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思ったことなんでも言っちゃう系女子が、異世界転生させてもらえない  作者: 里田悠莉


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1/1

イケメンに囲まれたい人生だった

 ひなが目を開けると、そこは真っ白な空間だった。

「えっと……?」

 右も左も、上も下も、一通り見渡してみたもののそこには何もなく、自分が立っているはずの地面でさえ、あるのかないのかよくわからない。

 ぼんやりした頭で、それでも現状を把握しようと視線を巡らせ、手掛かりになりそうなものを探していると、いつの間にか目の前に人が立っていた。

(あれ?この人、いつからいた?)

 理解できない現象も、なんとなく受け入れてしまう。

 目の前の人物に目を向ければ、それはそれは麗しい男性だった。

 部屋の白と溶け合ってしまいそうな輝くプラチナブロンドの髪は腰ほどまで長く、女性かと見紛うほどに美しく妖艶な顔立ちによく似合っていた。

 だが、その身体はしっかりとした男性のもので、彫刻のように均整が取れ、しなやかな筋肉に覆われている。

 すらりと長い手足を包むのは、たった一枚の白い布。片方の肩をあらわにし、幾重にも重なったドレープが腰から足元へと流れている。大きな布をゆったりと身体に巻きつけただけの衣装だというのにとても様になっている。

 全体的に色味が薄く、真っ白な印象を受けるのに、瞳だけはキラキラと輝く金色だった。

(なんかすっごい神様みたい)

 現実とは思えないほどの美形と向かい合っていると、だんだん意識がはっきりしてきた気がする。すると彼は、優雅な笑みを浮かべて話しかけてきた。

「ようこそ、清らかな魂よ。貴方の善行を認め、その魂を別の世界へ送ってあげましょう」

「異世界転生っ!?」

 ふわふわと夢の中にいるような感覚だったのに、最近よく聞くおなじみのフレーズに一気に意識が覚醒した。

「最近の日本人は話が早くて助かります」

「え!私、死にました!?」

「はい」

 衝撃の事態だというのに、爽やかな笑顔で頷かれてしまった。

「な……なんで!なんで死にました!?私、何して……!?」

 思い出そうとしてもなにも出てこない。朝、家を出たよね?スマホ見ながら歩いてて……で?それで?何があったっけ!?善行?善行って何?

「落ち着いてください、水瀬ひな」

「名前バレしてるー!神様すごい!」

 混乱しすぎて、思ったこと全部口から出てる!

「あなたは歩きながら手元の機械に集中しすぎて、階段から落ちて亡くなりました」

「うっそ!?歩きスマホ死!?」

 歩きスマホは危ないと、あんなに世の中が提唱していたではないか!

 思わず頭を抱えて天を仰ぐ。

 わかっていたのにっ!わかっていたのについっ!ついで死んでしまったバカな私っ!ガッデムっ!悔やんでも悔やみきれないっ!!

「はっ!善行はっ?善行って何ですか!?」

 歩きスマホで勝手に自滅したなら、善行とは何のことだ。バッと勢いよく目の前の神様に視線を戻す。私がのたうち回っているというのに、神様は微笑みを湛え、ひとり冷静だ。

「本来なら、貴方は何事もなく階段を降りることができるはずでした。その場合死ぬはずだった別の魂があるのです。それが、貴方の歩きすまほ?というイレギュラーによって救われました」

(神様スマホ知らないのかぁ~)

 すごくどうでもいいことが頭を過ったがスルーだ私。

「そっか……。私のイレギュラーで助かった人がいるんだね。じゃあ仕方ないか。死んじゃったのは残念だけど……その人を助けられてよかった」

 無駄な死ではなかったのなら、しぶしぶでも納得できるというものだ。

 自分の両手を眺めてみたけど、生きていたときと変わらない気がする。ぎゅっと手のひらを握りしめる。

「いえ、人ではなくカメです」

「カメです!?」

 しんみりしていた気持ちが一瞬で吹っ飛んだわっ!カメDEATHっ?

「カメ、あの場にいましたっ!?」

「はい。ここに」

 頭の中に、あの日の映像がぶわりと流れ込んできた。スマホを見ながら歩く自分を、俯瞰して眺める不思議な映像……。そのそばの茂みに……。

 ほんとにいたわっ!!カメさんっ!

「彼女は本来なら、車道を渡ろうとして車に轢かれるはずでした。ですが貴方が階段から落ちた音に驚き、進路を変え、助かったのです」

 (……。街中にカメ……。なんで……。あ、もしかして、近くの公園の池から?お散歩?お散歩だったの?)

「カメ生は長いですからね。彼女がカメ生を全うし、たくさんの子をなし、善行を積んでいけば来世ではヒトに転生することもできるでしょう」

(カメ生、気になる……。カメはどうやって善行を積んでいくの?てゆーか、なにより彼女って……メスだったかぁ……)

「メスだったかぁ……」

 あっ……声に出た。それも一番どうでもいいことが。

 神様と目が合う。微笑み合う。なんだこれ。……どっと疲れた。こっちの笑顔引きつってた気がするけど、もういいや……。

「あ〜……えーっと、そうだ。別の世界?私、異世界に行くんですか?魔王とか倒さないといけないやつですか?」

 このモチベーションで勇者とかできるかな……。助けてカメさん。

「いいえ、善行を成した貴方に試練の道はありません。貴方の望む世界に送りましょう。なにか希望はありますか?」

 だいぶいじけて俯き加減だった頭が勢いよく持ち上がった!

「希望聞いて頂けるんですか!?じゃあ、痛いことも怖いこともなくて、イケメンに囲まれて幸せになりたいです!」

 真のイケメンに向かって、だいぶ恥ずかしい発言だけど背に腹は代えられない!私の来世がかかってる!

「では世界にたった一人の聖女になり、全人類に崇められる世界にしましょうか」

「規模がデカいっ!」

 あっ!思わず全力でツッコんでしまった。ちらりと神様を見上げるとキョトンとした顔をしている。良かった、怒ってない。

「えっと、すみません!もっと地味でいいんです。世界にたった一人の聖女とか、責任が重すぎて……」

 身振り手振りで私の望む幸せを説明してみる。神様は細かく相槌を打ちながら、興味深そうに話を聞いてくれた。優しいなぁ。

「では、男女比10対1の一妻多夫承認世界などいかがですか?女性は必ず結婚しなければならないようですが、一妻多夫といっても夫がひとりいれば、それ以上は何人でも決まりはないようです」

 お……おおぉ。結婚とか正直まだ考えたことなかったけど、イケメンに囲まれたい欲は満たされそうな世界だ。万が一、やっぱりたったひとりの運命の人と愛し合いたいとなった時、夫がひとりでもOKなのもありがたい。

「で……では、そちらの世界でお願いしますっ!」

「はい。分かりました。ふふ、おもしろい話をありがとうございました。こちらの世界でも元気で頑張ってくださいね」

 私のまとまりのない話を思い出しているのか、神様は声を漏らして笑った。本当に嬉しそうなその顔を見て、私はつい余計なことを口に出してしまった。

 ——これが間違いだった。


「神様はここにずっとひとりなんですか?」


 たぶん私を異世界に送ろうと、上げかけていた神様の手が止まった。

「そうですね」

「へえ。さみしくないですか?」

「さみしいという感情はないですね。ですが、貴方の話は聞いていて楽しかったですよ」

 もう一度、神様が手を上げかけた……のに、私の言葉がそれを邪魔する。

「えっ!私の逆ハーレム妄想楽しかったですか!?」

「ふふ。逆ハーレム?というか、私には男女の関係などはよく分かりません。でも、貴方のイケメン?に対する熱い気持ちは分かりました」

 神様が手を下ろした。

 ——ここで二度目のチャンスを、私は自ら潰したんだ。

「他に女の神様っていないんですか?あなたほどのイケメンならとってもモテそうなのに!」

「おや。私もイケメン?ですか?」

「もちろんですよ!神様ほどの綺麗な男性、はじめて見ました!」

 熱弁である。私は神様の神がかった美貌について恥ずかしげもなく本人に語った。だって、しょうがない。こんなに美しい人が美を認識していないなんて、もったいなさすぎる!

「ふふ、こんなに人間から褒めていただいたのは初めてかもしれません。そもそもこんなに長く、私と必要な会話以外をしたのは貴方だけかもしれませんね。そんなにこの姿がお気に召しましたか」

「もちろんですよ!これから行く異世界にだって、神様ほど美しい人は絶対存在しませんよ!」

 だって神だもん。異世界とはいえ、人間が神を超える美しさを持ってるはずはない。

 拳を握って熱く肯定する。

「……あなたの望みは”痛いことも怖いこともなく、イケメンに囲まれて幸せになる”でしたね?」

「え?はい、そうですけど」

 神様が視線を落として、私の望みを再度確認する。さっき転生先まで決まったのになんの確認?

 朗らかだったはずの場の雰囲気が、ピリリと緊張感を持った気がするのは気のせいか……。

「私が一番イケメンだというのなら、私のそばにいることも貴方の幸せですよね?」

「ほへぇ?」

 神様が私を見た。その瞳には、先ほどまでの事務的な冷静さや温かみはない。あるのは獲物を見つけた獣のような獰猛さだ。

 どっと冷汗が背筋を伝ったのがわかる。

「え……や、やだぁ。神様どうされたんですかぁ?」

 笑顔で取り繕ってみるけど、やばい人にロックオンされた感じがひしひしとする。なんでぇ。

 今まで温和そうに微笑みを称えていたから「美人さんだなぁ」なんて思っていたけど、神様の真顔の攻撃力が半端ない。

 総毛立つような怖気と、妖艶な雰囲気が相まって身の危険しか感じない。

「あ、あの!私、異世界行くんですよね!?心の準備もできたし、そろそろ出発したいかなーなんて……」

 数歩分、離れていた距離が徐々に埋まる。私がじりじり後退しても神様の一歩でその差はなくなった。

 目の前に恐ろしいほどの美形が立っている。血の気が引き、胸の前で握っている両手が冷たくなって震え始めた。

 じっと私の目を見つめていた神様の視線が、その手に移った。そして神様の手が、冷えたそれを温めるようにそっと包み込んで重なった。

 あ……神様の手、ちゃんとあったかい。

 自分の命運を握っている強大な存在に気圧されて怯えてしまったが、神様の優しい仕草にほっと息をついて肩の力が少し抜けた。

「貴方が生きていた世界とは違うのですから、ここも十分異世界では?」

 間近から有無を言わせぬ美しい笑顔で見下ろされ、恐ろしいことを囁かれた……。

「で……でもぉ、私の逆ハーレムがぁ……」

 半泣きで情けない望みを口にする。仕方ないじゃないか、夢だったんだもの。イケメンハーレム。

「増えましょうか?」

「増えられるんですかっ!?」

 あまりの驚きに、怯えとか恐怖とか、すべての感情が吹っ飛んだ!神様ってなんでもありなんだな。

「見た目の変更もできますよ?」

「神様ってなんでもありなんですね!」

 あ、また思ってたことが口から飛び出した。いやでも、こんなこと言われたら誰でもツッコみ入れちゃうよね?

「見た目が違っても、まあ全員私なので意識は繋がってますけどね」

 ……神様がチートスペックすぎる件。見たい気持ちは満々なんだけど、これ頷いたら危険なのではないだろうか。

 まだ見ぬ神様級イケメンズに思いを馳せながらも、私は私の来世を守るのだ。

 気合を入れたはずなのに、気付いたら固く握っていたはずの両の拳は解かれて、神様の両手と重ね合わされ、握りこまれている。

 う……うわわぁ、ときめいたりなんかしないんだからね!

「こ、ここって神様の空間なんですよね!?私みたいな人間が長居しちゃダメなんじゃないですか!?」

 ラノベでよくある展開だ。神様に「もう時間がありません」って言われて、不十分な説明で異世界に放り出されるやつ。

「あなたの肉体は、あちらの世界で亡くなりました。現在は魂だけの状態です。確かに今は、弱いヒトの魂なので、私の存在のエネルギーと釣り合わないかもしれませんが長い時を経て、私と触れ合っていれば馴染んでくるでしょう。なので、ここにいても何の問題もありませんよ?」

 触れ合っ……。顔に熱が集まって、熱い。

「で……でも、こんな何もない、真っ白な空間でずっとなんて……」

 人間はなんの変化もない、真っ白な空間にいると一ヶ月も持たず、気が狂うって聞いたことがある。確かに朝か夜かも分からず、閉じ込められているような状態では平常ではいられないだろう。

 いや、でもよく考えたら神様はここにずっといるじゃん。いつから……ずっと……?ひとりで……?それって、さびし——。

「地球の映像になら、切り替えることはできますよ」

 真っ白だった空間全てが、ぶわりと移り変わった。

「う、わあぁ~」

 色とりどりの花が咲き誇る花畑、輝く夏の海を見渡す白亜の高台、紅葉に埋め尽くされた森の中を走り回る小さなリス達、雄大な山々を背景に輝くオーロラ——。

 流れていく景色は、誰しもが一生に一度は目にしてみたいと思う最高の景色だ。世界の絶景を独り占めしている気分。思わずため息が漏れる。

「本当に大地に降り立っているわけではありませんから、あくまで映像ですけどね」

 オーロラに照らされる神様の顔には変化はなく、静かに微笑んでいるだけだったけど、その言葉にはわずかに寂しさを感じてしまう。

「でも……私……次こそはちゃんと結婚して、子供を産んで、家族を作ってって……思って……」

 私のために神様がこんなにいろいろしてくれてるのに、どうしても躊躇ってしまう。

「子供……は、考えたことがなかったのでわかりませんが。私が家族では、だめですか?」

「で……でも、でも……」

 どうしよう。オーロラバックの神様、神々しすぎて絆されてしまいそう……。

 出会ってからまだ少ししか経ってないけど、神様のことは好感を持ってる。優しいし、イケメンだし、イケメンだし……。

 でもだからって、こんなすぐに一生をかけた判断をしていいの?

 私がぐるぐると考えあぐねていると、神様がふわりとオーロラを消した。そこは何もない真っ白な部屋に戻ってしまった。

「まあ、いろいろ言いましたが私が貴方を異世界に送らない限り、貴方はずっとここにいるしかありません」

「ほへぇ?」

 先程までの寂しそうな表情や懇願は何だったのか。神様はとってもいい笑顔で、ずっと繋いだままだった私の手を持ち上げて、形の良い唇で口付けた。

「ずっと一緒にいてくださいね」

「な……な……な……」

 とろけるような甘い囁きに、蠱惑的な笑顔。最初から神様の手のひらの上だったっ!?

 そう気付いたとしても、あたたかい手を振り払うことができない私には胸の内を叫ぶことしかできない。上を向いて、おなかに力を入れて、できるだけ大きな声で……。

「異世界転生……させてくださーいっ!」

 真っ白な部屋に響き渡る私の心からの叫びは、はじめて聞いた神様のおっきな笑い声にかき消されて、消えていった……。

めでたしめでたし?

本編は一話読み切りのつもりなのでここで完結にしますが、今後思い浮かべば番外編を書きたいなと思っております。

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