海田たすく*新三郎カス人生──堕落編③
だだっ広い駐車場に百人ほどのいわゆる"パチンカス"と揶揄される者たちが、開店を今か今かと待ち望んでいる。このはじめての状態、空間に私は一番という最も好位置にいる。
これはまさに、昔見た光景に似ていた、そう私が一番アドレナリンが噴出した"大きな商談"直前の光景に──
私はさっき前川が教えてくれた
台番号(332)に掛けてみることにした。
私の"カス人生"最初の一歩がこの最高のスタートだということを自分自身に見せつけて圧倒的な『引き運』で勝利を納めてやる。
私は強い決心で私の中にあるトリガーに指を掛けた。
開店の合図であろうか…
BGMが鳴り始めた。
その音が、胸を躍らせ、絶頂する高揚感に誘う。私の直感、感性、天運の内なる羅針盤をグルグルと躍動させる、それをパチンコに憑依させるように──
シャッターが上がり
熱気が渦巻く人だかりを店員の誘導が手早く捌いていく、私は早足でお目当ての島に雪崩れ込む、
実は前日パチンコの島を下見に来ていたのだ。
こういう事もあるだろうという私の昔得た知識がそうさせた。
私は一番という好位置をいかしてなんなく(332)台を確保した。
そして、私は人生はじめての抽選からの台確保を終え、332番台に腰を下ろした。
332番台を打つと決めている──
それでも、私の脳裏に浮かんだ333が、何故か無性に息を潜めている魔物のようにちらつく。
目の端に映る333番台は、ほんの一台の距離しかない。心はそちらへも引かれるのである。
後にこれが、パチンコあるあるだということを知るのだが、
なにしろ、はじめての私にはこのモヤモヤした状況が上手く消化できないのであった。
その人物は手慣れた様にスッと私のとなり(333)に座った。
そして、一言こういった。
「やったぜ!お目当ての333番台取れた」
私はこの一言に過剰に、そして私の精神にダメージを与えるかのように突き刺さったのだ。
私はこの瞬間、隣の人物の異様なまでの圧に飲み込まれてしまった。
私は動揺と緊張が交差する感情のるつぼの中、隣の人物を視界に入れた…
年格好は明らかに私より若く、その表情は自信に満ち微笑していた。
私はこの一瞬で、今まで経験したことのない異常な感情に襲われた。
私が選んだこの道(332)は果たして良かったのか?
さっきまでの圧倒的な自信は今では"ノミの心臓以下"までに成り果てていた。
パチンコの全てがはじめてであるはずなのに、私の何がこうまで私を萎縮させているのか…
『このままでは絶対に負ける』
私はまだ、動作も起こしてもいないこの状況のなか、既に敗北宣言を宣告してしまうのであった。
挫折という言葉は大袈裟なのだろうか、自分で決めた『カス人生の始まり』一番という好位置の抽選、他力ではある『332』という数字を選んだこの道を…
私はどこかでまだ受け入れられないのだろうか、はたまた我が強い"私"という人間を、まだ私自身理解していない部分があるのだろうか…私が追い込まれているこの正体不明の圧力が私を苦しめていた──
頬にうっすら暖かさを感じた。
それは温かいブラック缶コーヒーだった。
振り向き見上げると前川がいた。
私は緊張と重圧が一瞬にして和らいだ…そして目頭にジワりと涙が込み上げた。
前川が耳元で「どうしたんですか?今日は332です。私を信じてください、社長。」
「333が浮かんでたんだよ」
私は前川に素直にそう伝えた。
前川は怪訝そうに眉毛を上げ眼鏡のフレームを直しながら、
「パチンコあるあるですよ、パチンコは直感よりデータです」
瞬時に私の0だったライフが前川の回復呪文により(言葉)100近くに戻った。
私の精神の下振れを引き出すパチンコというものに感服した気持ちのなか、はじめて玉を打ち出した。




