十日目-5-
ルドウィクが会談に出かけていったあと。
マリエルは、毛布にくるまったまま、ベッドの中で小さく、丸くなっていた。
胸の奥には、さっきまで一緒にいた人の気配が、まだ熱を帯びて残っている。
その声。
名前を呼んでくださるときの、少しだけ柔らかい響き。
どこか思いつめたような、まっすぐな瞳。
隣に立ったときにふと気づいた、インクと紙の匂い。
まぶたの中で、その表情が何度も再生される。
(はあ────)
小さく、ため息をついた。
毛布の中で、自分の寝巻の裾をぎゅっと握りしめる。
なんの色気もない、実用一辺倒の肌着。
飾り気もなくて、動きやすくて洗いやすいだけの、地味な服。
(……もっと可愛い肌着だったら、閣下は触れてくださったのだろうか)
ふとそんなことを考えて、思わずカッと顔が赤くなる。
ばっ、と起き上がり、両頬をスパン、と叩く。
(不敬────!)
閣下に対して、なんという妄想を。
ぎゅっと、自分の両腕を抱きしめる。
────閣下の、腕の中は。
心地が良くて。あたたかくて。
ただひたすら、優しさだけに満ちていて。
「こんなに……」
ふと、唇からこぼれる。
「こんなに、好きだなんて……」
言葉にした瞬間、胸がぎゅっと苦しくなる。
そんなことを、想ってしまっても、いいの?
……好きになってしまっても、いいの?
身分も家柄も、役職も立場も、なにもかもが違う。違いすぎる。
自分とは、まるで釣り合わない。
(それでも……)
あの、優しいまなざし。
抱きしめてくれたときの、あの暖かさ。そっと触れる手の感触。
(そばに居てもいいと……居て欲しいと、おっしゃってくださった)
その言葉を思い出すだけで、全身のこわばりが優しく、ほぐれていく。
マリエルは、ベッドの脇の机に置かれたままになっていた紙袋に、そっと手を伸ばした。
その中には、髪飾りが入ったままになっている。
ルドウィクが、選んでくれたもの。
あの日は、つける勇気がなかったけれど。
(明日は────つけてみよう)
閣下は、喜んでくださるだろうか。
……そんなことを考えながら、目を閉じる。
マリエルは、静かにまどろみに包まれていった。




