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サトシ先生は妻子を溺愛していない(と本人は言い張る)  作者: 白神ブナ


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9/19

第9話 心が揺れたこと?一度もないですね

 サトシ先生は、職場復帰した。

白金女子学園の校長室で挨拶したあと、職員室でも先生たちに挨拶した。


「今日から、またよろしくお願いします」



 そして、春のやわらかな日差しが差し込む、女生徒たちが待つ教室。

扉を開けて入ってきたのは、約一年ぶりに現場復帰したサトシ先生だった。


その瞬間、教室が一気にざわついた。


「キャーー!」

「帰ってきたー!」

「サトシ先生! まじで推せる!!」

「こっち向いて―っ! サトシ先生――!!」


一斉にわき上がる女子の黄色い歓声は、サトシにとってちょっと懐かしい。

新学期早々、新しいアイドルでも登場したかのような騒ぎに、サトシは片眉をわずかに上げた。


挿絵(By みてみん)


その中でも、ひときわ目立つひとりの少女。

学年でも評判の美少女、月島こはるが、サトシめがけて両手を広げて一直線に走りってきた。


「サトシ先生ーーっ♡♡」


彼女のスカートの裾がふわりと舞い、廊下にいたクラスメイトたちからどよめきが起こる。

しかし……


「おっと、危ない」


サトシは笑顔のまま、体をひょいとかわした。


「えっ――‼ きゃっ!」


バンッ!


こはるはそのままドアに激突した。

そのあと、手で血が出ている鼻を押さえて、ぷくっと頬をふくらませた。


「ひっどーい、サトシ先生。いま、確信犯だったでしょ~」


「ごめんねー。でも、ここはライブ会場じゃないから」


サトシはあくまで冷静に黒板のチョークを取り、さらりと黒板に「Lesson 4」の文字を書いた。


「はい、教科書の94ページを開いて。今日からは本格的に長文読解を始めますよ」


彼の言葉に、生徒たちの黄色い歓声は少しずつ真剣な空気に切り替わっていった。

やがて授業が始まれば、そこにいるのはかつてと変わらない、淡々と教える「名物英語教師」の姿だった。


───


 放課後、職員室。


サトシが戻ってきただけで、教室どころか職員室の空気までどこか華やいでいた。

後輩教師の青柳先生(数学担当・29歳・独身)が、缶コーヒーを片手にぽつりと呟いた。

青柳先生は、サトシの妻、美柑の元担任だった。


「いやあ……サトシ先生が返ってきただけで、学校がぱあーっと明るくなった感じしませんか?」


青柳先生の言葉に、工藤先生がファイル片手に振り返った。


「女生徒の人気、まったく衰えてないよな。それどころか、むしろ増してるかも……」


「ていうか、こはるちゃんとか、完全に“ガチ恋”ですよね」


青柳先生はサトシに、美少女月島こはるのことを聞いてみた。


「そうかな? わたしにはちょっとよくわからないけど」


サトシは相変わらずコーヒーを一口飲んだだけで、そのままノートPCに目を落とした。


「興味なしか……サトシ先生って……ほんと、美柑ちゃん、ってか、奥さんのこと、好きなんですね」


「いや、そんなことはありません」


サトシは、すかさずキッパリとした否定文を返してきた。


「えっ!? いやいやいや! ちょっとくらいデレていい場面でしょ、ここ!」


青柳先生はサトシの態度にムッとして、立ち上がった。

周囲の先生たちもクスクスと笑っている。

特に工藤先生は、下を向きながら必死に笑いをこらえていた。


「だって、女子校であれだけ可愛い子に囲まれてたら、普通の男ならクラッとしちゃうって! ちょっとくらい……ほんのちょっとでも、心が揺れたこと、あるんじゃないですか?」


サトシはしばらく沈黙し、それからゆっくりと顔を上げた。


挿絵(By みてみん)


「……一度もないですね」


それだけ言うと、立ち上がって、颯爽とコートを羽織った。


「では、お先に。娘のお迎えの時間なので」


バサッとコートの裾をなびかせて、まるで戦場をあとにする騎士のように、サトシは職員室を出ていった。

その後ろ姿に、青柳先生はぽかんとしながら男として惚れた。


「……かっけえ。あの人、やっぱ伝説だわ」


「"世界で一番家に帰るのが早い男"、決定だな」


工藤先生は、サトシの復帰を一番喜んでいた。

工藤先生が頼れる男、サトシが帰路につく背中を見つめていた。

サトシの背中には、女生徒の黄色い声よりも、同僚の嫉妬よりも、なにより……

「娘と妻に早く会いたい」という強烈な意志が見えていた。


「青柳先生も結婚すればわかりますよ」


「え、読心術?」


「え?……相手がいるんですか?」


「さあ……」


工藤先生は青柳先生の挙動不審な目を見て確信した。


(こいつ、何か隠してやがる。相手は生徒じゃないだろな……まさかな)


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