小説 海田たすく*新三郎カス人生──堕落編②
グルグルまわる抽選機のボタンが次々押されていく。
並んでいる人数は私の見た感じで100人くらいだろうか──
この人数が多いのか少ないのかは私には知るよしもなかった。並んでいる客層は、千差万別、若者から、私のような中年、年老いた女性も結構な数並んでいた。
私はこういう"一種異様な空間"に足を踏み入れたのかと思うと、私も一端の『カス』の仲間入りをはたしのだ。
そして、ドキドキが沸き上がって来た。いつもの私ならこの時間は会社で忙しく働いてる時間、もし私がパチンコの抽選に並んだという話を部下などにした場合、部下は私が冗談や虚構の話で"ドッキリ"にでも嵌められたのかと疑われるかもしれない。
それにしてもだ、日本人というのはこういう抽選の時も一切列を乱さないのだなと、変に感心してしまった。
そして、もうすぐ私の番が来る。
グルグルと回る抽選機を私はようやく、ちゃんと確認できた。
そうそれは、ただ押すだけ。そして番号が止まって、その番号が印刷された紙が出てくる仕組みになっていた。
私は"良い番号に止まれと"念じながら赤のボタンを押してみた。
《なんと!見事一番を引いてしまったのだ》
これには、私は大変驚いて「おお!」っと声を上げてしまった…
しかし、回りの人間はほとんど何もリアクションなどはなく、私はこんなものなのかとなったが、驚いて一瞬ガッツポーズをしそうになった自分が馬鹿らしくなりそうになった。
その時、昔部下だった前川保だけが、駆け寄ってきて喜んでくれた。
このとき私は、"昔の私なら人生で一番どうでもいいことにこんな運を使ったと後悔しただろうと"頭の中によぎった。が、前川とその時の興奮を分かち合った。
前川はもう一度念を押して私に言った。
「今日は399のLT機です。社長の引きの良さ流石です。社長絶対332番の新台○○です、有名人気アニメのタイアップ機、一番なら絶対に取れます。私を信じて貰えるなら、その台で一日ブン回したらプラス収支です。」
そう話すと前川は自分の番号が書かれた、場所に消えていった。
ちなみに前川は85番で
お目当ての台は取れそうにもないと話していた。
私は前川の言葉を信じてみることにした───
どのみち、この《一番を生かすことも出来そうにない私だろうから…》
ここは他力で行こうじゃないか!
私の「カス人生、他力も力に変えてみせる」
その瞬間、私は走馬灯の様なものを感じ取って、おもむろに目を瞑った。
そして、私は『333』という数字が瞼の奥にハッキリ見えたのであった...
『333⁉』この数字の意味を私はどう理解すれば良いのか、この時はまだ分からずにいた。
訳が分からず、心が強風の風見鶏の如くグルグル振れる私…もう考えている時間はないのである。
急に現れた『333』とは、はたして台の数字なのだろうか?はたまた、ただの"何もない数字"なのだろうか…
台とすれば『前川のおすすめの332のとなり…』
私はもう考える時間の無い中で"まだ勝負も始まっていないのに"意味不明な選択を迫られていた。
私はこの状況をどう乗りきるのか、私自身にワクワクしていた。
これは、昔経験した大きな商談のあの状況に酷似していた。
こんな、たかがパチンコごときと、何百億との商談が自分の中で同じ価値感だということに気づいた瞬間、私は本来の目的である重要な事に気づいたのだった。
『これは私のカス人生』
「カスなら出す答えは一択」
私はふと自分の中に浮かんだ数字から、"自分の中に蠢く"何かがあることに気がついてしまった。
この『333』という数字の意味を私は開店という、今まさに、迫りくるプレッシャーのなかで素早く思考した。
私の中の逆備給がその数字(333)が私のまだ崩れない堰となっているのだろうと…
ということは、ここは
『前川保』にベットだ!
私はカスになることを目指すことが目的ではあったが、"私なりのカス"に再構築"
しながら"カス"を楽しもうじゃないか。
私はこの思考を考えつく自分自身を捨てたかったのだが、まだそれをできない自分を許したのだった。
抽選の再整列でごった返す喧騒のなかで、思考だけがまだグルグルと、宙ぶらりんに落ち着かなく回っている。「333、333、333」




