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四日目-2-

 会談は、予定通りの時間に開始された。


 まず共和国のオーシン外相が手を上げ、発言する。

「"前線において、戦闘行為が中断されていることを確認しています。休戦を守っていただいていることをご報告させていただくとともに、帝国の誠実な行動にお礼申し上げます"」

「"こちらこそ、共和国が信義を通していただいたことに感謝いたします"」

 ルドウィクも、にこやかに返した。

 続けて、ロハン首相が手を上げた。

「"それでは、続いて講和に関して話を進めてまいりましょう"」


 首相は後ろの官吏に合図をして、用意をしておいた文書を持ってこさせた。

 そしてその内容を、ゆったりした調子で読み上げた。

「"講和条件として、ラバルナ共和国は以下の条件を提示します。

 ────『一つ、フリジア地域の帝国の統治権のラバルナへの一次的譲渡』"」

 マリエルが通訳を聞かせる。

「なんだと!」

 外交長官はいきり立って立ち上がった。ルドウィクは手で制して、外交長官を座らせた。

「"続けてもよろしいですかな?"」

 オーシン外相が、眉を片方だけ上げて尋ねる。ルドウィクは落ち着いた声で、

「"失礼しました。続けてください"」

 と返した。

 うなずいて、ロハン首相は続ける。

「"『二つ、フリジア地域及び周辺地域からの帝国軍の全撤退と軍事施設の全撤去』"」

 ルドウィクの肩がピクッと動くのが見えた。

 外交長官は、イライラと足踏みしながらじっと聞いている。

「"『三つ、当戦役におけるラバルナが費やした戦費の帝国の全額負担』。

 ……『四つ、ラバルナ軍およびラバルナ人民への被害の全額保証』"」

「ばかな!」

 再び、外交長官が声を上げる。ルドウィクはそれを目で制するが、外交長官は止まらなかった。

「いくらなんでも横暴ではないか!」

「外交長官」

 静かに、ルドウィクは言った。

「まだ条件の提示は終わっていない。静かに」

 外交長官はうめき声をあげながら、押し黙った。

 足踏みの音がだんだん大きくなり、近くにいた官吏が不安そうな表情を向ける。

 ロハン首相はさらに続けた。

「"『五つ、帝国のラバルナへの戦時賠償金の支払』。

 以上の五つを、講和条件として提示するものである。またこの条件は、講和のための絶対条件であり、変更はないものと思っていただきたい"」

 発言が終わった後、ロハン首相は、睥睨するかのようにゆっくりと会場を見渡した。

 しかし、すぐには誰も手を上げなかった。

 外交長官でさえ、顔をゆがめたまま黙り込んでいる。


(厳しすぎる────)

 敗戦処理だ、というルドウィクの言葉が、頭の中で響く。

 ルドウィクのすっと伸びた背中からは、表情も心境も汲み取ることはできない。

 しかしマリエルは、ルドウィクが机の下で握りしめている手が微かに震えているのに気づいた。




 フリジア地域は、ラバルナ共和国に隣接する帝国領土。

 ここで発生した民衆反乱は、領主の圧政に対する暴動から広がった。暴徒の一部は国境を越えラバルナ領まで侵入し、略奪・虐殺事件を起こしていた。

 共和国は、反乱が共和国に波及することを防ぐためという名目で、フリジア領主の要請によって出兵した。少なくとも公的にはそういう理由になっていた。


 本当の狙いは、別にある────。

 この戦争がはじまったばかりの頃。ルドウィクは、マリエルに色々語ってくれたことがあった。

 フリジア地域は鉱物資源の豊富な地域で、南方の海に出られる天然の良港も多い土地。

 山がちな国土で港が少ない共和国にとって、この地域を確保することは列強諸国に対抗する手段にもなる。


「だから、共和国の本当の狙いはフリジア地域そのものだ」

 ルドウィクは、悔しそうにそう言った。

「これを奪われると、帝国は西方への影響力を失う。だから絶対に────」




(そう、絶対に)

 マリエルは、顔を上げた。

 ────閣下のお役に立って見せる。




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