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いつもの帰り道を三人で歩く。
僕の少し前を並ぶようにして、朱里と蒼太が歩いている。朱里はなにやら話に夢中で、時々すごく嬉しそうに笑う。
そんなに蒼太と帰るのが嬉しいのか?
蒼太も蒼太だ。彼女でもない人とキスをして、好きでもない子と付き合って、よく朱里と並んで歩けるな?
僕はたぶんふたりの後ろで、ものすごくふてくされた顔をしていたと思う。
土手の上を歩く僕たちの影が、長く伸びる。夕陽を浴びた川の水は、今日ものんびりと流れている。
僕たちの視線は高くなってしまったけれど、空の色も川のせせらぎも、昔と何ひとつ変わっていない。
「こうやって三人で歩くの、久しぶりだね?」
朱里が思い出したように僕に振り返って、そんなことを言う。
「小学生の頃は、毎日一緒に歩いてたのに」
朱里はやっぱりご機嫌だった。
真っ黒に日焼けして、ランドセルを弾ませながら、ぴょんぴょん飛び回っていたあの頃のように、明るい顔をして笑っていた。
「ねぇ、覚えてる? 四年生の時、学校帰りに蒼太が……」
そんな朱里の言葉をさえぎったのは、蒼太だった。
「昔話は好きじゃない」
朱里の表情が曇る。僕は斜め後ろから、蒼太の横顔を見る。
蒼太は前を向いたまま、朱里のことも僕のことも見ようとしない。さっきからずっと、朱里の話を聞いているようで、本当は全然聞いていない。
そんな蒼太の態度が許せなくて、僕は蒼太に言ってやった。
「そういう言い方、やめろよな」
ゆっくりと蒼太が振り返る。そして僕のことを、見下すような顔つきでつぶやいた。
「じゃあ何? 昔はよかったねぇ、三人一緒で楽しかったねぇって、笑ってろって言うのかよ?」
蒼太の隣で、朱里が泣き出しそうな顔をしている。
「バカじゃねぇの? おれはそんなふうに笑えない」
「蒼太! お前な……」
結局なにも言い返せない僕の前で、蒼太は冷めた表情をする。
「バカらし。おれ、先行くわ」
僕と朱里を残して、蒼太がさっさと歩いていく。僕は行き場のない右手をぎゅっと握って、自分の足元を見つめるだけだ。
「……真尋」
朱里の震える声が聞こえる。きっと、朱里は泣いている。
「昔にこだわってるのは……蒼太のほうだ」
あの夏の日のことを、誰よりもこだわっているのは……蒼太じゃないか。
学校帰りに蒼太を川に誘った日も、こんなふうに肌がじっとりと汗ばむ日だった。