キリングフィールド】らしい日々が過ぎて行った。




だが、楽しい日々はある日突然崩れ去る。


その日、何時も待ち合わせに使っていた広場の噴水に老夫婦の姿は無かった。

暫く待っても、連絡も無い二人。

心配になってチャットを送ろうとしたゲイツの耳に、広場を通る人間の声が聞こえてきた。


「聞いたか?ジジイとババァがリンチだってwまじウケルwww」


「てか、ネットで放送見て即効ログインしたし。なんか、八十人でフルぼっこの奴だろ?」


………ゲイツの背中に、冷や汗が流れる。


いや、待て待て。このゲームをプレイする老人はかなりの数に上る。あの二人とは限らない………


だが、どうしても、嫌な予感が消えない。


そんなゲイツの耳に、新たな情報が入ってきた。


「にしても、爺さんたちの名前受けたんだけど。GとBて、まんまじゃ」


聞くや否や、ゲイツは話している男に掴みかかった。


「おい!!何処だ!!!」


「うわ!!何だよあんた!!!」


「二人が襲われてんのは何処だって聞いてんだ!!!」


鬼の様な形相の大男に襟首を掴まれ、話をしていた男はしどろもどろになりながらも答える。


「き、北の、け、渓谷フィールド………」


「くっ!!!」


北の渓谷………現在地から、一時間程離れたフィールドだ。

間に会え!!!間に会えっ!!!


そう念じながら、ゲイツは矢のように駆けだした。






一時間後、ゲイツの姿は北の渓谷と呼ばれるフィールドにあった。


目の前には、彼の老いた友人の姿は無い。代わりに、そこには60人程の若い男女が居た………


「あれ?見てよこー君。何かでっかいのが居るよー!」

露出の高い服を着た、若い女がゲイツを見つけ、声を発する。


「ん?ホントだ。何だろね、よー子?ギャラリーかな?」

ラメ入りのスーツに身を包んだ、茶髪の男が其れに応える。

何やら甘い雰囲気を出している二人組だ。恐らくカップルだ。


「………おい。お前ら、爺さん達をどうした。」


低く、唸るような声。そんな声も、目の前のカップルには届かない。


「え→、なんかあの人めっちゃ睨んでくるんだけど。助けてマイケルー!!」

ブロンドの、女が言う。


「大丈夫だよ、キャシー。何があっても僕が守る!!」

これまたブロンドの男が答える。男は、女の腰に手を回している。




「答えろってんだ!!爺さん達をどうした!!!」


ゲイツは、叫ぶ。獣が吠えるように………


「あー、何だ。さっきのジジイの仲間かぁ。こんな時何て言うんだっけ………あぁ、そうだ!!『君も僕達の結婚資金にして上げますよ、あの薄汚い老人の様にね!!』」

やせぎすの、眼鏡を掛けた男がそう言って。


「『Gさんの事かー!!!』」

メイド服を聞いた女が、そう言った。






「………。」

ゲイツは、無言で、ゆっくりと、腰の、シミターを、抜き放つ。



「きょーへー!!アイツやる気だ!!!構えろ!!」

そう言って、はかま姿の若い女が刀を抜き放ち、


「了解だ!!何、俺達の愛の前に立ちふさがる者は、誰であろうと容赦はs」







相方の男は、二度と声を発する事は無かった。


驚愕の表情で、首を失くした恋人を見るサムライ風の女。


「………きょう」


その恋人の名を呼ぶ前に、彼女は腰から二つになった。





………北の渓谷は、最早屠殺場と化していた。

男女の隔て等無く、全てに死が降りかかる。

恋人を庇って倒れる者、見捨てて逃げようとする者。

気高い恋、醜い愛。

その全てが、死んでいく。



恋人達の仲を永遠に引き裂きながら、ゲイツは笑っていた。


ハ、ハハハ、ハハハハハ!!!

何だ!何だ何だ!!!恋や愛なんて、大した事無いじゃないか!!!

自分達の世界に入り込んで、周りの事なんか気にしなくなる、碌でもない関係じゃないか!!!

それに、見ろ!!いざ危険になったら、平気で恋人を見捨てる!!!

こんな………こんな奴ら!!!!


イナクナッタホウガ、イイニキマッテル




ゲイツの心を、これまでに無い高揚感が訪れる。

自分が、正義を成しているという陶酔。

他者を蹂躙する快感。


様々な激情のカクテルが、ゲイツを酔わせる。






………気がつけば、目の前には二人しか残っていない。


気の弱そうな男が、震えながらも女を庇う。


「に、逃げて下さい洋子さん。こ、此処は僕が………」


「慶介君!!嫌!!!一緒じゃないと!!!」


ドラマの一幕の様な、映画のクライマックスの様な美しい光景。


極限の状態に晒されてもなお、互いを案じ、庇いあう。


きっと、これこそが愛なんだろう。


この世で、もっとも価値があると言われている物なのだろう。


「………。」


今のゲイツにとっては、ゴミの様な価値しか無かったが。


パン。


弾ける様な音と共に、愛し合う二人の首が消し飛んだ。





………。

…………。

……………。


「んで、帰ってきた俺はリア充が嫌いになり、このギルドの前身たるギルド【ボッチの巣】を立ち上げた訳だ。」


「え、えぇー。」


話を聞き終わった少女は、何とも言えない顔をしている。

そりゃ、そうである。途中までは思い出話だったのに、いつの間にか猟奇殺人犯の供述を聞かされたのだ。

しかも、かなりどうでもいいオチ付きで。


「えっと………」


健気な少女は、それでも何とかフォローしようとするが………


「………お、面白かった………ですよ?」


引き攣った笑顔で、そう言うしかなかった。


「………何か、ゴメン。」


その表情を見て答えるゲイツ。温かい沈黙がホームを満たす事はあったが、こんな気まずい沈黙は珍しい。


コンコン。


そんな時、ホームのドアがノックされた。


助かったと言わんばかりの勢いで、ゲイツがドアへ駆け寄る。


「はいはい!!今開けますよ!!!………って、何だアンタか。」


「何じゃ何じゃ、久しぶりに遊びに来てやったのに、友達甲斐の無い奴じゃのう!!」


少女が聞いた事の無い声がする。


「いや、丁度爺さん達と会った時の事を話しててな。」


「まぁ、この間言ってた子ね!!会いたいと思ってたのよ!!!」


「そうかそうか!!!可愛いぞぉ!家のあーちゃんは!!あーちゃん、紹介するぞ。この二人がさっき話した」


「『B・武田』よ。よろしくね、あーちゃん。」


「『G・武田』じゃ。ほぅ!確かにかわいらしいお嬢さんじゃのう!!」


「………へ?あ、あの、ゲイツさん??お二人は、北の渓谷で………???」


「ん?あぁ、そう言えばそこはまだ話してなかったっけ。いや、あの後帰ってきたら二人とも待ち合わせ場所に居てな!!!」


「あー、あん時のお前さんは傑作じゃったのう。」


以下、再度回想。


街に帰って来たゲイツは、開いた口が塞がらなかった。

てっきり死んだと思っていた二人が、何事も無かった様に元の待ち合わせ場所に居たからだ。


「ふ、二人とも!!!何で此処に!!!!」


「ん?いや、遅れてすまんかったのう。婆さんと外でデートしとったら、若いもんに襲われての。」


「………いや、だって。えぇ??」


「あ、ひょっとしてネットでムービー見たの??」


「凄かったじゃろ。ワシと婆さんの八十人切り。」


「は………はぁ!?」


混乱する頭で、状況を整理すべくゲイツは二人に詳細を聞いた。


情報を統合すると………


デート中に、二人は【ブライダル・ハピネス】と言うギルドに襲撃を受けた。

どうやらこのギルド、二手に分かれて狩りを行っていたらしく、その内の一隊が武田夫妻に襲いかかって来たらしい。

その部隊を壊滅させた後で時間を確認したところ約束の時間をとっくに過ぎていて、大急ぎで戻って来たとか。


「………はぁ。何だよ。爺さん達が大勢に襲われてるって話してる奴がいて、俺はてっきり………」


「ひょひょひょ、大量に釣れた様じゃのうwwwこれだからwww若造釣るのは止められんわいwww」


広場で耳にしたムービーは、どうやらジジイ本人が流した物の様だ。釣り目的で。


「もう、お爺さんったら。またそんな事してたんですか?」


「ふぉふぉふぉ、再生数はどうなっとるかの?………お?」


「どうしたんです、お爺さん………あら?」


そういって、二人が固まる。


「………?」


不思議に思って、ゲイツはお爺さんが開いたヴァーチャルブラウザを覗きこんだ。

そこには…………



回想終了。


「あの時のコイツの戦闘も、ネットにあがっとってのう!!!『喪男大勝利、リア充涙目』ってタイトルでのう!ほれ、これじゃこれ。って、殿堂入りしとるwwwうは、ジジイ大爆笑wwwちょー受けるんじゃけどwwww」


と言って、老人が少女にブラウザを見せてくる。


そこには、生き生きとした見慣れた男の姿が映っていたのだった。

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